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第10話 ちょっと村まで行ってくるわね

「レマ?いる?」


天気が良くて暖かいならいるかも、と思い火の魔霊に声をかけるとぽんっと空中に火花が散って釣り目がちな小さな女の子の魔霊が現れて飛びついてくる。


「わっ!レマ危ないから!熱いって!!」

「魔霊!しかもこの前のと違うやつだし!?」

「えっ?妖精……さん??」


喜んだり怒ったりするとその性質ゆえに火花をまとってしまう火の魔霊レマ。感情がはっきりしているので賑やかで楽しいんだけどこれがねぇ……

初めて魔霊を見たのかメルナは目を丸くして見ている。驚きと姿の可愛らしさに震えは止まった様子。


「ん。火の魔霊のレマよ。ちょっと感情が高ぶっちゃうとさっきみたいに火花散らしちゃったりするけど基本はいい子だから。レマにちょっとお願いがあるの。悪い奴倒してくるからこの人たちをしばらく守っててくれる?」

「さっきの火花は攻撃じゃなくて喜んでたのか……まぁ分かりやすいのはいいことだ、よな?って……な、なんだ!?」


私の言葉にコクコクと頷いていたがふと近くにいたライルに気づいて飛びついていく。


「あら、ライル。懐かれたわねー。火の相性がいいからかな……?」

「妖精さんは魔霊さんでレマさんっていうんですかー。かわいいですねぇ。よろしくお願いします」


メルナからも少なくはない魔力を感じているようでレマが飛んで行って頭を撫でている。


「メルナも魔力が多いから気に入られたみたいね」

「え?魔力って魔法を使える人しか持っていないものじゃないんですか?」


きょとんとしたメルナの言葉に私とライルは顔を見合わせる。一般論で言うなら魔力をまったく持たないという人はほとんどいない。


「ルイーズの村は魔術師もいなかったの……?それなりの規模の村だから使う人も多いんじゃないかと思ってたんだけど」

「いいえ?魔法が使えるのは村の魔法使い様一人だけです。その方が魔法が使えるのは魔力を持つ特別な人間だけだって言ってたのでみんなそう思っていたんですけど……。特別な力が必要になるとその魔法使い様のところにみんなお願いに行くのが普通でしたよ?」


頭が痛くなってくる……話を聞くと少なくない謝礼を要求されるので村では魔法はほとんど発達していないしみることもなかったらしい。

正しい情報が行きわたっていない為、時折こういった問題が発生する。ルイーズの村はもっと発展してもよさそうなと思っていたらこんな問題があったとは……


「ライル……地方での教育ってもっと力を入れたほうがいいと思うわよ?地方の視察が足りてないんじゃないの……」

「さすがに城下くらいしか好きには出歩けないんでな……」


ちょっと申し訳なさそうにメルナを撫でるライルと不思議そうな顔をして首を傾げてレマを抱くメルナ。かーわいい。妹がいたらこんな感じかしら。


「まず、メルナ。魔力はほとんどの人は微量であれ持っているわ。簡単な魔法は誰でも使えるの。魔法について学んで今まであるものを使う人を魔術師、って言うわ」

「えぇ!?そうなんですか!?じゃあお姉さんは魔術師さん?」

「あ、自己紹介がまだだった……。私は王都から依頼を受けて調査と討伐に来た魔導師のミルです。そっちの付いてきたのはライルね」

「魔導師、さんですか……魔術師さんとは別なんですか?」


驚いてはいたがしっかり聞き分けている。なかなか頭の回転は速いみたいだ。

魔術師は先に説明したとおり。魔導師は魔術を使えるようになり、さらに魔法についての理論を理解し新たに魔術を作ったりもする。基本的には自分たちが使いやすいように改良というパターンが多い。

どちらにしても基礎が出来ていないと改良するつもりが暴走といったことになりかねない。魔導師になるにはいくつかの試験があってそれらをクリアしなければ名乗ることもできないのだ。

まぁ一般の人たちはそんなに細かく分けて呼ばないので先ほどのメルナのように魔法使い、と一まとめで呼ぶことが多い。


「そんなわけだから私はちょっと村まで行ってくるわね。何かいてもちょちょいと倒してくるから大丈夫よ~」


とおどけてウィンクを一つして走り出す。魔力を全身に行き渡らせるように調整し自分の体を強化する。




遠くから見えている村の状況は実はあまり良くないかもしれない……。先ほどの話を聞くと村の人たちは自分たちが簡単なものですら魔法が使えることを知らない。

ゴブリンは火があまり得意ではないが魔法以外で火を起こそうと思えばそれなりに手間がかかるので火で追い払うことも出来ないかもしれない。さっきのを考えるとそもそもゴブリンの弱点といった基本的な情報ですら知っているだろうか……


