第32話 勉強に……なりました……
のんびりと年長者三人で話している間にも訓練場からは派手な叫び声をあげながら走る二人が見える。いやー、若い子は元気が一番だねー。出来たばかりのローブ一式で走るメルナはともかくドレスのリーシュ様は大変そうです。裾のさばき方とかやっぱり慣れないと難しいもんなぁ……。
「ひいぃぃっ!リーシュ様っ!だ、大丈夫ですか!」
「ぜぇはぁ……だ、だい、じょう、ぶっ……ですわ!この蛇って足を遅くさせたりできないのかしら!?」
「魔力でっ……できた炎の蛇で、すし……ちょっとやっ!そっとじゃ干渉できる気がしません!」
「一か八かですわ!轟き流るる蒼き水っ!蒼き飛礫よっ敵を撃て!氷の息吹っ!」
ぼしゅっ!
……キシャーーー!
『ひいいぃぃぃ!?』
「怒った!?あの蛇っ!怒っちゃいましたよ!」
「うえぇぇーん、ごめんなさいー!そんなつもりじゃなかったのにぃーー!」
追ってくる炎の蛇に氷を打ち込んでさらに追いかけられる二人を眺める。いやー、リーシュ様惜しいな~。実のところそんなにいつまでも逃げ回る必要もないのだ。魔術の勉強として、って言ってるのでもちろん敵を消滅させるというのも有りだ。たださっきの氷ではちょっと弱すぎる。やるならちゃんと倒しきれる魔法を選ばなくてはいけない。
「で、ミルどうする?もう少しで三周だけどまだ行っちゃう?」
「そうねー、このまま走ってもただ普通に走るだけになっちゃうし一旦止めよっかー」
「おっけー。じゃあこの辺まで来たら終わらせますか」
キシャーーーー!
『きゃーーーー!』
頑張れ若者。
――しばらくおまちください――
チーン。マラソンタイム終了。
ぐったりと荒い息をしてへたり込む二人を前に指摘をいくつか。
「ほんとにただ体力作りのためだけのマラソンだったなぁ、お前ら……」
「ほんとねぇ。魔術を使う前提で始めたのに筋力向上以外に魔法使ったのが一回だけっていうのが魔術師としてダメダメね~」
「ぜぇぜぇ……ま、魔法、使って良かった、んですか……」
「ちゃんと対応できる魔法を使うなら問題有りませんわ。そもそも今日は魔術の授業でしたでしょう?途中でリーシュ様が一度使いましたがあれでは見るからに火力が不足していましたわ」
「はぁはぁ……もっと、火力があるものを、選ばないとだめでしたか……」
『魔術は場にあった威力と効果を見極めて使うべし』
私とリメイの声がハモる。学院で中級に進みギルドで依頼を受けることになると耳にタコができるほど言われる言葉である。そして何よりも真実だ。一瞬の判断の迷いや間違いが命の危険につながることもある。個人の怪我で済めばいいほうだがチーム全体の命に係わることもある。
「たとえば先ほどであれば追ってくるものを消滅させるつもりならリーシュ様が選んだ氷の魔法の上位で対応できます。ですが足を遅くするだけであれば風の魔法や壁を作るような魔法で対処する方法もあります」
「風の壁にするか水の壁にするかはお好みですけどね。せっかく二人いたので両方を合わせるというのもいい手段ですわね。魔法を使った相手を考えて魔力が上回れば魔術そのものに干渉して消滅させることもできますわ。どれを選ぶにしても相手を正しく理解することが必要ですわ」
学院でも中級に上がってギルド登録が終わった人たちは耳にタコができるほど聞かされるのだ。学院としては教育のために生徒を預かっているので生徒の身の保証が第一になる。しかし同時に実践であれば命の危険があることも否定できない。生死の境界線に触れていかに自分の力をつけて生に近づけることができるか、受ける際にその境界を見極めることができるかがカギになる。あまりに無謀な受け方をしていれば学院からの指導や補助が付くらしい。……私のチームは付いたことがないので実際には分からないが。
「魔法を使うことに限らず一瞬の判断の間違いや迷いで命を落とすこともあるわ。だからいつでも全力で最善と思う手段を取るように!あ、でも力尽きて倒れるような配分はだめだけどね。無事に帰って報告するまでがお仕事だからね」
『勉強に……なりました……』
力尽きて崩れる二人に冷たい水を渡しながらまだまだこれからだからねぇ、と苦笑するのであった。
ちょっと短かった…。




