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1. おわり

冷たい夜風が、我が家の書斎の開いた窓から吹き込んでくる。机から目を離し、振り返ると、カーテン越しに柔らかな月明かりが差し込んでいた。開いた窓の外を見つめていると、心に平穏と静けさが広がっていく。


ある意味、この場所は私にとっての聖域でもある。休息を取り、体を休め、鍛錬を積むための場所だ。本土の喧騒から離れた小さな島。剣の腕を磨くには申し分のない地形で、インフラへの被害を気にする必要もない。


新鮮な空気を吸い込むと、過去に起きた出来事が蘇ってくる。悲しい記憶も、幸せな記憶も。ふと、今の自分に至るまでの旅路すべてを思い出し、感傷的な気分になった。


「この長い旅も、ついに終わったか。長く、そして苦しい旅だった。まだ21歳、人生はこれからだというのに。……すべてが終わった今、何をすべきだろうか。ようやく己の役目を果たした今、どんな役割を担えばいい」


そんな思いが頭を満たす中、右手に気が集まっていく。それを見つめていると、頭の中の騒がしい思考が、次第に薄れていった。


この拳を包む気こそ、この十年間で私が乗り越えてきた試練の証だ。その気になれば数秒でこの世界を滅ぼせるほどの力。すべての武術家が渇望する力だ。


たとえ5歳から鍛錬を始めたとしても、それを操れるようになるのは早くて20年後。中には、それを学ぶことすらできぬまま老いて死んでいく者もいる。


私は剣のある方向へ手をかざした。すると剣は瞬時に私の手の中へと飛んできた。


……ほとんど魔法とも言える、超自然的な力。己の肉体を限界を超えて強化する力だ。中には16歳という若さで気を操れるようになった、選ばれし者たちもいる。羨ましいとしか言いようのない偉業だ。


他の武術家たちと同じように、私もまた苦難、試練、痛み、喪失、そして勝利を経験してきた。しかし、力が大きければ大きいほど、その代償もまた大きいと人は言う。ある者は富を捨て、ある者は家族や友人を捨て、ある者はより高みを目指すために己の道徳心を捨てる。私もその例外ではない。何も持たずに始まった者として、私は自分自身の一部を捨てなければならなかった……何かを奪うために。


リン——


机の上の目覚まし時計が鳴った。うたた寝をしていたようだ。過去を思い出しているうちに、意識がどこかへ彷徨っていたらしい。時計を見ると、すでに真夜中をとうに過ぎていた。


「この残りの時間、何をすべきか……」自分に向けたその言葉は、虚空へと消えていった。私は書類をまとめ、引き出しの中へとしまい込んだ。


立ち上がり、寝室へ向かおうとしたその時、海沿いを走りこの島の岸へと近づいてくる、見覚えのある気配を感じた。その気配は強烈で敵意に満ちたオーラを放っており、近くにいる一般人ならたちどころに命を落としかねないほどだった。幸い、私のいるこの島は人里離れており、今この瞬間まで、私以外に人間はいなかった。私の感覚が警鐘を鳴らす。何か良からぬことが起きようとしている、と。剣を手に、私は招かれざる客を迎えに外へと出た。


島の岸辺へとゆっくり近づいていくと、一人の人影が視界に入ってきた。金髪に白いシャツと黒いズボンをまとった男が、砂浜に静かに佇み、沈痛な笑みを浮かべていた。その容姿は決して悪くない。世界的な有名人と言っても通用するレベルの美男子だ。しかしその見た目とは裏腹に、目の前のこの男は決して若くはない。62歳になるこの男は、体内の気を操ることで顔立ちを作り変え、若かりし頃の姿を保っているのだ。


「久しぶりだな、レックス」私は数メートル先に立つ男に声をかけた。


「偉大なる大蛇の安らかな眠りを妨げてしまったかな? 申し訳ない」レックスは皮肉な口調を隠そうともせずに答えた。


「それで? 今日ここへ来た目的は何だ?」


「オリンポス宗派の長老たちが、貴様の短い治世を終わらせることを決定した。ユグドラシル宗派のルーカス・オルロフよ、今日という日が貴様の消える日だ!」殺意と狂気に満ちたその言葉は、辺り一帯に響き渡り、近くの木々を揺らした。


