第八章 国を敵にまわす
坑道に現れた役人と軍服の一団。
彼らの背後には、冷ややかな目をした白人将校――GHQの姿まであった。
「繰り返す。カワスジニウムは国のものだ。
我が国……いや、連合国の管理下に置かれるべきだ」
その言葉を聞いた瞬間、長屋の男たちがざわめき始めた。
「俺たちが命張って掘ったんだぞ!」
「国が横取りする気か!」
怒声が飛ぶ。
しかし兵士たちは銃を構え、人々を黙らせようとした。
◆◆◆
大田 仁が一歩前に出る。
威圧する軍靴の列を睨みつけ、煙草に火をつけると――
「おいコラ。ここは田川や。
田川のモンを勝手に持っていこうなんざ、仁義に反するやろがい」
「黙れヤクザ風情が!」と役人が怒鳴るが、大田は涼しい顔。
僕も前に出て、懐から一枚の紙を取り出した。
「こちらをご覧ください」
それは炭鉱夫たちに署名をもらって作った“共同採掘権契約書”だった。
つまり、田川の炭鉱労働者全員がカワスジニウムの共同所有者であるという証文だ。
「国に差し出せと言うなら、彼ら全員を説得してください」
「……なにっ!?」
役人の顔が引きつる。
背後のGHQ将校は口元をわずかに歪め、僕に興味深そうな視線を投げてきた。
◆◆◆
その夜。
炭鉱住宅の広場には松明が灯り、数百人の炭鉱夫と家族たちが集まっていた。
壇上に立った僕と大田。
「国は俺たちの命を何だと思っとる!」
「銃で脅しても、心までは奪えんばい!」
怒号と拳が夜空に突き上がる。
田川の炭鉱街は、ひとつの「抗争体制」へと固まっていった。
◆◆◆
翌朝。
坑道の入口には、銃を持った炭鉱夫たちと大仁会の若衆が並んでいた。
政府が派遣した憲兵隊と正面からにらみ合う。
「若旦那……やるしかなかごたるな」
「ああ……田川を、俺たちの手で守るんだ」
緊張の一触即発。
火花を散らす両陣営。
その背後で――
カワスジニウムが脈打つ坑道から、まるで未来を呼ぶかのような蒼白い光が溢れていた。
(……これはもう、炭鉱抗争じゃない。
田川 vs 国家。歴史そのものを変える戦いだ……!)




