6-21
「最悪だ・・・・・この城の、俺の要のシステムが・・・・!!」
黒鉄は頭を抱えていた。襲いかかってきたドローンを自爆させたはいいものの、肝心な装置を破壊された黒鉄は絶望に打ちひしがれていた。彼がこの国を発展させ、自らの力を強大なものに仕立て上げた要を失った彼のショックは計り知れない。
「クソッ!!クソッ!!クソッ!!」
「そうやって悪態吐いていれば良いさ。ゲーム感覚で命を犠牲にしてきたつけが回ってきたと思え」
「ふざけるんじゃねぇ!!都合良くフラガラッハを従えられたからって調子づきやがって!!」
「都合良く、ねぇ・・・・・寧ろこれまでずっとこいつらを従えられていたお前の方が都合が良いと思うけどな」
強大な能力を行使した反動からか、トーヤはその場に座り込んだまま動かない。しかしそんな状態でも、黒鉄は彼に手を下そうとはしなかった。
「どうせソシャゲ感覚で回してきたんだと思うが、その代償に使っていたものの価値を、オマエは解っているのか?言い方は悪いが、金さえ消費すれば回せる課金なんかとは訳が違う。何の対価も無しにそんな都合のいいものをポンポン手に入れられると思ったのか?」
「クソッ・・・・・・・・・糞がぁああああああああああああああ!!」
黒鉄は勇者の剣を掲げ、トーヤに肉薄する。きっと彼のことが憎くて仕方が無いのだろう。だが、突如「謁見の間」の床からボゴォッ!!と植物が生えてきて、黒鉄を縛り上げた。
「ヨクモ!!ヨクモオデタチノナカマニテヲカケタナ!!」
「木の・・・・モンスターさん!?」
顔のようなしわを持つモンスター、トレントが黒鉄に反旗を翻したのだ。否、彼だけでは無い。この国で黒鉄を内心憎く思っていたモンスター達が、一斉に自我を取り戻したのだ。城の外からも解るほど、雄叫びがこだましているのが聞こえる。
「すごい・・・・・みんな、怒ってる・・・本当に、操られていたんだ・・・・」
「マナが解るって事は、やはりコイツの糞みてーなシステムで無理矢理操っていたって事か。だとすれば、“何も言わない”って言ってたのにも納得だ」
「うん・・・・・みんな、操られてたみたい。よかった・・・・・」
マナは胸をなで下ろしている。押さえつけられていたモンスター達の意志が再び呼び起こされたことに安堵しているのだろう。
「俺に、楯突くんじゃねぇえええええ!!」
「ギャァアアアアアアアアアア!!」
「ああっ!!トレントさん!!」
黒鉄は炎の魔法でトレントを焼き払った。「不壊の鎧」を身に纏った男が再び解放される。
「ひどい!!なんであなたは召喚したモンスターさんに、そんなことができるんですか!?」
「マナ・・・・・・?!」
黒鉄の働いた暴挙に食ってかかるマナに、トーヤは驚く。
「だって、あなたの仲間なんでしょう!?なんでこんなひどいことするんですか!!自分の言うことを聞いてくれないからって、こんなことしたらいけないんじゃないんですか!?」
「黙れッ!!攻撃されたら反撃するに決まっているだろう!!お前はバカなのか!!」
「バカでも良い!!話し合いもする気のない人にそんなこと言われたって、悔しくないもん!!ちゃんと話して、言葉で会話して、わかり合おうとしない人に、バカって言われる筋合いは無いもん!!」
「オイバカ、やめろ!!」
売り言葉に買い言葉なマナを、トーヤは制止する。モンスターの心が解る彼女にとって、やはり看過できない事なのだろうか。
と。
「トール様~~~~~~!!」
白いドレスを身に纏った少女____エリスが「謁見の間」に駆けてきた。走る旅に豊満な乳房をぶるんぶるんと揺らし、前側が開いているせいでパンツが丸見えになっている彼女は、お世辞にも上品とは言えなかった。
「大変です!!国中の魔物達がトール様を討つべく城に殺到しています!!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
黒鉄の方に向かって駆けながら、エリスは今の状況を伝えようとしている。それに対して、黒鉄は横目で彼女をにらみつけながら黙りこくっていた。
「(ッ!?なんだ・・・・・・この妙な胸騒ぎは・・・・!?)」
その様子を見ていたトーヤは、何やら寒気を覚えていた。
「このままでは、トール様の身が__________」
と、エリスが黒鉄に駆け寄ろうとした、そのときだった。
ドォン!!と火薬が破裂する音が鳴り響いた。
「_________え」
エリスは驚いたように目を見開いていた。彼女の鎖骨のやや下辺りに、赤黒い風穴が開いていた。ゴフッ、とわずかに咳き込み、彼女の口元から赤い液体が垂れる。