「無駄なことを。今さらお前に何ができる?」


「貴様を倒せる者がいないことは重々承知している。貴様は異常者だ、この世に生まれるべきではなかった存在だ。だからこそ我々は、最後の手段として一つの兵器を開発した。どんな代償を払おうとも、必ず貴様を殺す兵器を」


レックスの声には確信が満ちていた。叫んでいるわけではないが、その声と殺気だけで、周囲の動物たちが気を失うほどだった。


「その兵器とやらは、西の方角80キロメートルからこちらへ向かっているヘリコプターの中にあると思っていいのか?」


「そこまで遠くを感知できるとはな。やはり我々の予想通り、貴様を殺せるのは『あれ』だけだ。核爆発にすら完全な耐性を持つ貴様に対して、それでも我々は方法を見つけた。貴様を完全に消し去る方法をな! これを最後の瞬間まで覚えておくがいい。卑しき人間どもが消え去るまで、この世界から穢れはなくならぬ。我々こそ、命の術を極めし選ばれし者。気を使えぬ者を篩にかけることで、人類は新たな次元へと踏み出すのだ!」その声は狂気に満ち、血走った瞳は悪魔のようだった。


一瞬にして、二人の姿がその場から消え、肉眼では捉えられぬ速さで互いに突撃した。


拳と拳の激突による衝撃波が轟音を響かせ、周囲の砂をすべて吹き飛ばした。衝突の後、レックスは悲鳴を上げて吹き飛び、大岩に激突してそれを粉砕した。レックスは大量の血を吐きながら、今や消え失せてしまった右腕を押さえようとしていた。


「あの一撃、少し力を入れすぎたか」よろよろと立ち上がり、絶望の表情を浮かべるレックスを眺めながら、私はそう思った。


その時の彼の表情は、まるで悪魔が目の前に現れたかのようなものだった。


「この一年、お前は何をしていた? この程度の攻撃は、15か月前なら肩を外す程度で済んだはずだ。この戦争を舐めているのか?」苛立ちの滲む私の声が、彼の耳を突き刺す。これだけで腕が消し飛んだのなら、鍛錬を怠っていたか……あるいは、ついに己の限界に達したかのどちらかだろう。


「なぜだ、どうしてこんなことに。毎日欠かさず鍛錬を積んできた、あいつにまともな一撃を入れるためだけに……何が起きた? なぜこんなことがありうる?」そんな思考がレックスの脳内を駆け巡る。この短い一瞬に何が起きたのか、理解しようともがいていた。


彼を絶望へと突き落としたのは、潰れた腕の痛みではなかった。毎日欠かさず鍛錬を積んだにもかかわらず、二人の間の差が指数関数的に開いていったという事実だった。


彼は叫びながら、私から離れようと這いずった。その夜、彼の体を襲う冷たい風は、これまでで最も冷たく感じられ、背筋を凍らせた。


私が一歩近づくたびに、周囲の気温が下がっていく。かつて武術家最強の四位として知られたレックスは、今や地面に崩れ落ち、恐怖に震えていた。若々しかった顔が、突如として老け込んで見えた。私が歩み寄る中、彼は不意に笑い出した。


「はは……はははは!! 隠しておいて正解だった。2年前に急いでいれば、すべて無駄になっていただろう。良かった……兄弟たちよ、お前たちの犠牲は無駄ではなかった!」


理由は分からないが、その言葉を聞いて、私の中の何かが不穏に疼いた。他人から見れば、ただの死にゆく者の戯言に聞こえるかもしれない。だが、我々が生きるこの世界は予測不能だ。ほんの一瞬でも油断すれば、それは死を意味する。


「どういう意味だ」私は殺気を隠すことなく彼に問いかけた。その純粋な殺気だけで上級の武術家すら殺せるほどだったが、目の前で死にゆくこの男は、それでもなお耐えていた。彼が最強の四位と呼ばれるのは、伊達ではないという証だ。


「核爆弾では貴様のような化け物には通用しないと、我々は分かっていた。だからこそ、降伏を装ってレーダーの下をくぐり抜け、極秘裏に何かを作り上げたのだ。神を殺すための兵器をな。ケケケ、数年前にロシアで起きたあの事件を覚えているか?」彼は私に向かって嘲笑った。


