CASE.10
あれから団地に巣食う霊の特番を流し、それなりの反響を得た。ほぼ同時期に出したオカルト雑誌は割と売れて廃刊は免れる。
「飛ぶように売れると思ったんだけどなぁ……」
思ったよりも売れなかったことを嘆く経集長。最近の売り上げからしてみれば快挙と思えるほど売れたのだからそれほど文句を言うことはないだろうと俺は考える。
だいたい、楽しみにしていた特番もテレビで見ればちゃちく見えた。
編集長がスマホで撮っていたあの花火のような映像が起用されていたのだが、何せCGにしか見えない。後からCGで付け足すよりも色味が馴染んでいて自然に見えるが、起こっていることが異常すぎて本当に起こっているものとは考えられない。
屋上の映像も幽霊の類が映っておらず、裏拍手の音だけが入った映像。必死さこそ伝わってくるものの、演技にしか見えない。正直に言えばこれを肌で感じてなかったら作られた映像だと鼻で笑ったことは想像に難くない。
これでは興味を持つのが厳しいだろう。買ってくれているのはオカルトに興味があり、いつも購入してくれているヘビーユーザーや特番で釣られたそれなりの視聴者くらいのものだろう。一昔前であったなら信じてくれたのかと思うと生まれた時代を間違えたと落ち込みもする。
しかし俺は次の給料を楽しみにでき、経費が戻ってくることと廃刊を免れたことで余裕を持っている。編集長の嘆きを無視してデスクで頬杖を突きながら事務所に設置されたテレビを点ける。リモコンを操作しながらニュースにチャンネルを合わせ、音量を上げる。
ニュース内容をぼんやりと聞きながら誰にでもなく口を開いた。
「なんか最近自殺が多いっすね〜」
編集長もテレビを見て生返事を返す。
「俺オカ板見たんすけど、なんか団地の周辺の住宅の屋根の上に手を振る人影を見たとかって話が出てるんすよ。それもここ最近の話なんで、これってあの団地の除霊の後なんじゃないかって思うんすけど……もしかして、あの団地周辺の住宅街が飛び降り幽霊のせいで死人が増えてるってことはないっすよね?」
ふと思ったことが口に出てしまった俺の言葉に編集長はため息をつく。
「被害妄想ならぬ加害妄想か? 馬鹿言ってんじゃねぇよ。自殺なんざどこでもやっていることだ。日常だよ日常」
編集長は呆れたように言い放った。苛立ちも含まれた声に違和感を感じて続けて質問をする。
「そういえばお抱えの霊媒師はどうしたんです? また番組に呼ばれるようになってるとか?」
俺の素朴な疑問に編集長は少し黙り、ちょっとして口を開く。
「あいつなぁ……あの後よぉ、あのプロデューサーから連絡が来てな? あいつの連絡先を知らねぇかって聞かれたのよ。でもあいつら名刺交換してたし、知らねぇはずはねぇんだよなぁ……」
編集長は遠い目で虚空を見つめる。
後で分かったことだが、霊媒師Yさんと助手のJさんは拠点を捨てたのか夜逃げ同然で荷物をそのままに失踪したらしい。
俺はモヤモヤとする気持ちを抱え、たまらず立ち上がる。
「いいんすかっ? これで。俺らがやったことってマジでいいことだったんすかっ?!」
編集長は訝しい顔を向けてきた。しばらく睨み合う形で静まり返っていたが、何を言いたいのか察したように半笑いで俺の質問に答える。
「……は? 何お前。何言い出しちゃってんの? 急に正義感に目覚めちゃった?」
編集長の態度にイラッとした俺は「正義感とかそんなじゃなくて……!」と口答えする。編集長はあからさまに肩を竦めて見せた。
「お前さぁ、もう終わったことにぐちぐち言うなよ。なんだ? お前。その言い方からすると俺だけ悪もんか? お前だってノリノリでやってただろうが。今更何言ったって後の祭りなんだよ。それとも何か? お前今の自殺騒動を何とかしてみるか? アレにもう一回関わってみるか?」
編集長は意地悪にもどうしようもない状況を突きつけてきて俺は口籠った。編集長はそんな俺を見て勝ち誇ったように鼻で笑った。俺はこれ以上何をすることもなく椅子に静かに座る。
俺はもう二度とあの辺りを彷徨くことはないが、きっと今でも道連れを探して住宅の屋根の上で悪霊たちが手を振っているに違いない。日毎に増えているような自殺者の数に目を瞑り、俺は今日もコンビニのおにぎりを頬張る。
俺たちがやったことは本当に正しかったのか今となっては分からない。
それでも時は進んでいくようで、残された団地は取り壊しが決定した。




