目前の勝利に
「孝太君は下がっていて!」
「あ、ああ、もう無茶はすんなよ」
「ええ。ありがと、私の主様」
孝太と少女は互いに見つめ合いながら小さく頷くと孝太は少女の後方へと下がっていった。
『ハッ、非力な人間が増えたからと言っても状況は変わらないぞッグレモリー!』
「三下が公爵の私を呼び捨てにしないでくれるかしら?」
ダイモンはギリッと表情を歪ませ少女を睨んだ。
『クッ…まだ俺を三下と言うかァーーッ』
赤い瞳をギラつかせて少女に襲い掛かる。
しかし、一直線に少女へと飛び掛るダイモンの目の前に突如札が飛んで来て炸裂した。
『グッ…!?』
ダイモンは右手で顔をかばいながら地面に落下する。
「私も居るのじゃよ?よそ見しないでくれるかの?」
右方向で札を放った姿勢のまま鈴音がニヤリと笑う。
炸裂を受けたダイモンの右手から煙が立ち込めていた。
『貴様…俺の邪魔をするかッ…ッ!?』
鈴音に視線を向けていたダイモンの背後から鋭く風を切る音が近づいて来た。
ダイモンは直前に察知し、咄嗟に上へと飛ぶ。
ブゥンッ…
ダイモンが居た場所に鋭い剣先が空を切った。
「チッ!また避けられたッ」
「馬鹿明日香ッ!もっと気配を消せんのかッ!?」
「う、うっさいわねッ!」
明日香と鈴音の短い言い争いを他所に、見計らっていたかの様に黒紫の焔がダイモンを襲う。
『グッ…ガァアアアアアアッ!!』
ダイモンは焔をまともに喰らい後ろへ大きく吹き飛んだ。
(当たった!?)
次弾を放とうと構えていた少女の動きが止まる。
『ウ…グッ…、おのれえ…ッ』
ヨロヨロと起き上がるダイモンが少女を憎憎しく睨み付け呻く。
すぐさま左右に展開する明日香と鈴音だが、ダイモンはそれに意を介せず少女へと走り出す。
その様子を見て少女は少し考えてから声を上げた。
「〝明日香さんッ!そこですッ!!〝」
「ふえっ!?」
『クッ!?』
「!?」
ダイモンはその声にすぐさま反応し明日香の方へ視線を向ける。
だが、視線の先に居た明日香との距離は結構離れていて、急に振られた明日香が戸惑ってバランスを崩していた。
その一瞬の隙を鈴音は見逃さなかった。
ドスッ…
『グァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
鈴音の対魔専用の短剣がダイモンの背中に突き刺さる。
「背中がお留守じゃよ?」
鈴音はそのまま左手で印を結ぶ。が、それより早くダイモンの左手が鈴音の右手ごと短剣の柄を掴み強引に引き抜いた。
「しまったッ」
鈴音の表情が歪む。
「鈴音ッ!」
明日香が慌てて駆ける。
『人間がッ…小賢しい真似をッッ』
ダイモンは鈴音の腕を掴んだまま振り返り大きく右腕を振りかぶった。
「ぐッ!?」
避け切れないっと咄嗟に感じ取った鈴音は印の型を防御結界へと変える。
しかし、魔力を上げたダイモンの攻撃を喰らえばいくら防御壁を展開していても命を落とす可能性は十分にある。
鈴音は死を覚悟する。
ダイモンの振りかぶった右腕が鈴音を襲う。
明日香は必死に走るもまだ距離が離れていて間に合わない。
「鈴音ぇえええええええええええええッッ」
…だが、鈴音の断末魔の変わりに響いたのはダイモンの凄まじい絶叫だった。
ダイモンの右腕は鈴音に届かず、更に柄を握る手も緩み開放された。
明日香は地面に落ち、しばし放心する鈴音を即座に拾い上げその場から離脱する。
振り返る明日香が見たのは、ダイモンの胸に深々と突き刺さった少女のレイピアだった。
「カノジョッ!!」
明日香が少女を見やると、弓矢を放った姿勢のままの少女が映った。
その表情は少し驚きを残しつつも冷静さがにじみ出ていた。
(やっぱり、そうだッ!)
