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妖猫 第二話 大森林、襲撃



「というわけなんだ。」


「……まるで夢物語。」


 少し落ち着いてきたピピンさんに温かい紅茶を用意して、俺の身に起きてきた出来事を伝えた。元々違う世界の人間で、記憶が残ったまま転生することが出来る能力を得たことなどだ。


「俺も最初は訳分からなかったけどね。」


「その印も前世の時に貰ったもの?」


「いや、これは初めて転生して死んだときにあの世みたいなところで、偉い人と契約してる精霊にもらったんだ。」


「普通では考えられない程の力。妖精でもないのに無理矢理妖精の国へ来たり。」


「そうだね。多分ほんとにすごい精霊なんだと思う。名前もピューヒエルよりもラーミアの方があってるんじゃない?ってくらい見た目も格好いいしね。しゃべり方は変だけど。」


「そういえば、ゴブリンに会いたいのも?」


「うん、前前世がレッドゴブリンだったんだ。その時命を救われて仲間になったんだけど、俺が人間に殺されて連れていかれたから、ゴブリンの身の安全の為にも俺はこうして生きてると伝えたくてさ。」


「そうね。それは早いにこしたことがない。」


 その後もゆっくりと時間は過ぎていき、そろそろ寝る事になった。結局ピピンさんはプップさんの事について詳しく聞いてくることはなかった。


「……レイ。」


「ん?」


 部屋を出て行こうとした俺をピピンさんが呼び止めた。振り返り目が合うと、何でも無いと言いながら布団に潜っていった。


 おやすみと声を掛けて扉を閉めるとき、小さな声でお休みなさいと聞こえた気がした。





「レイ、これからどうするの?」


「ピピンさんの所に早く来ることだけしか具体的な案は無かったけど、とりあえずプップさんを探したいと思う。」


 朝になり、寝坊した俺の代わりに簡単な朝食をピピンさんが用意していてくれた。ピピンさんが料理出来るなんて世の中知らない事だらけだ。


 朝食を取りながら世間話でもするかのように会話をした。二人きりのピピンさんは少し印象が違った。喋り方もそうだけど、何となく優しい気がする。猫になったからかな。


 ピピンさんは俺と会話する際、プップさんの話題を避けているように感じた。それがどのような心境からかは俺には分からなかったが、このままではいけない気がしてプップさんを探しに行きたいと告げた。


「……でも、ゴブリン探しは?急がないと。」


「大丈夫。バロンはそんなヤワじゃないと思う。」


 そう告げた俺は、どうしようもない程に甘いスープを無理矢理喉へ押し流し立ち上がった。


「ピピンさん、プップさんを探しに行こう?」


「……ん。」


 するとピピンさんもゆっくりと立ち上がり食器を片し始めた。マイペースだなとも思ったが、少しずつピピンさんの目は凜とした本来のピピンさんのものに戻ってきている気がした。





「不思議。レイと森にいるだなんて。」


「そうだね。ピピンさんとは魔法の練習中しか二人きりじゃないもんね。」


 森に来た俺はピピンさんの後ろについて歩く。ピピンさんはプップさんの事を1番知っているから、闇雲に動き回って探すよりも可能性があると考えたからだ。偉そうな事言ったわりに後ろについて歩くだけってのは少し恥ずかしいが。