「情報の共有が出来ていないっていうのは困るわね……」


村が近付くにつれ焦りは加速する。村に魔法が使える人は一人。しかもそれを嵩に着て私腹を肥やすような奴がまともに村を守っていると思えない……。思わず舌打ちが零れる。

走りながら近付く村を観察する。入口……門はあるが人がいない。村の中にゴブリンが現れて戦力になる人はみんな向かったのだろう。ゴブリンは単体であればそんなに脅威ではない。ちょっと怪力ではあるが自衛団を作っているならみんなで当たれば倒せないことはない。

しかし数が多くなると……冒険者や特別な訓練でも積んでいない限りは厳しいことになるだろう。今使っているような魔力による身体強化も魔力を意識出来ればこそ使えるもの。術ではないが日常の生活でも便利なものである。

強化も出来ない村人たちがゴブリンの群れと戦ったとして、被害をどれほどに抑えることが出来るのか……

いい予感などまったくしない。でも被害を最小限に食い止める為、ただひたすら村に急ぐしかない!




村の入り口に到着し人がいない門から村に駆け込む。

―――血の……匂いがする。


森に隣接する奥のほうからゴブリンたちは来たのだろう。入口付近は静かなものだった。奥に見える黒い煙と人々の叫び声を頼りに走る。

人々の背が見えてきた!簡素な剣や斧、鍬などを持って対峙している数人と足元に見える倒れた人や座り込んだ人たち……

斧や棍棒を持つゴブリンに混ざって弓を構えたゴブリンがいる。ゴブリンから矢が放たれるのが見える。間に合うか!?


「囁き渉る翠の風!護りの風(ウィンド・ウォール)!」

「魔法!?」


風の結界を張ってゴブリンの撃つ矢を防ぐと対峙していた村人たちが振りかえる。


「遅くなりました!依頼で王都より派遣されました、魔導師ミルです。皆さん下がって!輝き燃ゆる赤き炎。灼熱の流星フレーム・シューティングスター!!」

「グギャッ!?ギャギャギャ!!」


十数個の火の玉を生み出しそれぞれコントロールをしてゴブリンの群れを焼き払う。突然生まれた火に驚き逃げ回るゴブリンたち。

村人たちを風の結界に残してゴブリンの群れに突っ込む。


炎の小妖精(フレア・ピクシー)風の悪戯(ワールウィンド)!」


大きな塊が崩れてきたので小さく火を生んで風に乗せて飛ばす。ばらばらに逃げ惑うゴブリンを魔法と合わせて追撃していく。

火の玉に掠られてパニックを起こし棍棒を振り回すゴブリンの背後に回り込みその背に蹴りを叩き込む。倒れこむのに合わせて火を放ち頭を砕く。無駄に生命力が高いがさすがに頭がなければ回復も出来ない。

武器だけで倒すには厄介だ。一瞬で首を切り落とすか真っ二つにするほどの力が必要になる。


「ったく!村にいる術師はどうしてるって言うのよっ……!蓄え支える琥珀の土。地霊の怒り(ソイル・ブラスト)!」


逃げるゴブリンの目の前で大地が爆発し足を止める。追いついたゴブリンに殴りかかり拳が触れた所で術を使う。


「まどろみ包む暗き闇!破壊する闇(ディストラクション)!」


声もなく崩れていくゴブリン。ほとんどが殲滅終わって残るは数匹……か?


「追ってきます!シャイン、怪我人の保護を!」


背後にちらりと光が見えシャインが飛んでいくのが見えた。風の結界の代わりに薄く光るガラスのような結界が現れて人々を守る。

座り込む人たちの上にひらひらと光が降り注ぎ小さな怪我が消えていくのを確認して森に向かって走る。

戦闘シーンが難しいっ……。


●登場人物紹介●

●メルナ・クラウル(12)

髪:蜂蜜色

目:紫色(すみれの色)アメジスト

ゴブリンに襲われた村の生き残り。魔力があるが魔法が使えることを知らなかった。おっとりかわいい妹タイプ。


●レマ

髪:ピンク

目:赤

火の魔霊。ちょっと釣り目な女の子の姿。気に入った人のことしか言うことを聞かない。

ピッドが苦手で過去に迫ってきたピッドを焦がしたことも。

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