旅立ち #4
旅立ち編入ってから一日も経過していないのです。凄く濃い一日ですよね。
「あなたが、女王龍を深く愛し、その遺志を継ごうとしていることは、よく解りました。……だけど、これだけは言わせて。あなたが殺した人たちにも、あなたと同じように愛し愛する者であったということ。先に手を出したのは私達かもしれないけど……それだけは忘れないで、くださいッ……!」
俺の話が終わった後、10秒ほどの間を空けて、リリーが口を開いた。その声音には怒気も憎悪も感じず、少しの嗚咽だけが混じっている。だが、その言葉はとても暖かいものだと、俺は思った。
そんなリリーの言葉にノアとフェルゼン、ジェイドが微笑む。一先ずは矛を収めてくれたようだった。だが、これで終わりなどでは断じてない。これからが始まりである。
「それで、お前はこれからどうするんだ?」
頭の後ろで手を組みながら、ジェイドは俺を見上げて言った。――しまった、そういえば全く考えていなかった。気持ちは間違いなく本物であるのだが、半ば勢いで言ったので計画などは一切立てていない。俺らしくもないが、これは別の意味での一歩前進なのだろうか。
返答に困り、答えあぐねていた俺にジェイドの横に立っていたノアが「あのッ!」と言って、助け舟を出してくれた。
「宜しければ、私たちと一緒に行きませんか?」
『……いいのか?俺は龍だぞ?』
俺としては願ってもいない話である。彼女たちの目的は、俺の掲げる目標とかなり近しいところにある。だが、俺は龍だ。かつて戦った種族同士、彼らに間接的にでも迷惑をかけることは必至。
しかし俺の疑問に対し答えを返したのは、意外な人物であった。
「あなたが掲げる目標は、人と龍の共存なのでしょう?そんなあなたが、真っ先に人と龍を区別してどうするのですか?」
リリーである。俺は彼女は間違いなく反対するだろうと思っていたので、正直かなり驚いた。今日一番の驚きである。思考が止まり、口が半開きになってしまう程に驚いた。
「なんですか?」
『……いや、すまない。まさか君の口からそんな言葉を聞けるとは思わなかったから』
「私の目的もあなたと同じです。当然の返答だと思いますが?」
『……そうだな。その通りだ』
さっきまでの険悪な雰囲気は既に姿を消していた。それどころか皆表情を和らげ、溢れんばかりの笑みを零している。ノアに至っては嬉し泣きを隠すのに必死な様子だった。
――――そうか。これが俺たちの目指す世界なんだな……時にはぶつかり合い、喧嘩しながらも、やがては一つになる。そんな世界の縮図が今、出来上がっていた。
「龍王シュネーヴァイス、これから宜しく頼む!」
フェルゼンはそう言って籠手を外し、俺に握手を求めるような素振りを見せた。彼らの様子に安らぎを感じた俺は、変身術《人》を発動させる。
目にかかるくらいまで無造作に伸びた銀髪に象牙色の瞳。農民を思わせる薄い革の服に、赤のボーダーが一本入ったローブを纏った青年が眩い光と共に姿を現した。この姿を見せるのは3度目である。
「シュネーだ。こちらこそ、よろしく」
俺はフェルゼンの握手に応じ、彼の手を固く握りしめた。
いよいよ次が旅立ち編最後の回になります。その予定です……
第2章は同じ事をずっと繰り返しているだけでしたので、鬱々としたのではないでしょうか?
もう少しお付き合い頂きたく……




