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黄根 第七話 消えたブローチ



「すみません!待たせちゃったみたいで!」


「別に待ってない。」


 なんて素っ気なさなんだ。ほんとに膝枕してくれたのか?


「そ、そっか。じゃあ、昨日みたく自主練すればいいかな?」


「昨日の最後の方は悪くなかった。思い出してもう一度やって。」


 あれ?でもちょっと昨日より優しい気がする。普通に対応されるのに慣れてないし、昨日の件もあるから変に意識してしまいそうだ。


「うん!やってみるよ!」


 集中して意識を丸太に向ける。イメージだ。……丸太を風で真っ二つにするイメージ。


「……はぁ!」


 手から風の魔力が生まれ黄緑色に発光する。そして頭上から風が降ってくる。


 サワワワ~ッと辺りの花が揺れる……だけだった。


「夏には役立ちそうね。」


「……そうだね。」


 最初の頃のそよ風よりも更に弱い風圧は上回ってきたが、扇風機を強にした程度にしかなっていなかった。これではとてもじゃないが攻撃魔法とは呼べない。


「レイ、どんなイメージしたの?」


「えーっと、その丸太を真っ二つにかち割るようなイメージかな。」


「どんな物で?」


 どんな物?……それは考えてなかったな。俺には風の斧や鎚みたいな魔法は無理だろうと思って特にイメージしなかった。


「……それは考えてなかったよ。」


「丸太を割るイメージは必要。じゃないと目標も定まらないし威力も決まらない。だけどただの風では丸太は割れない。分かる?」


 なるほど。確かにその通りだ。要するに俺は風の魔力で純粋な風を生んで丸太を割ろうとしていたって事か。


「意味は理解出来た。プップさんみたいに斧をイメージしてやってみるよ!」


 俺は再度集中する。斧を持ち、振りかぶって振り下ろす。イメージだけだとなんかしっくりこなくて体を実際に動かしてみた。


「……出来た!当たらなかったけど、これは成功だよね?!」


 生み出された小さな不可視の風の斧は、見事に丸太を外して花を1本切り落とした。今まではそよぐだけだった花を切り落としたんだ!これは大いなる一歩だ!


「動きが奇妙。」


 奇妙ね。……確かにエアーギターならぬエアー斧の動きをしたからね。


「そんな動きをするなら実際に斧を持っても変わらない。折角の風が死ぬ。変な癖がつくから止めて。」


「はい。」


「もう一度。」


「はい。」


 それから1時間くらい斧をイメージして魔法の練習をした。だが、威力を上げようとすると明後日の方向へと魔法は放たれ、斧を意識しつつ丸太を狙うと風の斧すら生まれない。そんなことを繰り返すだけで全然進歩しなかった。


「レイは夏を涼しく過ごすために魔法を使いたいの?」


 くっ。言い返してやりたいところだが、まだ一度も成功していない手前何も言えない。


 実際魔法を使うというのはかなり難しかった。

 まず意識をするのは魔素を魔力に変えるということ。これが成功しない限りはいくら斧をイメージしたところで無駄だ。失敗すればそよ風すら生まれない。


 次に斧を作り出す事に意識を向ける。生み出された風の魔力を斧の形に変えるような感じだ。


 そして斧を明確に目標へ向けてイメージ通りの威力を持たせて勢いよく振り下ろすような感覚。


 これらをほぼ同時に行わなくては魔法は上手くいかない。はっきり言って出来る気がしなかった。


「風魔法は後はひたすら練習。次は母様に頼まれた空間魔法。」


 風魔法は練習あるのみか。


「空間魔法ってそもそも何なんですか?」


「よく分からない。」


 なにそれ。これほんとに教えてもらえるのか?