「ロシアの事件だと? 何を言って——」私は問い返した。


そう言いかけた瞬間、封じ込めていた記憶が蘇ってきた。私の表情を見て、レックスの口元に忌まわしい笑みが浮かんだ。そしてついに、私は理解した。瞳孔が収縮し、額に汗が流れた。4年前、ロシアで起きたあの事件——『彼女』が命を落としたあの事件。


「もし彼が言っているのがあの事件のことなら、彼が言っている兵器とは……」


「そうだ、貴様が今考えていることは正しい。クハハハハ!」


彼は狂ったように笑いながら、まるで罠にかかったネズミを見るような目で私を見つめた。


「反物質爆弾……」私は思わず呟いた。


予想もしていなかった。あの計画に関するファイルは、すべて焼却したはずだった。もし本当に彼らがあの爆弾を今も所持しているのなら、理由は一つしかない——


「裏切り者か……」


「ようやく気付いたか! ハハハハハ!」彼の笑い声が耳に響いた。


あの事件から一か月後、ユグドラシルの長老たちは、我々の宗派内にネズミが潜んでいることを突き止めた。中立の立場にあるはずの宗派へ機密情報を漏らしていた、ある部隊の隊長。当初はただの諜報活動が目的だと思っていたが、それは間違いだった。私の記憶が正しければ、その裏切り者もまた、あの時ロシアへ送られたグループの一員だった。


「だが、あの時にバックアップを作っていたとしても……どうして気付かなかった……ああ、そうか、あの時か。私は彼女の死にあまりに動揺していて、頭が真っ白になっていた」そんな思考が頭の中で騒がしく渦巻き、真実に気付かされる。


あの計画は、私にとってすら危険すぎるものだ。気は核弾頭による極度の放射線や物理的な衝撃から肉体を守ることができるが、反物質に対しては話が別だ。あの爆弾は私の体を原子レベルで消滅させるだろう。神をも殺せる兵器と呼ぶのは、決して誇張ではない。そしてあの爆弾がこの国に着弾すれば、地図上からその痕跡すら残さず消え去るだろう。


「これを貴様と、そしてこの世の人々への教訓とするがいい。どれほど強くとも、超常の力の前では我々はただの蟻に過ぎぬのだ。あと数分もすれば、貴様もろとも日本という国すべてが消え去る! オリンポスの全員を——長老たちすら――すでに犠牲にした。だからこそ、これほどの狂気を実行に移せたのだ。この世であろうと、あの世であろうと、貴様を殺す——たとえそれが一つの国全体を消し去ることになろうとも!」


彼の叫びは憎悪と絶望が入り混じったまま、辺り一帯に響き渡った。彼は己の誇りと人間性の最後の一片までも投げ捨てていた。私は空を見上げた。雲の向こうに、紫の光が脈打っているのが見えた。


「ついにこの時が来たぞ、ルーカス。貴様がこれほどまで苦労して守ってきたこの楽園が消え去るのを、なす術もなく見ているがいい! 地獄で再び会おう……友よ!」彼は残り僅かな力を振り絞って立ち上がろうとしながら、私に向かって叫んだ。


「それはさせない。犠牲になるのは私だけでいい」私は彼にそう答えた。私から放たれる強烈な殺気に、彼は再び膝をついた。彼がもはや戦える状態になく、間もなく出血多量で死ぬであろうことを確認し、私は紫の光がある方角を見上げた。


「あの落下速度からすると、地表に到達するまで少なくとも4分はかかる。つまり、迷っている暇はない。もし『あの』一閃を間に合わせていれば、こんな手段に頼る必要もなかったのだが」私は紫の光が刻一刻と近づいてくるのを見つめながら呟いた。


「やるしかない」


私は膝を曲げ、剣を強く握りしめた。狙いはただ一つ——できる限り高く跳び上がり、気を込めた剣の一閃で生み出したエネルギー波を使って、爆弾がまだ上空にあるうちに早期起爆させることだった。地上から行うのは不可能だ。あの爆弾は濃密な気の場で覆われている——おそらくオリンポスの長老たちが命を捧げてまで作り上げたものだろう——中途半端な一撃では突破できない。もし成功すれば、我が命と引き換えにこの国を救える。一秒の遅れも命取りになりかねない。


