プロローグ
気づけば、僕は真っ暗闇の中にいた。
――息苦しい。
まるで地の底に閉じ込められたような圧迫感と、鼻を突く硫黄のような匂い。
「おい、新入り! ボサッとするな!」
振り向けば、煤にまみれた男たちがランプを掲げていた。
粗い博多弁や筑豊訛りが飛び交い、暗い坑道に響き渡る。
――ここは、福岡県田川市。筑豊炭田の心臓部。
かつて日本を支えた石炭の街の、まさに最盛期だった。
そう、僕は現代の日本で死んだはずなのに、なぜか炭鉱夫の若者として生まれ変わってしまったのだ。
坑道は灼熱地獄のように蒸し暑く、汗と煤で全身がすぐ真っ黒になる。
だが地上に戻れば、炭鉱住宅に並ぶ長屋、たらいを囲んで笑う子どもたち、そして炭鉱の女たちの威勢のいい笑い声。
街全体が活気に満ち、昭和のエネルギーが渦巻いていた。
「この時代で生きるってことは、炭鉱の光も闇も、全部抱えて進むってことやな……」
僕はランプの炎を見つめながら心に誓う。
二度目の人生。
この石炭の街で、ただの労働者として終わるのではなく――
歴史のうねりを見届け、時には抗いながら、自分だけの足跡を残してやる。
坑道の奥から、再び仲間の声が響いた。
「さあ、掘るぞ! 明日の飯のためにな!」
暗闇の中へ一歩踏み出したその瞬間、僕の「炭鉱転生記」が幕を開けた。