「妖精族は種族固有の力として空間魔法を使っている。でもそれも二つだけ。妖精の鍵と妖精の(かばん)。」


「かばん?」


「そう。この鞄の容量より多くのものを入れられる。丸太とか花とか。この鞄の10倍くらい入る。重くない。」


 よく地球の話に出てくるアイテムボックスみたいなものかな。


「へー、それは便利そうだね!」


「妖精の鍵は外へ出ていくというのなら教えられない。」


 まぁそりゃそうだ。そんな簡単に一族の命運が掛かってるといっても過言じゃないものを教えられるわけないか。


「もちろん教えて貰える魔法だけでいいよ!妖精の鞄も持ってたら便利そうだし!」


「……母様は空間魔法を教えろと言ったが、種族固有の魔法だから間違いなくレイには使えない。鞄も作らないといけないから時間もかかる。でもやり方だけなら教えられるけど。」


「うん!それでもやってみたいんだ!教えてもらえる?」


「わかった。」


 ピピンさんはまず鞄の作り方を説明してくれた。

 妖精の鞄を作るにはまず空間魔法の魔力を糸にひたすら練り込んで魔力糸を作る作業から始まる。大量に魔力糸は必要とするのでそれだけで数日はかかるらしい。


 その後魔力糸を織機で魔力布にし、それを魔力糸で縫って鞄を作る。

 妖精の鍵を応用すると自分の魔力以外は通さなくなり、自分しか使用出来ない鞄を作ることも出来るらしい。


 とりあえず分かったことは、今のところ妖精の鞄も時間がかかるから空間魔法は会得出来なさそうだということだ。


「やりたければ糸は用意してあるから空間魔法を意識して魔力を流す練習は出来る。」


「そうだね!風魔法以外の空いた時間には糸に魔力を流す練習をしてみるよ!あと一つお願いがあるんだけど。」


「嫌。」


「え?」


「どうせ嫌らしいお願い。レイは獣。ベジビースト。」


 それもお願いしてみたいけど、今回は違います。


「違うよ、妖精の鞄を実際に使ってみたいなぁと思って。」


「……それなら別に構わない。魔素を魔力に変換させる練習は必要だから、どのみちやらせるつもりだったわ。」


「ありがとう!」


 ピピンさん手作りの妖精の鞄はとてもオシャレだ。プップさんのは花を大きく描かれたプップさんらしい可愛い鞄だったが、ピピンさんのは幾何学模様のようなデザインでそれをよく見ると花に見えるというかなりのハイセンスなものだった。

 2人とも肩掛けの鞄だが、作り手のセンスがハッキリ出ている。


「じゃあ何を入れよう。あの石にしようかな?」


「綺麗にしてる。変な物は嫌。これ。」


 ピピンさんのこだわりが判明したところで、ピピンさんは胸に止めてあったブローチを手渡してきた。丸太はよくて石が駄目ってのはどんな理由だろうか。


「綺麗なブローチだね!」


「ん。作った。大切にしてる。」


「手作りなの?!すごいよ!俺なんかが触ってもいいの?」


「いいから。早く入れて。」


 ピピンさんは少し恥ずかしそうに肩から斜めに掛けたまま鞄の留め具を外して開けた。なんかピピンさん良い。


「どうせ鞄に入るだけで、亜空間には入れられない。早くして。」


 いかん、あまりの可愛さについつい見惚れてしまって急かされてしまった。


「よし、じゃあやってみよう!別の空間に入れるようにして魔素を魔力に変換かな。」


「そんな必要ない。鞄が完全なものであれば空間魔法の適性があるか空間魔法をある程度習得していれば勝手に魔力が反応する。」


 むぅ。空間魔法の概念がよく分からなくなってきたぞ。やっぱり魔法は色々と深そうだ。


 空間魔法をある程度習得というのは鞄を作れるか作れないかと言ったところだろうか。空間魔法の適性も怪しい。

 正攻法では上手くいかなそう。やっぱりイメージしながらやってみようかな。


「よし……えい!」


 俺は亜空間に放り込むようにしてブローチを鞄へと入れた。


「見てみて。」


 ピピンさんに言われて鞄を覗き込んだが普通に鞄の中が見えるだけで何も入っていなかった。


「ブローチがないよ!もしかして成功!?」


「……亜空間を見てみる。」


 そういってピピンさんは妖精の鞄に手を突っ込んだ。だがゴソゴソと探すそぶりを見せ、中々ブローチを取り出さなかった。


「無い。どこにやったの。」


「え?なんで?でも鞄にも入ってないし、亜空間に入ってる筈なんだけど。俺がやってみてもいい?」


「ん。」


 ちょっと不安な顔をピピンさんが見せる。やべぇ、ブローチ大切にしてるって言ってたな。見付からなかったらどうしよう!