私のその構えを見て、レックスの顔に愉悦の表情が浮かんだ。私が何をしようとしているのか、彼には分かっていたのだ。それを見て、彼は独り言のように呟いた。


「はっ、こいつは一瞬たりとも躊躇しなかったか」敗北の言葉を吐きながら、彼の体からはすべての生命力が抜け落ちていった。瞳から光が消え、彼はついに息を引き取った。


脚に十分な力を溜めた後、私は空へと跳んだ。心にあるのはただ一つの目的——人類の皇帝として、最初で最後の務めを果たすこと。


爆弾に十分近づき、剣から放つ気の一撃が届く距離まで達すると、私は残る力のすべてを振り絞り、渾身の力で剣を振り抜いた。目の前のあらゆる雲が瞬時に消え去り、剣から放たれた気の波動が、想像を絶する速度で爆弾へと飛んでいった。わずかな抵抗を受けながらも、それはついに爆弾に命中し、その起爆を引き起こした。


爆発は次第に私を飲み込んでいった。私は自分の体が跡形もなく消えていくのを見た。その瞬間、私は何の後悔も感じなかった。ただ安らぎだけを感じていた——この世界で、ついに己の務めを果たしたのだという安らぎを。そうして、私の体は虚空へと静かに消えていった。


……


〔目を覚まして……目を覚まして〕


頭の中に声が響くのを聞きながら、私はゆっくりと目を開けようとした。


白。周囲には白い空間しか見えなかった。眠るたびに何度も夢に見た、この見覚えのある場所を私は見回した。両親が亡くなって以来、私はこの場所を夢に見るようになった。だが、それはただのストレスによる奇妙な夢だろうと、気にも留めていなかった。周囲を見回すうちに、再びその姿を見つけた。半透明な、女性の人影だ。しかし今回は、はっきりと見ることができた——白い法衣をまとい、長いピンク色の髪をした女性が、私に背を向けて立っていた。


彼女の声を聞いたのは、これが初めてだった。私はその声に魅了された。静かで美しい海のような、安らぎに満ちた声だった。私はいつものように、彼女に近づこうとした。しかし——


〔目を覚まして……〕


三度目に彼女が私を起こそうとした時、私の体は動きを止め、視界が黒く染まっていった。そして数瞬後、私の本当の体が、意識不明の状態から目を覚ました。


「もう死んだはずでは? ここはどこだ?」自分に問いかけながら、生きて呼吸をしている自分に驚きを覚えた。そして、たった今気付いたのだが、これは明らかに——


「いつも体に感じていたあの束縛感……それが消えている。それだけじゃない、私の背後には……」私はそう考えた。


その瞬間、背後から男の声が響いた。


「お名前を伺ってもよろしいですか?」その男は微笑みながら、草の上に横たわる私を見下ろしてそう尋ねた。


彼は二十代前半に見え、金色の髪に白い衣をまとっていた。まるで支配者のような存在感を放ち、威圧的なオーラで私を圧倒しようとしているようだった。普通の人間なら、その圧に屈してしまうだろう。だが私にとっては、通り過ぎる風と何ら変わらなかった。


「ルーカスだ。ここはどこか教えてもらえるか?」私は表情を変えずに尋ねながら、自分が何とも奇妙な場所にいることに気付いた。


彼は私の返答に一瞬、驚きを見せた。私からこれほど落ち着いた返答が返ってくるとは、予想していなかったようだ。彼はすぐにいつもの表情を取り戻し、私に手を差し伸べ、立ち上がるのを助けようとした。


私は礼儀として彼の手を借り、ゆっくりと立ち上がった。彼は私の前を歩き、金色に見える巨大な門の前へと進んだ。そしてゆっくりと振り返り、私に向かって自己紹介をした。


「ようこそ、ルーカス殿。私の名はガブリエル、叡智の神。神々の領域へようこそ」

この小説はAIを用いて日本語に翻訳されています。物語の展開には一切AIが使用されていません。

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