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妖猫 第五話 マークの匂いをマークにして



 キモ猿はプップさん救出を手伝うと言ってくれたが、よく理解出来なかったから「ありがとう!!」とだけ伝えてその場に置いていった。

 脳しんとうを起こしていてまだフラフラだったし、何より頭が悪そうに思えたから。


 多数の人間が集まっているであろう場所からプップさんを連れ出すには、緻密な作戦が肝要となると思う。俺でさえ作戦行動など出来るか怪しいのにキモ猿まで連れていったら即座に人間に見つかる気がする。


 クンクンと鼻を動かして臭いを辿り走って行く。するとピッピさんが暗いトーンで話し掛けてきた。


「ねぇ、レイ。」


「ん?どうしたの?」


「プップは私に助けられたら……嫌だと思う?」


 この子は何て重たくて難しい質問をするんだろうか。おいらまともに答えられる気がしないよ。


 一見落ち着いていて穏やかに見えるプップさんだが、今思えば精神は幼いように感じる。本当は妖精の国に縛られること無く、自由に好奇心が向くままに生きていたかったのだ。だが外の世界は妖精族からすれば本当に危険だ。自由を許してこなかった大樹母様やピピンさんは間違ってはいない。


 だがプップさんは外界に憧れ続けた。止められれば止められるほどその想いは燃え上がる。否定されればされるほどに心を焼き切っていく。


 プップさんにとっては珍しい俺の存在は、宝箱から出て来た貴重な宝石のようなものだったのかもしれない。


 初めて出来た妖精族以外の友達だったのだ。それをピピンさんに取られてしまいそうで、それを許容出来ず恐怖に感じる位に恐れたのかもしれない。だがそれを素直に伝える術も持ち合わせていない。


 それでも限界が来るまで我慢し続けた。それはきっとピピンさんが大切だったからだ。だから長い間ピピンさんの気持ちを汲んで我慢を続けてきたのだろう。


 その儚くも温かい想いを、イレギュラーな存在である俺が壊したのだ。きっと2人に落ち度なんてないのだと思う。


 俺は何て言っていいのか悩んだが、なんとか間を置いてから答えた。


「……プップさんはいつだってピピンさんのことが大好きに見えたよ。ピピンさんだってそうでしょ?だから心配しなくても大丈夫だよ。それに本当の答えはプップさんしか知らないから、ピピンさんの気持ちをプップさんに伝えてから本人に答えてもらおう。」


「そう……ね。」


 浅はかであり軽率な発言だったかもしれない。でも答えは本人にしか分かり得ないので、その程度のことしか言ってあげられなかった。


 それからは互いに無言のまま進み続けた。そしてマークの臭いを辿るのがいよいよ難しくなってきた時に気付いた事があった。


「ここ……見たことがある。」


「前世?」


「うん。間違いない。ここはバロンのコロニーの近くだ。」


 俺は前世で通った記憶があった。特徴のある曲がりくねった木、それに添うような獣道。

 マークがここまで来ていることに嫌な予感が走る。そしてそれは現実のものとなった。


 何かの肉を焼くような香りが漂う。そしてそれは記憶が正しければコロニーの方角だ。


「レイ、大丈夫?」


「……うん。行こう。」


 突然の事に(もや)が掛かったように視界を覆われ、足が鈍重になる。


 俺はいい。だが俺以外の人は死んではいけない。もう二度と会うことが出来なくなるのだから。


 鎖に脳を巻かれ締め付けられたかのような錯覚に陥る。手足が現実を拒否して力無く震える。


 行かなくてはいけない。恐怖に吞まれるのが嫌だからといって進むのをやめれば何も知ることが出来なくなる。だが知ることが恐くて、目を瞑ってしまう。汗が背中を伝う感覚だけはハッキリとしているのに。


 力が抜けた足を付け根から無理矢理押し出して進んでいくと、とうとうコロニーが見えてきた。いや、コロニーだったであろう場所だ。


「………そんな。」


 コロニーは地下へ続く洞窟となっていた。人間でも屈んでいけば入れる広さはあったのだが、そこには仮設の拠点と見られるものが建てられていた。自然からすれば異質な人工の建物の前には、見張りと思われる男が四人立っていた。