「レイ、何か来る。」


「うん。俺にも聞こえる。」


 歩みを止めたピピンさんに続いて俺も足を止めた。人参の頃には感じる事が出来なかったものが、今の猫になって出来るようになった事が多々あった。


 忍び足もしやすいし、体が軽い。ゴブリン時代よりもアクロバットに動くことが出来る。そして耳が良くなった事で、今回のように索敵も向上していた。


「唯一の武器がこの小さなフライパンってのがなぁ。」


「レイが無駄にデカくなっただけ。それに魔法がある。」


「そうだね。」


 軽口を叩いた後、現れる魔物に息を潜める。すると茂みから周囲を伺うように現れたのは、宿敵である角ウサギであった、

 耳と鼻をピクピクと動かし、辺りを警戒している。だがやがてゆっくりと茂みからピョンッと出て来た。


「ピピンさん、お腹空いてる?」


「さっき食べたばかり。」


「俺も空いてない。」


 無駄な殺生はするつもりはないし、お腹も空いていない。だが

ピピンさんは別として、俺はそろそろ肉を味わいたい衝動もある。

 少し悩んだが、卑怯にも答えは相手任せにすることにした。


「ピピンさん、少しだけ時間貰える?この体にも慣れたいんだ。」


「好きにすればいい。」


 素っ気ない返答にピピンさんが通常運転なのを確認出来て、何故か心が休まる。

 実はMっ気があるのか?などとくだらない事を考えながら、あえて角ウサギが気付くように、木の陰から堂々と姿を見せた。


「ブゥ……ブッブゥ!」


 俺に気づいた角ウサギは、威嚇するように小さく唸ると頭頂部に生える角を俺に向ける。

 ケットシー風な今回の俺よりも少しだけ大きな角ウサギは、草食とは思えない好戦的な目で駆けだした。

 どうやら自分より小さい生き物は倒す主義らしい。これで心置きなく戦えるな。


「風の矢!」


 敵だと判断してすぐに俺は魔法を発動させる。生み出された矢は人参の頃よりも一回りは大きく、明らかに初速も早かった。


 真正面から真っ直ぐに角ウサギ目掛けて飛んでいった矢は、前回と同様に角に当たってしまった。だが今回は風の矢に軍配が上がり、角の先端をポキッとへし折った。


「風の矢!」


 角を折られたショックからか、僅かに動揺したのが見て取れた。それを見逃すこと無く、今度は2本同時に風の矢を射る。

 左右に緩やかな弧を描き放たれた風の矢は、1本の時と勢いが変わらずに風を切り突き進む。


 そして風の矢が左胸と右の胴体に着弾した角ウサギは、勢いそのままに倒れ込み動かなくなった。


「よし、リベンジ成功だ!」


「そうね。まさに風穴。(むご)い復讐。」


「いや、一応正当防衛ですから。」


 言い訳しながら角ウサギを見ていると、何だか可哀想になってきた。埋めてあげようかなとも考えたが、角ウサギの死を無駄なものにしたくないと思い、美味しく食することにした。


「ピピンさん、(さば)ける?」


「無理。」


「だよね。俺もやったこと無いんだよなぁ。」


 そこまで話して重大な事に気付いた。捌こうにもナイフがないのだ。そして、捌いたところで火も無いので焼くことさえ出来ない。プップさんに火種の魔法を教えて貰う前にお別れになってしまったからな。さすがにゴブリンでは無くなった今、ピピンさんの前でむしゃぶりつくわけにもいかない。


「じ、時間が惜しいから埋葬して出発しようか。」


「このままでいい。埋めてもすぐ掘り返されるから意味が無い。」


「そっか。……よし、しゅっぱーつ!」


 角ウサギには悪いが俺には大事な任務があるんだ。許せ。




 角ウサギを残し俺達は先へと進み出した。


「そういえば風の矢の性能が人参時代より向上してる気がするんだね。」


「恐らく、怪しい猫の方が魔法の適正が高い肉体なのね。」


 確かにピピンさんの言うとおりな気がする。感覚的に魔法も使いやすいし、明らかに動きはこの猫の方が高性能だし。というか人参が足短すぎるから動きにくいってのもあったけど。


