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ピピピピピピピ。

聞き慣れたスマートフォンのアラーム電子音に、冷の重い瞼がわずかに持ち上がる。


「……あぁ」


かすれた声が漏れた。

眠っている間に水分が奪われたのか、喉がひどく乾いている。


もう一度瞼を閉じ、残った眠気に身をゆだねる。

それでも意識は、ゆっくりと浮かび上がるように目覚めていった。

起き上がろうと腹筋に力を込めた時――


胸の上に、何か重たいものが乗っていることに気づく。


「ん?」


布団を少しめくり、視線を落とす。


そこには華がいた。

冷の体に抱きつくようにして、抱き枕のようにしがみつきながら眠っている。

規則正しい寝息。とろけたような表情。

とても幸せそうだった。


その様子を見下ろしながら、冷は昨日の記憶を掘り返す。

脳裏に蘇るのは、ベッドに並んで座り、自分のスマートフォンで二人で動画を見ていたところまで。


そこから先の記憶が、きれいに途切れていた。


「寝落ちしたのかな……」


小さく呟く。

視界に映る華を、冷はしばらく見つめていた。


自然と手が動く。

そっと、頭を撫でる。


柔らかな髪が指の間をすり抜けた。

温かい。


「こんな顔してるのに、トラックや影喰を殴り飛ばすんだもんなぁ……」


冷の口元が、自然と緩む。

普段は頼もしくて、強くて、かっこいい。


けれど――

こうして眠っている姿は、ただの普通の女の子と変わらなかった。


その時だ。


「んん……」


華が小さく寝言を漏らす。

次の瞬間――抱きつく腕に、力がこもった。


「……」


冷の体に顔を押しつけるようにして、華はさらに深く抱きついてくる。

まるで本物の抱き枕のように。


「華……」


呼んでみるが、返事はない。起きる気配もない。

規則正しい寝息だけが続いている。


完全に寝ぼけているらしい。


「……離してくれないのね」


小さくため息をつく。


けれど、冷の手は華の頭から離れなかった。指先が、やわらかな髪をそっと撫でる。

腕の中で眠る華は、相変わらず幸せそうな顔をしていた。


窓の外では、

朝の光がゆっくり街を照らし始めている。




****************************




「んまんまんま!!シチューすっごい美味しい!」


眠りから目覚めた華は身支度を整え、冷と一緒に一階のレストランでバイキングの朝食を取っていた。


昨晩とは違い、料理のラインナップはモーニング用に切り替わっている。長いカウンターには、朝らしい料理がずらりと並んでいた。


焼きたてのパンが籠いっぱいに積まれ、クロワッサン、ロールパン、デニッシュが香ばしい匂いを漂わせている。その隣にはトースターが置かれ、ジャムやバター、小さなポーションのはちみつが整然と並んでいた。


湯気を立てる大きな鍋の中には、

具だくさんのクリームシチュー。


さらにその横には、ふわふわのスクランブルエッグ、カリカリに焼かれたベーコン、小ぶりのソーセージ、ハッシュドポテト、といった定番の洋朝食が並んでいる。


反対側には和食コーナーもあり、

炊きたての白いご飯、味噌汁、焼き鮭、納豆や海苔などが並んでいた。

サラダバーには色鮮やかな野菜が盛られ、レタス、ミニトマト、コーン、ブロッコリー、などが冷たいボウルに整然と並んでいる。


その奥には飲み物のコーナー。

コーヒーマシンからは香ばしい香りが漂い、オレンジジュース、牛乳、リンゴジュースが透明なディスペンサーに満たされていた。


そんな朝食の中で、華のトレイだけは一際目立っていた。

パン、ベーコン、スクランブルエッグ、サラダ、シチュー。さらにご飯まで乗っている。


「朝からすごい量だね」


冷が少し呆れたように言う。


「だってバイキングだよ!食べなきゃ損じゃん!食べれるときに食べないと!」


華は満面の笑みで言いながら、シチューを頬張る。


その向かい側で、冷は静かにカップを持ち上げた。

白いカップから、湯気がゆらりと立ち上っている。中に入っているのは、淹れたてのブラックコーヒーだけだ。テーブルの上に並ぶのは、華のトレイに乗った料理の数々と、冷のカップひとつ。

その対比は、あまりにも極端だった。


「……あれ、それだけ?」


スプーンを止めて華が聞く。

冷はコーヒーを一口飲み、静かにカップを置く。


「暑いと食欲なくて。あまり食べないんだ」


落ち着いた声だった。


「えぇー!?こんなに美味しいのに!」


華は信じられないという顔でトレイを指差す。


「パンもあるし、ベーコンもあるし、シチューもあるよ!?ほら!」

「いいよ、華がわたしの分まで食べて」


肩をすくめながら冷は言う。


「その代わり、ちゃんとレビューしてね」

「レビュー?!任せて!」


華はぱっと表情を輝かせた。


「んまんまんま!!感激美味しい!!」


再び勢いよく食べ始める。

冷はその様子を眺めながら、もう一口コーヒーを飲む。苦味の中に、ほんの少しだけ甘い時間が混ざっている気がした。


――次の瞬間。


華の目つきが変わった。


「どうしたの?」


急に動きが止まった華の様子に、冷が気づく。


「……いる」

「えっ、影喰?」

「うん!ピキーンってきた!」


華は急いで残りの食事を口の中にかき込む。

ほとんど流し込むようにして飲み込み、勢いよく席から立ち上がった。

そして、冷の手を掴む。


「いこ!こっち!」

「えっ、あ、うんっ」


引かれるままに冷もコーヒーを一気に飲み干す。

キャリーケースを片手に掴むと二人はレストランを飛び出し、そのままホテルの外へ駆け出していく。




***************************

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