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「ヤバイよ~お母さんに怒られちゃうよ~」
「思ったよりも遊びふけってしまったわね」
真菜と鏡花は商店街・・・・・から少し離れた川沿いの老舗の本屋で一日中本を見ていた。女子中学生の好みと考えると渋すぎるラインナップだったが、却って斬新かつ新鮮で思わず読みふけってしまった。
そして老舗故ある意味当然と言えば当然なのだが、所謂「ライトノベル」の類いの本が置かれていなかったのだ。今時の中学生には敬遠されがちではありそうだが、だからこそ「轍山寅次郎」といった文豪の作品に触れる良い機会だとして鏡花はこの店を紹介した。
しかし、その店を出たときだった。
「ねえ・・・・・あれ、何・・・・・!?」
「あれは・・・・・・喧嘩?」
真菜は対岸で起きている騒ぎに気がついた。何やら学生と男性が諍いを起こしているのが見える。
「鏡花ちゃん、もしかしてあれって・・・・・」
「ええ・・・・・・間違いなく“見返”って奴ね」
鏡花は目を細め、対岸の男をにらみつける。彼女の目には不良相手に無双する勇者が映っているであろう。
「真菜、水面。お前達もここに居たのか」
「「ゼロさん!!」」
本屋の屋根の上から話しかけられ、二人は声のした方を見上げる。そこには長ランを纏った少年が身をかがめて対岸をにらみつけていた。
「二人とも、見たか?あれがあの男の正体だ」
「・・・・・・・・・・・・・!!」
真菜はゼロの言葉を受けて、もう一度対岸に目を向ける。そこには不良達を一方的にいたぶるおっさんの姿があった。
「ひっ・・・・・・・!!」
隣で見ていた鏡花は短く悲鳴を上げた。高校生ぐらいの少年達が、一人の大人の男性に骨格が変わるほど殴られている。そのおぞましい状況に恐怖しない女子学生はいないだろう。
「ねえ、ゼロさん!!なんであんな人たちと戦おうとするの?!絶対ヤバイよ!!」
「真菜、確かにその気持ちはわかる。だが・・・・・・」
ゼロは真菜の訴えに対してこう答えた。
「俺は“異世界”から来ている以上、異世界がらみのトラブルには極力付き合うべきだと思っている。お節介を焼いていると思われるかもしれないが、あんな奴をこっちの世界に寄越しちまったのも俺たち“異世界”に住む者の責任だと思っている。それに・・・・・・」
「目の前で力なき者が貰い物の力を振りかざしている奴にいたぶられているのは、俺は見ていたくない」
バフォオッ!!と漆黒の翼をはためかせ、ゼロは飛び立った。
「ねえ、あれ止めに行った方がいいよ!!なんかヤバイよ!!」
「・・・・・・・・・・・久遠原さん、言ったでしょう。これはゼロさんが対処すべきこと。私たち女子中学生がなんとか出来るわけ無いわ」
真菜の提案に対し、鏡花は厳しい口調で諭す。
「・・・・・・・・・・・・・」
しかし、真菜は腑に落ちなかった。目の前で誰かが傷つけられているのを見て見ぬ振りするのか。彼女自身がそのことに納得できなかった。
やがて、真菜は意を決したように目をつむると、スマホのアプリを起動させた。
老舗の本屋の対岸、商店街の路地裏は惨状と化していた。不良少年たちは皆大人の男に叩きのめされ、顔の骨格が変わるほど痛めつけられていた。
「ちょ・・・・や、ヤバいんだけど・・・・・マジ、あり得ないんだけど・・・・・」
ギャルはガタガタと震えながら、じょろろろ・・・・・と失禁していた。彼女の足下にはスマホが落ちていて、ギャルの漏らした尿の水たまりに沈んでいる。
そんな彼女の前で、霧島は満身創痍で見返と対峙していた。
「テメェ・・・・何しやがる・・・・・俺の仲間に手ェ出しやがって・・・・・・」
「先に手を出したのはお前達の方だろう?俺はただ“正当防衛”としてお前達に抵抗しているだけだ」
「だからって・・・・・・ここまでする必要は無いだろうが!!」
顔がボコボコに腫れ上がり、手足を折られたダチ公たち。この惨状を見てそう言わずには居られなかった霧島は怯えながらも、拳を振りかぶって立ち向かう。
「うぉおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああ!!」
「かかってこい。返り討ちにしてやる」
そう言って悠々と仁王立ちしている見返。やがて霧島がおっさんの元にたどり着こうと言うとき。
ゴシャアッ!!と誰かが見返を頭上から蹴りつけた。
「ゴブッ・・・・・・・・・!?」
ライダーキックのような見事な蹴りを食らった見返は顔面から地面にたたき伏せられる。さらにその頭を巨人のような翼がつかみあげ、
「テメェには少しご退場願おうか」
ドラム缶の山に思いっきり投げ込んだ。ガロンガロンガロン!!という轟音が路地裏に響き渡る。
「ひぃいいいい!!」
ギャルの脇すれすれに大の男を投げつけられ、じょろじょろと小便を垂れ流しながら、倒れ込むように霧島の方に駆け寄っていく。
「・・・・・・・オイオイ・・・・なんだよ、オマエ・・・・・」
へたり、と座り込んだボロボロの霧島が見たのは、背中に巨大な翼をもつ少年だった。漫画とかでよく見るような者では無く、もはや「腕」とも形容できるそれを折りたたんだその姿は、さながらマントを纏う魔王のようだった。
「危ないところでしたね。少年」
「少年って・・・・・テメェの方がガキだろうが・・・・よ・・・・」
その少年に噛みつこうとする霧島だが、ボロボロの体ではロクに立ち上がれない。
「あなたとこれから一勝負しても良いのですが、残念ながら私には先客がいるのです。・・・・・オイ、死んだふりしてねぇでさっさと出てこいよ、老害」
ゼロが土砂崩れを起こしたドラム缶の山に吐き捨てるように言葉を投げかけると、ガラガラと音を立てて見返が這い出てきた。
「痛ぇな・・・・・お前、やっぱりただ者じゃねぇな。魔王幹部・・・・・いや、それ以上か」
「魔王幹部とか、いい年こいて恥ずかしくないのか?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
しばし互いに沈黙した後、
ドゴッ!!と、正拳突きと蹴脚が衝突した。
「うぉおおおおおおおお!!」
「うぎゃぁああああああ!!」
霧島とギャルはその衝撃波に煽られ、悲鳴を上げる。
「お前、何のためにここに来た。俺は躾のなっていない子供達に教育していただけだぞ?」
「成る程。お前みたいな奴が“モンスターペアレント”って奴だな。だったら教えてやる。世間ではそれを“教育”とは呼ばない。ただの“虐待”だ」
バチィン!!と再び衝撃波が走ると、少年は飛び下がる。そしてそれと同時に近くの錆び付いたパイプを腕翼の鉤爪で切り取り、それを手に取った。
「・・・・・なあ、アンタ。何者なんだ・・・・・?」
「私はしがない中学生ですよ・・・・・と言いたいところですが、こうして私の姿を見られている以上、こう名乗っておきますね」
霧島にそう答え、少年は男に向き直る。
「私は“グレイシア・ゼロ・ファーレンフリード”、“異世界の魔王”です・・・・・今のうちに小便漏らしておけ、厨二病ジジィ」
「俺は“見返再三”、“元勇者”だ!!覚悟しろ、クソガキ!!」