少女の予想は確信へと変わった。
魔力を得て強大になったとはいえ、〝ダイモンは戦いに関してズブの素人〝なのだ。
よくよく考えてみたら分かる事だ。
今まで下級悪魔だったダイモンはバトルに一切参加しなかった。
他の悪魔を騙し、誑かせ、美味しい所だけ掻っ攫っていた悪魔なのだ。
だから、こんな初歩的な戦術に簡単に騙されるのだ。
いきなり強大な力を手に入れたからと言っても根本的なところが素人のままじゃ強い訳がない。
悪魔にも生まれながらにして強大な魔力を持つ者は出てくる。
しかし、そんな悪魔ほど長く生き延びられない。
最大の理由は内面が未熟であるからだ。
ある程度は力で押せるが、戦術の前では脆く崩れやすい。
力、『精鋭には数と策略で当たれ』は基本的な戦術だ。
グレモリー家が公爵で居られるのは強大な魔力を持った子を産み、膨大な知識を教え込んで来たからだ。
『天才を産み、秀才に育て上げる』
こうした家訓を繰り返し行って来たからグレモリー家は魔界で強大な一族たり得るのだ。
強くなる為には反復して経験値を積むしかない。
そこに天才と凡才の差が出るだけだ。
最初っから努力無くして〝強さ〝を得る事は出来ない。
「勝てるッ」
少女は明日香の方を向き軽く頷く。
それを見た鈴音には伝わった。
「なるほど、そういう事じゃな…」
「鈴音、大丈夫?」
「うむ、ありがとう明日香」
明日香の差し出した手を握り鈴音が起き上がる。
「明日香、ヤツは戦いに慣れておらんようじゃ」
「えっ!?」
明日香の顔が驚きに変わる。
「じゃから、策を用いれながら攻撃するんじゃ」
「なるほど、それでさっきカノジョが無茶な指示を出したのね…」
明日香はニヤリと笑い少女の方を見やる。
少女もニコッと笑いながら明日香にウィンクで返す。
「相変わらずムッカつくわね~」
明日香は口の端を吊り上げながらフンッと鼻で笑った。
急所を突かれ膝をついて蹲っていたダイモンがゆっくりと立ち上がる。
『ゥゥゥゥゥ……』
低い唸り声を上げながら少女の方へと向く。
「……、怒りで理性が飛んだか…」
『ァアォオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ』
ダイモンは雄叫びを上げると周囲の地面や木々がビリビリと震えた。
すると、ダイモンの姿がみるみると膨れ上がり犬の姿へと変えて行く。
「フン、正体はコボルトか。小物もいいところね」
少女は少し姿勢を落とし、ダイモンの突進に備え横にある巨木の前まで移動した。
『ヴァウッッ!!』
予想通り、ダイモンは少女の方へ一直線に突進して来た。
「くっ、速いッ!!?」
ダイモンと少女との距離は十分にあったが、一瞬で詰められる。
少女は斜め後ろに飛び、木を蹴って上空へと避けた。
直後ダイモンは木に激突し、メキメキと音を立てて巨木が倒れ始めた。
ダイモンは倒れる巨木をそのままもの凄いスピードで駆け上がって来た。
「くっ!?」
少女は倒れていく巨木を蹴って近くの木の上に飛び移る。
すかさずダイモンも少女を追い巨木を蹴る。
ダイモンの手が少女の足に迫った時、ダイモンの目の前で爆発が起こり煙が立ち込めた。
爆発に怯み、ダイモンは地面へと着地する。
しかし、着地しても煙は晴れなかった。
『グルル…』
ダイモンは鼻息を荒くし辺りを見回す。
いつの間にか辺り一面霧に覆われていたのだった。
「ふふっ、アンタがカノジョに気を取られてる間に結界を貼らさせてもらったわ」
辺りに反響しながら明日香の声が響く。
『…ッ!?』
突如、頭上から落下してくる影にダイモンは反応する。
『グガァアアアアアアアァゥッ』
落下してくる影に右手を打ち放った。
バキィイイイイッ…
砕ける影は人にしては感触が硬すぎる。
目を凝らして見ると、そこには砕けていく巨大な木の枝があった。
「じゃから、初歩的なトラップじゃよ?」
落下して来た巨大な木の枝、その向こうの木の上に立っていた鈴音が呟いた。
鈴音に気を取られていたダイモンは眼前に迫っていた影に反応出来なかった。
「くぉんどぉこそぉおおおおおおおおおぉッ!!」
気合の入った明日香の雄叫びと共に鋭く放った短剣の剣先がダイモンの右目を捕らえた。
『グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアァアァアアッッ』
今までに無かった程の大きな悲鳴がダイモンの口から放たれた。
「よしっ!」
明日香はすぐさま短剣を手放し、ダイモンとの距離を取った。
「ナイス!明日香さんッ」
霧の向こうから少女の賞賛の声が上がる。
明日香の表情もわずかに綻ぶ。
右目を押さえ、よろめきながらダイモンは再び地面に膝を着いた。
右目を潰され理性が戻って来たようだった。
『ウゥ…グググ……』
そして、見る見るうちに身体は萎み、元の人型に戻った。
『ちくしょう……』
ダイモンは地面に拳を打ち付け呻いた。
『馬鹿にしやがって…いつも俺を馬鹿にしやがって…』
地面に打ち付けた拳がワナワナと震えだす。
『チキショォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』
ダイモンは空を仰ぎ叫んだ。
その叫びは夜空を貫いて行った。
するとダイモンの周囲に風が巻き起こり、次第に強風へと変化してゆく。
「なッ、なにこれッ!?」
明日香が叫ぶ。
立って居られない程の風が巻き起こり、周囲に展開していた霧が一瞬でかき消されてしまった。
「まさか!自然界の力を操るなんて魔神クラスよ!?そこまで魔力が増大していたなんてッ」
ふと、少女は孝太が心配になり振り返ってしまう。
気の幹に必死にしがみ付き強風に耐える孝太が居た。
そして、その場面をダイモンが目にしてしまう。
ダイモン自身人間ごときの存在なんて気にも留めていなかったが、少女のその行動が弱点をかばう行動に見えたのだ。
明日香と鈴音も強風で動きを封じられている。
考えるよりも先にダイモンの身体は動いていた。
「いけないッッ!!?」
ダイモンのその行動にいち早く察知した明日香が叫ぶ。
遅れて少女もその事態に気付く。
そして少女の心臓は跳ね上がった。
ダイモンが、一直線に孝太の元へと向かっているのだ。
「孝太君ッ!!?」
血の気が引いた少女の悲鳴にも似た声が響く。
瞬時に少女も孝太の元へと駆け出す。
しかし、ダイモンの動きは少女よりも速かった。
少女が孝太の元へ辿り着くのと同時にダイモンも辿り着いてしまう。
(間に合わないッ)
少女の頭の中にそんな声が響く。
それでもなお、少女は駆け出す足を止めなかった。
そして……
ザシュッ………
孝太は何が起こったのか分からなかった。
霧が立ち込め状況を把握出来ていなかった所に突然巻き起こった強風に煽られ、木の幹にしがみ付いていたら突如目の前が暗くなって風が止んだのだ。
孝太が閉ざしていた瞳をゆっくり開くと目の前にはグレモリーが立っていた。
グレモリーは孝太を見つめ優しい目で見つめ微笑んでいた。
「グレ、モリー?」
グレモリーは無言のまま、口元から一筋の血が流れ出した。
そこで初めて孝太は違和感に気が付く。
孝太をかばう様に広げた両腕の真ん中、その胸からもう一本の腕が生えていた。
孝太は一瞬硬直してしまう。
(違う、これはグレモリーの腕じゃない!)
孝太はすぐにグレモリーの背後に立つダイモンの存在に気が付く。
そして、孝太は理解する。
グレモリーの背後からダイモンの腕が貫いていたのだ。
孝太の瞳が絶望に染まり、そして大きく息を吸い込んだ。
「う、うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ」
◇ ◇ ◇
【キャラ一覧】
翁 孝太
★本物語の主人公。強力な女系霊媒師の家系の末っ子長男として生まれる。霊感などの類は一切ない平凡な高校生。
撫子原 美雪
★孝太の恋人。女子陸上部のエースで周囲からも期待されている。孝太にベタ惚れ。
琴宮 詩織
★悪魔狩り師、琴宮三姉妹長女。保健医。妹達が居る前ではしっかりな姉をやっているが、根はのんびりやさんらしく孝太とふたりきりの時は間延びした口調になる。日本史に出てくるお姫様みたいな雰囲気だが、服装はかなり艶やかで挑発的。対悪魔戦では基本後方支援・作戦立案担当。
琴宮 明日香
★悪魔狩り師、琴宮三姉妹次女。孝太と同じクラスに転入。孝太から悪魔の気配がする為、よく行動を共にする。対悪魔戦では猪突猛進の近接タイプ。
琴宮 鈴音
★悪魔狩り師、琴宮三姉妹三女。1年生。ちっこくて可愛い声なのだが喋りが年寄りという特徴的な女の子。対悪魔戦では中間地点から前衛との連携攻撃タイプ。
グレモリー公爵
★ソロモン72柱の魔神の1柱にして地獄の26軍団を従える公爵家の一族。幼少期に孝太と出会い誓い(約束)を立てる。再び孝太と再会する為人間界へと戻って来た。
☆その他☆
谷津 優介
★孝太とは大の親友で幼なじみ。孝太と同じクラスで孝太と飴玉交換するのを日課にしている野球少年。
悪魔
★異世界から突如現れ、人間を喰らうモノ。肉体はあるが、人間の精神を乗っ取ったり弱みに付け込んで魂を供物にして契約を持ちかけたりする。契約時や獲物を襲う時以外直接人間に姿を現す事は無い。
翁 婆様
★遥か南国の島の王家に従っていた由緒ある霊媒師一族の長女。寺の住職である爺に見初められ嫁ぐ。現在は神殿の奥に篭り、その姿は翁母と翔子にしか見る事が叶わない。謁見の際は簾越しにしか話す事しか出来ず、孝太も幼少期以降は簾越しでしか会った事がない。実家一族とは絶縁状態である。
翁 母
★孝太の母で霊媒師巫女。言動が若く、思春期真っ只中の息子とも良好な関係を維持している。孝太には美雪推し。
翁 父
★一般のサラリーマン父。厳格そうに見えるがだらしない一面が。孝太には明日香推し。
翁 翔子
★孝太の姉。霊媒師巫女。超ブラコン。現在は冒頭の方で孝太とのメールのやり取りをしたのみで、まだ1回も登場してない。
愛する弟の為にきっと登場してくれるハズ?