銃口をこちらに向ける黒鉄に向けて、エリスは何かを言おうと口を開く。
「とーる・・・・・・さ・・・・・」
ドォン、ドォン!!と黒鉄は続けて引き金を引き、鮮血を散らしながらエリスは倒れた。
「俺は間違っていた」
もうもうと硝煙を上げる銃口を仰向けに倒れたエリスに向けたまま、黒鉄は口を開いた。
「やはり、何者も信用ならないことだ。システムも、手下も、何もかも。______だから万一にでも俺に仇なす可能性のあるものは“徹底的に”潰す」
「オマエ・・・・・本当に正気じゃねぇ!!」
トーヤはこれまでに無いほどに真っ青になって叫んだ。その手元のフラガラッハが白く瞬いている。
「コイツ・・・・・ “召喚システム”を運用する前から居た、最初の仲間じゃ無いか!!“システム”での洗脳を行っていない数少ない奴のハズ・・・・・本当になんでこんなことをできるんだ!!」
「二度も言わせるな。だから万一にでも俺に仇なす可能性のあるものは“徹底的に”潰す。それが俺のやり方だ」
「・・・・・・・・・待てッ!!」
トーヤは背中のフラガラッハを脚に纏わせ、無理矢理立ち上がる。しかしその間に黒鉄は「ワープ」の魔法で虚空に消えた。
「トーヤ様!!無事でしたか!!」
どこからか、「召喚システム」を破壊してきたゲイボルグ達が大急ぎで駆けてきた。なぜか下着姿のゲイボルグは白衣を羽織っていて、その持ち主のネロはシャツとスラックス姿でグーフォの肩に手を回している。
「ゲイボルグ、その様子だと立ち直れたようだな・・・・・」
「一体、これは・・・・・・・?」
「・・・・・・・黒鉄徹が、テメェの側近の女を殺した。“召喚システム”の影響下に居ない数少ない仲間のハズだった」
トーヤはフラガラッハを杖代わりにし、さらに歩行機能を補助させている。そんな彼が見据える先には、既に息絶えたエリスが血だまりの中に横たわっていた。
「アイツは正気じゃ無い・・・・・今まで見てきた奴らも大概だったが、奴はその比じゃ無いくらいヤバイ!!俺は・・・・・あんな奴と同じ人間である事が怖い!!」
「・・・・・・・・・・一つ聞きたい。キミは奴に何か問いただそうとしていなかったかい?」
「・・・・・・細かいことは略すが、奴に“完璧主義者では無い”と突きつけていた」
「成る程。パーソナリティの暴走か」
ネロは深刻そうな顔でつぶやいた。
「恐らく、自身が信条としてきたことを真っ向から否定されたことで精神的に不安定になり、そこに“召喚システム”の喪失でさらに精神的なダメージを負ったんだろうね。そこで自我を保つために“完璧主義”を再度徹底しようと、曲解した状態で突き進み始めたって所だろう」
「クソッ!!俺のせいか・・・・・・」
「・・・・・・正直アンタがどうこう言ったところで、こうなってた気はするぜ?そんなことより、奴はどこに行ったんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・解らない。奴は“ワープ”の魔法で離脱した」
トーヤはばつの悪そうな顔で答えた。黒鉄を追い詰めるために行ったことが、ここに来て裏目に出ると思わなかったのだろう。ましてや、自分を信頼してくれている仲間を手に掛けるという暴挙に働いたのだ。その心理が理解できず、困惑しているのもあるのだろう。
「兎に角、追いかけましょう!!」
「今、この城に大量の生命反応が押し寄せている。それは奴も当然解っているハズだから、逃げ込むとすれば屋上か地下だろうね」
「そして実質的に逃げ場の無い地下よりも、見通しの良い屋上を選ぶだろうな」
「・・・・・・解った。とりあえず屋上を目指そう・・・・・・・マナ、いくぞ」
トーヤは自己嫌悪感に身を焦がれながらも、歩を進めようとする。しかし、声を掛けられたはずのマナは、倒れ臥したエリスのそばで彼女を見下ろし、動かない。
「・・・・・・・・・・マナ?」
何やら様子のおかしい彼女の名を呼んだ、そのときだった。
「グウウウウ・・・・アヅイイイイイイイイ」
黒鉄の炎に焼かれ、のたうち回っているトレントの声が耳に付いた。苦痛に呻く耳障りな悲鳴を上げる。
だが。
「ダけドォオオおオおおおおオ・・・・・・・・・コの子ノ怒りノホうがぁあああああアああああ・・・・・もっとあヅいいいいいいいいいい」
ググググ・・・・・と痙攣するようにトレントは身をかがめた。その身はほぼ炭のように真っ黒になっている。
そして。
「なんのこれしきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」
トレントを包んでいた炎が蒼く輝き、ゴウッ!!と燃え上がった!!
