第五十四話 1914.12.1-1914.12.8 航空機の配備状況
秋頃に採用された軍用機のその後です。
1914年12月上旬、早い物で今月で1914年も終わりだ。
西部戦線は塹壕を挟んで膠着してしまい、何度か行われた仏軍の塹壕突破の試みは全て失敗に終わっている。
英軍は、新たに到着した部隊を受け入れた事もあり再編成中で、大きな動きには出てい無い様だ。
しかし英軍は、エーヌ川での装甲車両による独軍塹壕陣地突破の成功で機械化部隊の運用に自信を付けた様で、戦前に俺が持ち込み英軍が検討して準備した事が無駄ではなかったと証明された事になる。
お陰で、更にうちの会社の扱いが良くなったことは言うまでもない。
そして英軍は、独仏両軍の旧態依然とした歩兵の大量投入による突撃によって産み出される夥しい犠牲を横目で見ながら、装甲部隊の集中運用で戦線に突破口を開いて一気に西部戦線を押し戻す機会を待っている様だな。
英軍主導でそれを行えないのは、如何にBEF(英国海外派遣軍)の規模を大幅に拡大したとはいえ、仏軍に比べればそれでも小規模過ぎるので、やはり事を起こすなら仏軍の大規模攻勢に合わせるしかないのだろう。
この世界の塹壕戦で新たに活発になったのは、敵側の陣地や部隊配備状況などを把握するための偵察機を活用した偵察飛行。
俺の前世の記憶では、第一次大戦ではあまり偵察機の齎す情報は活用されて居なかったような気がするが、やはり基本動くことのできない気球よりは飛行機を使った方が偵察能力が高い、とこの世界では判断されたのだろう。
この時代、世界一の偵察機用のカメラ機材を持っていたのは光学機器の性能で群を抜いていたドイツ。次によく使われたのは英国製らしい。
俺もドイツ製のカメラを幾つか持っていて、また仕事柄英国のカメラ、レンズ等のメーカーとは取引関係にある為、色々とサンプルとして英国製のカメラ等も手元にあるが、やはりドイツ製の方が性能が良いのは一目見ればわかるな。
閑話休題。うちの会社の開発した機体が習熟飛行や実戦に向けての調整を経て、ぼちぼち前線に配備されだしている。
この時期の英国の軍用機はフランス製のル・ローヌエンジンを搭載している機体が多く、一方でうちの自社エンジンは他社より馬力があり性能が良いものの、他社に比べると新参なので認知度が低くあまり信頼されていない。
そのため、サンプル製品を各社に出荷はしているが、今の所他社の量産機で採用されたケースはない。
そういうのもあるのか、英軍の採用している偵察機で一番採用数が多いのは王立のRAF製のF.E.2であり、その次がブリストルのスカウトである。
うちの会社の三種の軍用機はそれぞれが英軍に採用されているが、現時点で引き渡されている機数は三桁に届かず、やはりこれまでの軍との付き合いが短くてシュナイダーカップ等の実績がまるで無いというのが響いているのかもしれないな…。
シュナイダーカップには、戦争が終わったら参加するとしよう。
但し、英軍の主力戦闘機であるビッカースのガンバスことB.F.5には模擬空戦でブロッシュの戦闘機が圧勝しており、B.F.5は史実より英軍での使用数はかなり少なくなるかもしれないな。
うちの会社の軍用機が本格的に実戦投入されるのは来年になるようで、今の所はデハビラントの偵察機が試験的に使われている状況だそうだ。
そのデハビラントの偵察機だが、現在フランスに展開している英軍偵察機の中では唯一まともな武装をしている機体なのだが、それが最近ドイツの偵察機を追い払うという成果を上げたらしい。
現在英軍は偵察機として採用しているF.E.2の武装化を進めていて、更に前述のB.F.5の実戦配備を進めているが、どれもエンジン配置がプッシャー式(推進式)で、ツーシートの前部座席に銃座を持つという似通ったデザインをしている。
英軍は、デハビラントの偵察機の今回の成果を見て方針を変更する様で、うちの機体の採用数が増える可能性が高いようだ。
デハビラントの偵察機が実戦で成果を上げ、ブロッシュの戦闘機が高評価を得ている一方で、フェアリーの爆撃機は機体性能は悪くないと思うのだが、肝心の地上目標への爆撃による効果が英軍の想定程の成果が出ておらず、やはり50kg爆弾をばら撒く程度では効果が薄いのだろうか。
前世でも第一次大戦で爆撃機が本格的に使われだしたのは割とあとの方だったと記憶するから、フェアリーの爆撃機が本格的に使われるのは、まだまた先なのかもしれないな。
今の所英軍での実戦運用は偵察機のみです。