第九章 血煙と星条旗
坑道前でのにらみ合いは、わずかな火種で爆発した。
「撃てぇぇぇッ!」
憲兵隊の一斉射撃が夜を裂く。
銃声、悲鳴、松明が倒れ、田川の広場は地獄と化した。
「おらァァァ! 喧嘩上等じゃいッ!」
大田仁がスキルを発動し、弾丸をかすり傷に変えて突っ込む。
若衆も炭鉱夫も続き、銃剣を奪い取って殴りかかる。
僕もアイテムボックスから鉄板を取り出し、即席の盾を構えて前線へ。
「下がるな! ここを越えられたら坑道ごと奪われる!」
戦場はまるで“田川の戦国時代”だった。
◆◆◆
だが――その裏では別の影が蠢いていた。
夜陰に紛れ、白人将校と数人の兵士が坑道奥へ忍び込む。
狙いはただ一つ。
「カワスジニウム」の独占だ。
「奴らが潰し合っている間に、鉱石を確保する。
報告はワシントンに直通だ」
英語の囁きが坑道に響く。
だが、その背後に立つ人影に彼らは気づかなかった。
「……よぉ、観光か?」
松明を掲げ、大田仁が立っていた。
スーツは銃痕と血に汚れていたが、瞳だけは獣のように光っている。
「仁義知らずの横取りは許さんばい」
◆◆◆
同時刻、僕は前線で劣勢を強いられていた。
憲兵隊は増援を呼び、機関銃までも持ち込んできたのだ。
「くそっ、このままじゃ皆やられる……!」
その瞬間、スキルウィンドウが光った。
【条件達成:共同戦線】
新スキル獲得――『田川の団結』
効果:共に戦う者の心を一つにし、士気を高める。恐怖を無効化する。
「みんな! 田川は俺たちのもんだ!
子どもや女房を守るために、立ち上がれ!」
僕の声に呼応し、炭鉱夫たちの瞳が炎を宿す。
怯えていた者たちが再び前に出て、石を、ツルハシを、拳を握りしめる。
銃声の嵐の中、田川の怒号が轟いた。
◆◆◆
そして坑道奥では――
大田とGHQ将校がタイマンを繰り広げていた。
「喧嘩上等ッ!」
「Hmph… you barbarian!」
銃を持つ将校に対し、大田は素手で殴りかかる。
だが拳一つで銃を粉砕し、口元を拭いながら笑う。
「お前の国の正義なんざ、ここには通らん。
ここで通るんは……田川の仁義だけじゃ!」
大田の拳が閃き、将校は坑道の壁に叩きつけられた。
◆◆◆
戦場と暗闇。
田川の夜は、血煙と星条旗の影で揺れていた。
(……ここから先は、田川の一炭鉱抗争じゃ済まない。
国家と、世界を相手取る戦いになる……!)