13番 木田 新一
木田 新一:卓球部のフォレスター三人衆。
大阪からバスで三時間弱。淡路島の対岸、徳島県鳴門市にある美術館に、彼はいた。
これといって美術に興味はない彼がそんなところまで行った理由、それは「両親の付き添い」であった。美術好きの両親に「荷物係でついてこい」と言われ、嫌がると「小遣い抜き」と横暴なことを言われ、モチベーションが上がらぬまま渋々ついていくことになった。
「いや、あそこはすごいぞ。見てきて損はない」
一応、同じクラスの美術部員に確認したところ、そんなメッセージが返ってきた。実際に美術館を目の当たりにし、クラスメイトの言葉が嘘ではなかったことを知った。
山の中に作られた美術館の規模と、美術に疎い彼でも知っている作品群。それらは原本ではなく「陶板名画」という複製らしい。だが、そんなのはささいなこと、とにかく「すごい」の一言だった。
名だたる作家の名作が数多く展示されている、そんな中、彼が心を奪われたのはルネサンス期の作品だ。
女性の裸が、いっぱいだった。
怒ってはいけない。
呆れてもいけない。
彼とて思春期真っ只中の男子高校生。美の巨匠たちが命をかけて追求し、全身全霊を込めて書き上げた「官能美」を目の当たりにして、平静でいられるわけがない。
平静でいさせてたまるか、どうだこの美に酔い痴れろ。
人類の美術史に名を残す巨匠たちの容赦ない攻撃。「これが好きなんだろ?」「わかっているさ」「私も好きだからな」と巨匠たちが語りかけてきて、彼の魂を蕩かしていく。
い、いけない。
彼は巨匠たちの誘惑に必死で耐えた。ネットに溢れるエロ画像なんてゴミとしか思えない、ハイレベルな官能美。「ネットのエロ画像をゴミと思った俺って、ちょっとすごいんじゃね?」とチラリと思ったが、慌てて首を振って煩悩を追い出した。
「あ、危なかった」
どうにかルネサンスの作品群をくぐり抜け、続く印象派の画家による波状攻撃も耐え切り、彼はエレベーターに飛び乗った。「大丈夫だ、俺は惑わされなかったぞ慎二」となぜか同級生(男)に心の中で胸を張り、彼は最上階に到着したエレベーターを降りた。
この階には、女性の美を全面的に押し出した裸婦画はなさそうだった。
「うむ、勝ったぞ」と謎の勝利宣言を心の中でしつつ、彼は歩き出す。しかしそんな彼の前に、衝撃的な一枚の絵が現れた。
「こ、これは……」
ルネサンスや印象派の画家のような「ばーん」「どーん」ではなく、「しれっ」とした感じ。だけど「美」を追求したルネサンスや印象派の画家とは違い、こちらは「淫美」とでも表現したいものを追求していると感じ、彼は心を鷲掴みにされてしまった。
「ポール・デルヴォー……」
彼は作者の名を心に刻み込んだ。「すまない、慎二」となぜか同級生(男)に心の中で土下座した後、彼はスマホで何枚もその絵を写真を撮り、「にへ」っと笑ってその場を去った。
これがきっかけとなり、彼は後に仲良しの同級生(男)から「芸術系ムッツリスケベ」と呼ばれるようになる。
歴史に名を残す美の巨匠にとって、思春期真っ最中の男子高校生などチョロイものだった。