「きゃっ!!」
あまりの熱量にゲイボルグが短い悲鳴をあげる。余命幾ばくも無く燃え尽きるはずだったトレント。しかしその様子が一転、文字通り炎のように激しく躍動し始める。
さらに「謁見の間」の床に、壁に、天井に、トレントを中心に蒼炎が走る。否。トレントから伸びる炭のような根が張り巡らされ、それの表面を蒼炎が覆っているのだ。
「これは・・・・・・奴の炎属性の魔力を吸収し、自身の生命力に変換した・・・・・ってこと?!こんなの、見たことが無いよ!!」
「オイオイ・・・・・あの子の怒りに呼応して、進化したって言うのか!?」
ネロとグーフォが、口々に叫ぶ。どうやらこのトレントはマナの怒りに応じて、自身を進化させたようだ。
そして、どこからかトン・・・・・・と、漆黒の巨体が「謁見の間」に舞い降りた。ここで初めてマナは動きを見せた。マナはそのやってきたモンスターに向き直り、安堵したように微笑んだ。
「よかった・・・・・・・無事だったんだね」
そしてそのモンスターに、トーヤ達は見覚えがあった。
「お前は・・・・・・・?!」
「クソッ!!つくづく使えないな!!」
黒鉄は苛立ち紛れにガンッ!!と鉄の塊を蹴りつけた。目の前には異世界の「ヘリコプター」が鎮座していた。
剣山のような城の屋上。そこは剣のような外壁がそそり立つ先に毒々しい紫の空が広がって居る。本来なら緊急時にここから脱出するハズだったのだが、肝心のローター部分を破壊され、逃げ出すことすら叶わなくなっている。
「(どうするか・・・・・流石に城の外まで“ワープ”で逃げ・・・離脱することは出来ない。脱出ポッドも使えない。どうしたものか・・・・・)」
と、思考を巡らせていた時だった。メキメキメキメキ!!とすさまじい勢いで蒼炎を纏った巨大な漆黒の植物が生えてきた。
「う、うぉおおおおお!?」
まるで石炭がそのまま茨になったかのようなそれは外周壁を次々と飲み込んでいき、屋上の床から引き剥がした。さらにその床までもがバキバキとひび割れていき、浸食していた真っ黒な植物の根が露わになった。
「嘘だろ・・・・・・この城の強度はどれほどあると思っている!?俺の魔力で無ければ干渉は不可能なはず__________」
そして狼狽える黒鉄の前にスタッ、と何者かが降り立った。
「ありがとう、シロちゃん。トレントさんも、ありがとう」
マナはそのモンスターにまたがったまま、彼の頭を撫でた。シロと呼ばれたそのモンスターは、漆黒の体毛を持ったオオカミの姿をしていた。しかし本来彼には白い体毛が2本のライン状に生えているのだが、その体毛の部分に沿うように巨大な純白の結晶が生えている。さらにそのたくましい四肢や翡翠色に輝く目の周辺など随所にも結晶が生えており、体格も二回りほど大きくなっている。まるでアーマーを纏った狼のようだ。
「帰ってきてすぐで申し訳ないけど、私のお願いを聞いてくれる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
マナの普段の穏やかな口調はなりを潜め、抑揚の感じられない、非情に冷徹なものになっていた。そんな彼女の心を表わすように、シロも無言で黒鉄に向き直る。
「私、どうやってもこの人だけは許せない。自分勝手にモンスターさんの命を粗末にして、自分の事を否定されたからって、大切なはずの人を殺して・・・・・そんな人がこの国の王様なんて、私は認めない」
その目は普段の彼女から考えられないほど暗く、そして静かに怒りに燃えていた。
「シロちゃん。この人を倒そう」
「VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
あの「杉田努」を怯えさせた野太い咆哮が、魔界の空に響き渡った。
「なんてことだ・・・・・・・・・・・・あの子が、まさか・・・・・!!」
「おい、ネロ!!どういうことだ!!アイツに何があった!!」
トーヤは呆然とつぶやくネロに向かって叫んだ。彼らは皆、頭上に開いた空間を見上げている。蒼炎を纏ったトレント「ウルカヌス」が「謁見の間」の天井を穿ち、さらにその先に広がっていた空間さええぐり取り、黒鉄のいる居る屋上を孤立させたのだ。そしてマナはシロの背中に乗り、外周壁と床の間に出来た溝から飛び出し、彼と対峙しているのだ。
「解らない・・・・・だけど、あの子はドレッドファングでも、スケアリーファングですらも無かった!!」
ネロは驚きと困惑、さらに幾つもの感情に身を震わせている。
「絶滅していたと思ってた・・・・・・あの白い結晶を纏った姿、翡翠色の目・・・・・・あのドラゴンたちとも肩を並べる、“神を喰らう者”・・・・・・・・・・」
そしてネロは、その名を口にする。
「“餓狼フェンリル”!!まさかあの幻の狼の末裔が、この世に存在していたなんて!!」