 無限転生は記憶が残る為、経験を引き継ぐ事が出来る。だが転生先を選べない。

 恐らく経験だけでは埋めようが無い、先天的な能力の差が人参と猫にはあるのだろう。レアっぽいけど、人参なんて明らかにゴブリン以下だったし。


 簡単に死ぬつもりはないが、これから先の転生は俺のヒキが試されるな。……俺運悪いんだよな。赤ゴブリン、黄人参。今回は妖猫。

 1等宝くじとか当てるような人は、1発目からドラゴンとか引いちゃうんだろうな。


「……レイ、どうしたの?」


 ピピンさんの言葉に考え込み、そして脱線していく。そんな俺を心配気にピピンさんが覗き込んできた。可愛い。


「どうもしないよ。そういえばピピンさんはプップさんの行き先の見当はついてるの?」


「わからない。でも前にプップが泉を見つけて、しばらく通っていた事があった。まずはそこへ行ってみる。」


「よっし!じゃあ、とっととプップさんに説教しにーーーー」


 ピピンさんの言葉を聞き気持ちを入れ替えて歩みだそうとした時、何かが風を切って飛んでくる音が聞こえた。


 その音は聞き覚えがあった。間違いなく矢だ。以前よりも耳が良くなったおかげで、はっきりと風切り音が聞こえる。


 慌ててピピンさんを抱きしめ横っ跳びすると、俺達の立っていた場所を矢が通り過ぎ、すぐ傍の木に刺さった。

 立ち上がること無く倒れ込んだそのままの姿勢で繁みに身を隠す。


「レイ……人間?」


「そうだね。距離はまだ結構あるけど、こっちに走ってくる音がする。」


「どうするの?帰る?」


 ピピンさんらしからぬ少し不安そうな顔で訊ねてきたが、俺はピピンさんの手を取る。


「いや、ちょっと様子を見たいんだ。危険だったらすぐに妖精の国に戻ろう。あと、もし離れ離れになったら妖精の国集合ね。」


「ん。」


 極限まで省略された返事を聞き、俺はピピンさんの手を引きながら出来るだけ音がしないように気を付けて一気に木を駆け登る。人間からは見えにくいであろう場所で足を止め、矢の刺さった付近を息を殺して見下ろす。


「ちくしょう!!どこに消えた!!!」


「やっぱり報告しに行くべきだったか。」


「何言ってんだ!億万長者になるチャンスを逃してたまるか!周辺を捜し回れ!!2匹目(・・・)の妖精は俺たちが捕らえるぞ!他の奴等に漏らした奴はこの手で殺す!!わかったら周辺を捜索しろ!!!」


 数名の手下と思われる男達の返事を聞いた男が率先して繁みを掻き分けていく。


「ピピンさん、聞こえた?」


「聞こえた。……プップ。」


 先程までよりも更にピピンさんの表情に影が差す。


 その姿を見た俺は、居ても立ってもいられない苦しみに襲われた。

 ピピンさん、大丈夫。プップさんはこの命をかけても……必ず助けるから。


「……ここで少し待っててくれる?」


「レイ、どうするつもり?」


「プップさんのことを聞けたら聞いてみる。上手くやってみせるよ。」


「危険過ぎる。ダメよ。」


「俺の能力のこと、今はピピンさんしか知らないんだ。信用しているから話した。だからピピンさんも俺を信頼して待ってて欲しい。」


「でも、またレイが死んだら……。」


「その時は問答無用で転生して真っ先にピピンさんの所に来る。それに無限転生の力があるとは言っても死ぬのは怖いんだ。だから全力で死なない努力をする。……ピピンさん、だから一つ約束して欲しい。」


「……なに?」


「もし俺の身を案じたとしても、ピピンさんはピピンさんの事を第一に考えて欲しい。」


「そんなこと……。」


「本気で言ってるんだ。ピピンさんの身にまで何かあったらまともじゃいられなくなってしまう。俺は万が一があっても大丈夫。姿が変わるだけだから。これが今の俺の願いなんだ。聞き入れてくれる?」


 ニコは俺の身を案じた結果、人間だらけの危険な森で俺を捜し回って魔法を受けて全身が焼け爛れてしまった。もう二度とあんな気持ちにはなりたくない。


「……わかった。必ず戻ってきて。」


「うん!この体なら大丈夫だよ!ここから離れないように気を付けるから!」


 ピピンさんは笑わない。一連の出来事のせいで別れを恐れているのが見て取れた。だからこそ、早く戻って安心させてあげなくてはいけない。


 俺は笑顔でピピンさんへと手を振り、人間の元へ向かった。



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