 緊張しながら鞄に手を入れると、鞄の底よりも深く手が入り込んだ。一瞬鞄まで破いたのかと思って焦ったが、見ると破れた様子はなかった。

 亜空間に手が入ってるんだと確信して、ブローチを取りだそうと手を動かすとブローチが手の平に現れた。


「あっ!あったよピピンさん!!」


「さっきは無かった。……何をやったの?」


「いや、普通に亜空間から取り出しただけの筈なんだけど……こう亜空間に手を入れるような感じで……って何だこれ!!」


 亜空間に手を入れただけだというのを伝えようとジェスチャー付きで説明しようとしたら、何故か肘から先が無くなっていた。

 慌てて手を確認しようと動かすと引いたところから徐々に手が現れる。そして消えていた部分が現れるのに合わせてその境目の部分が少し歪み波打つ。

 手を完全に引いたと同時にその空間の歪みのような現象も消え去り、普通の景色と同化していった。

 

「今のもしかして……亜空間?」


「……みたいね。さっきも私の鞄じゃなく、レイの亜空間へ収納されていたから見付からなかったのね。」


「じゃあ、妖精の鞄が無くても亜空間を使えるって事?そんなこと有り得るの?」


 得意のパニック状態となり捲し立てるように質問すると、ピピンさんは「やっぱりレイは変」と深く息を吐いた。





「そっかぁ~!やっぱりレイくんはすごいんだねぇ~!わたしの目に狂いはなかったさ~!」


「プップ、レイは空間魔法の適性が高いみたい。(さら)われないように気を付けて。」


「攫いません。」


「レイくんになら攫われてもわたしは嬉しいよ~?」


「攫いません。」


「プップ、攫われたらベジガールにされるわ。」


「ベジガールにしませんし攫いません。」


「ベジガールもいいかも~!どうせならマトマがいいかなぁ!」


 昼食の時間になり一旦家へ戻るとプップさんが魔法の練習の成果を聞いてきた。

 そこで俺の秘技である'亜空間人参の消える腕’を見せたところとても喜んでもらえたのだ。ついでに腕を抜く際に花畑で摘んどいた花を取り出して手渡すと飛び跳ねて喜んでくれた。

 プップさんのそういう純粋なところすごく好きだな。


「レイ、ここからはまじめな話。いい?」


 先程までも毒吐きクールビューティーだったのだが、今度は真っ直ぐに俺の目を見て真面目な顔で質問をしてきた。


「うん。いいよ。」


「レイはいつ生まれたの。」


「えっと……まだ20日とちょっとだけど。」


「私達と会うまではただの草。じゃあいつその印をもらったの。知識も20日程度しか生きていないとは思えない。」


 くっ、流石はピピンさんだ。攻めることに関しては一級品の腕を持っている。

 どうしよう。どう答えたらいいんだろう。キーナルメナンの話とかしていいのかな。でも駄目だったらヤバいし。


「これは友達に貰ったんだ。他言無用の約束をしたから詳しくは話せないけど。」


「そう。じゃあその印を授けた精霊はどんな力を持っていたの。」


 どうしたんだろう。ピピンさんがとてもしつこい。らしくないほどに。


「ピピン、レイくん困ってそうだよ~?止めてあげようよ~。」


「プップ、私の為じゃない。レイの為。このままじゃ大森林では生きていけない。」


「ピピンさん、ありがとう。……でも本人の許可を得ないと教えられないんだ。」


 口の軽い奴ギャ!とかいってピューヒエル怒るかもしれないし。


「…………そう。」


 ピピンさんはふて腐れたようにプイッとそっぽを向いた。自分だって妖精の鍵を教えられないとか言ってたくせに。


 それから残りの半日は口も聞いて貰えず、一人で黙々と魔法の練習をしたのだった。でも何故かピピンさんは花畑で花と戯れていたけど。ツンデレーション。

 


 

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