第7話 1.夏の大勝負
今年は、十年に一度の猛暑になるでしょう。
毎年七月になると、ニュースの天気予報士の口から同じようなセリフを聞くようになっていた。
肌を焼く勢いで熱が降り注ぐ日中。連日鳴りやまぬセミの声が、完全な夏の到来を知らせている。
道路に浮かぶ陽炎は色濃く、
見る者の体感温度をさらに押し上げていく。
そんな中、駅前にある商店街のとある店の前で、
三人の少女たちが足を止めていた。
「いいか? これをしくじれば後はない」
鋭い眼光で語りかけてくるのは、スキンヘッドに白い鉢巻きを巻いた中年の男だ。首から「おみくじ店員」と書かれたカードを下げている。
半袖シャツに、腰には魚の絵が入ったエプロン。年季の入った長靴を履いていた。
その目の前には、紅白の台に乗った新井式回転抽選器。
通称ガラガラ――地域によってはガラポンとも呼ばれる。
「ラストチャンスだ。気を引き締めな」
「…大丈夫。私はやる女だから!」
額に汗を浮かべた華は、ゆっくりとガラポンの持ち手に手を伸ばす。
後ろでは冷と麦が、固唾をのんで見守っていた。
「よし、回すよ!!」
「いけぇ!」
華の手が動く。
ガラポンが勢いよく回転し始め、中に入ったボールが激しくぶつかり合う音が鳴り響く。
対面で目を見開いて見守る中年男性――魚屋の秀の眼にも、力がこもっていた。
まだ回る。
ガラポンは、止まる気配を見せない。
通行人たちも、ただならぬ気合に思わず足を止める。
いつの間にか、小さな人だかりができていた。
箱の回転が落ちてくる。
華は屈んで、覗き込むように見つめていた。
「こい!」
手を組み、必死に祈る華。
後ろで見ている冷と麦の眉間にも、自然と皺が寄る。
やがて回転はゆっくりと落ちていき、
出口から一つの玉が飛び出した。
世界が止まったような静けさ。
真下の箱に落ち、ころりと転がって止まった玉の色は――
金色だった。
「お見事ーーーーーーー!! 一等ーーーー!!!」
「よっしゃああああああ!! 一等キターーーー!!」
その瞬間、世界の色が変わった。
後ろで見ていた冷と麦は飛び跳ねて喜び、周りで見ていた通行人たちからも歓声が上がる。
「これでお米一年分は私のもんだ!! わっははははははは!」
「ん? 何言ってんだ、お嬢ちゃん?」
喜ぶ華に、秀の冷静なツッコミが入る。
「え? だって一等はお米一年分でしょ?」
首をかしげて尋ねる華。
対する秀は、屋台の後ろにある看板を指さした。
「へ?」
華は看板へ視線を向け、三等から順に目で追っていく。
そして――一等に書かれていたのは、
「お……沖縄旅行………?」
カクン、と。
華の首が力の抜けたように傾いた。
「気づいてなかったんだ……」
「華ちゃんって、花より団子なのね」
後ろで見守っていた冷と麦は、最初から知っていたようだった。
聞こえてくるセミの鳴き声は色濃く、夏の気候に溶け込んでいく。
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