その鎌の名前は、
あたしが『死神』だと名乗ったその後、直ぐには受け入れることが出来なくて、僅かにパニックを起こす人間のその様が、
相変わらず、大好き。
―その鎌の名前は、
「メリーって呼んで仲良くしてね、奏助」
どうせ、少しの間の付き合いなんだから。
大野が踏んでいたためにマントに付いた土を、メリーは右手て払った。
「仲良くなんて出来るか!ふざけんな」
「神様と仲良く出来るなんて、滅多にないチャンスなのに」
「神って言っても死神だろ」
断固拒否する大野。
メリーはそんな大野に溜め息を漏らす。
「嫌がったってね、君を刈ることはもう決定事項なの」
だから、諦めなさい。
大野のように、なかなか事実を受け入れることが出来ない人間は、多い。むしろ、それがほとんどだ。
だがしかし、かと言って死神側も「はい、じゃあ止めましょうか」と引き下がることなど出来はしない。
刈り取ることが、仕事なのだから。
「第一、俺はお前が死神だなんて、まだ認めた訳じゃないぞ」
大野がふと思い立ったように言う。
嘘ばっかり。認めて、信じていたから取り乱していたのでしょう?
「それなら、どうしたら認めてくれんのよ」
死神にしてみれば、認めていようがいなかろうが、最終的に刈ることには変わりはないので、相手の心情などどうでも良かった。
死神仲間の中には、ターゲットを見つけた瞬間に何の説明もせず刈り取る者もいるくらいだ。
たが、メリーはその様な仕事の仕方は好まない。
ターゲットと親睦を深めた上で、心を刈る。そのスタイルを毎回取るようにしていた。
何も知らないうちに、なんて可哀相でしょ。
「じゃああれだ。死神っちゃあ大鎌持ってんだろ?」
安直な死神のイメージ。
確か死神は大鎌を振り降ろし、魂を刈り取る仕事をしているはずだ。
見せてみろよ、と大野は言った。
「持ってるわよ。ほら」
そう答えると、どう隠し持っていたのか、メリーはマントの内側から小振りの鎌を取り出した。
死神の鎌と言い表すには幾分か可愛らしすぎるデザインではあったが、それは確かに鎌の形状をしている。
「ただ、あたしのは『大鎌』と呼ぶには小さすぎるから…」
メリーはややむくれながらも、真剣な表情を保ち、続ける。
「…オカマ?」
どうやら、『オオガマ』のオを一つ減らしたらしい。
大野は思わず呆気に取られた。
「は?」
「あたしの死神としての実力は折紙付なのに、なんで鎌だけこんなに小っさいのかなあ」
どうやら彼女自身も『オカマ』には不満があるらしく、ひたすら文句を紡いでいた。
大野にしてみても、その鎌に対して――特にネーミングに関しては不満を抱かずにはいられない。
(俺、オカマに刈られるんだろうか)
一人うなだれ、息を吐く。
頭痛は治まりそうにない。




