第1話 スキル鑑定の日
※本作は第70話で完結予定です。
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四年前のことを、俺はあまり感情を込めずに思い出せる。
スキル鑑定会場は市の体育館を借り切った広い場所で、十八歳になった若者が百人単位で集まっていた。前後の列に並んだ同期たちが次々と鑑定を受け、「剣術強化」「炎魔法」「治癒」「索敵」と声を上げるたびに周囲から拍手や歓声が起きていた。
ダンジョンが現れて十年が経ち、スキルを持つ者が社会を動かす時代になっていた。強いスキルを持って生まれた者は攻略者になり、ダンジョンで稼ぎ、若くして一流の収入を手にできる。誰もがそれを期待して鑑定台に立つ。
順番が来た。
鑑定石に手を置いた。光った。表示が現れた。
〔システム管理(下請け)Lv.1〕
会場が静まり返った。
正確には、俺の番号の周囲だけが静まり返った。前後の列の人間が振り返り、電光掲示板に表示されたスキル名を読み、それから俺を見た。哀れむような顔と、「次の人どうぞ」という事務的な顔が混在していた。
鑑定士の中年男性が困ったように資料を調べ始め、「……管理系は、ダンジョン管理局に問い合わせてみてください」と苦し紛れに言った。それ以上のアドバイスはなかった。
俺は台を降りた。拍手はなかった。
*
四年後の朝、神崎凌はスーツを着て電車に乗っていた。スーツは就活用に買ったものでサイズが微妙に合っておらず、袖が少し余っていた。直す余裕はなかった。
ダンジョン管理局第十七支部。最寄駅から徒歩八分の雑居ビルの四階だった。エレベーターはあったが動かなかった。階段を使った。
ドアを開けると、誰もいなかった。
デスクが六つ並んでいたが、使われているのは一つだけらしく、他のデスクには書類の束が積み上がっていた。窓から光が入ってはいたが、それほど明るくなかった。換気扇が弱々しく回っていた。
「ああ、新しい人ね。神崎くん?」
奥から声がした。書類の山の向こうに、三十歳前後に見える女性がいた。疲弊した顔をしていたが、声は丁寧だった。
「はい。今日からお世話になります」
「霧島奈緒。ここの主任です。一応」と女性が言った。「前任者はひと月で辞めたから、引き継ぎ資料はほぼないんだけど。とりあえず座って」
俺は霧島さんに指定された椅子に座った。
「管理スキル持ちって、初めて会った」と霧島さんが言った。「珍しいじゃなくて、前例がないって言った方が正確かな。管理局も、うちの支部にそういうスキルの人が来たのはたぶん初めて」
「前任者はどういうスキルだったんですか」
「事務処理強化。私と同じ。それで前任者は何をやっていたかというと、書類を作って送って怒られてを繰り返してた」
「怒られていたんですか」
「上位存在からの業務連絡がたまに来るんだけど、内容がひどくてね。コスト削減しろとか、収益目標を達成しろとか。でも管理スキルがないと、管理用の端末を動かせないらしくて」
「端末があるんですか」
「あるらしい。地下一階に。十年以上誰も触っていないけど」と霧島さんが言った。少し間があって、「一応、スキルを使ってみた人は誰もいないんだけどね」
俺は霧島さんを見た。
「IDカードを渡します」と霧島さんが続けた。プラスチックのカードを差し出した。「どこで使うかは……さあ。たぶんこのビルのどこかにある専用端末で使うんだと思う」
「地下の端末室で使えますか」
「さあ」
曖昧な答えだった。でも、端末があるということはわかった。
俺は受け取ったIDカードを見た。名前と顔写真と、「管理員」という肩書きが印字されていた。
端末を見に行くことにした。