「レイ…大丈夫?」


 俺の頬を両手で挟むように添えて、ピピンさんが真っ直ぐ美しい瞳で見据える。

 それは訝しげなものでも不安なものでもなく、ただ心の底から俺を案じたものに感じた。ピピンさんだって同じように苦しみの中に心を投じている筈なのに。


 怪我していたニコは……バロンやその仲間達はどうなったのか。このコロニーを目指して頑張ってきたというのに。

 不安で堪らなかった。大切な人を失うのが怖い。


 それでも安っぽいプライドが俺を奮い立たせる。ピピンさんやプップさんの為にも、今を乗り越えるしかない。考え悩み苦しむとしても、決してそれは今では無いのだ。俺の姿を心配そうに見詰めるピピンさんの為にも顔を上げなくては。


「……レイ。」


「あの拠点の裏には、地下洞窟になってるゴブリンのコロニーがあったんだ。プップさんを捕らえるならそこが1番可能性が高い。うーん……どうしよう。」


 この世界において冒険者として戦闘を生業にして生きてきた人間がどれだけの力を持っているのか分からない。故・リーダー君の話によると20人弱。さすがに多すぎる。


 これを一点突破で正面から突っ込む気にはなれない。


「兵糧攻めをしようにも明朝には出て来るわけだし、そもそも籠城してないし。」


 水攻めしようにも水が無いし時間も人手も無い。火攻めをすればプップさんの身も危険に晒される。水でも危険か。


 最早正面突破以外打つ手なし!


 今ほど自分の無能に嘆いたこともない気がする。緻密な作戦がどうのと心で(のたま)ってキモ猿を置いてきた自分を殴りたい。やれる事なんてキモ猿と変わらないのだもの。


「ピピンさん、距離を取ろうと思う。風の矢が届く限界まで距離を取って、少しでも戦力を減らしてから正面突破で。ピピンさんは風の矢で援護だけ宜しく。中へは俺一人で行く。」


「危険過ぎる。格好付けなくていい。」


「いや、格好つけてるわけじゃないよ。むしろ自分の心の平穏を考えた結果の答えだし。俺は最悪どうとでもなる…でもピピンさんはそうはいかない。命をかけてでもプップさんを救うにはそれしか無いんだ。」


 ピピンさんは納得していないようだったが、他に手段は思い付かなかった。


 一旦人間達から距離を取り、それから風の矢を試し打ちして射程距離を測る。

 やはり風の矢の精度が上がっているようで、100メートル位までなら狙い撃ちも可能だった。これなら狙撃も上手くいきそうだ。


「ピピンさん、直に日が暮れる。それに乗じていくよ。」


「……レイ。」


 ピピンさんが思い詰めたように俺の名を呼んだ。


「ピピンさん、どうかした?」


「お願い。私達の為にも……死なないで。」


 まさかのまさかだ。ピピンさんからお願いをされるとは。こんなにハッキリとデレの部分を見せてくれたのは初めてだ。


「ピピンさん、指切りって知ってる?」


「指切り?知らない。」


「指切りってのはね、約束のしるしだよ。こうして小指を引っ掛けてピピンさんとの約束を守る誓いをするんだ。」


 そう言ってピピンさんの小さな手を掴み、小指同士を引っ掛ける。


「俺は2人のために死なないよ。ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたら、はーりせんぼんのーます、ゆーびきった!!」


 そうして2人の小指は離れた。少し気恥ずかしそうにピピンさんが顔を伏せる。怒ったかな。


「ふふ、変な歌。レイはほんとに変。でも……ありがとう。……もし死んだら針千本飲ますから。逃げずに必ず私のところに戻って来なさい。」


 ピピンさんはお腹を押さえると吹き出して笑い出した。こんな笑顔初めて見た。怒るとき以外いつも無表情にしているのに、ギャップのせいか笑うと異常に可愛すぎるぞ。

 後半には普段通りのピピンさんの発言も聞けて、なんだかとてもリラックス出来た。


「任せてよ、絶対死なないから!針1本だって飲むものか!」


 念の為、「生き物だからいつかは死ぬから、プップさんを助けた後はこれ無効だからね!」と伝えはした。




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