6-13
「フッ!!」
「!!」
トーヤは叫ぶとともに前に勢いよく跳躍した。魔力による脚力強化で一気に黒鉄に肉薄する。予想外の速度に、黒鉄は一瞬目を見開く。
「死ね」
「断る」
冷徹にも突き出される切っ先をガキン!!と跳ね返す。その後もガキン!!キン!!と剣戟の応酬が繰り広げられる。そして一際強くはじき返した後、
「凍れ!!」
バキバキバキッ!!と剣を振るうと同時に床を斬りつけ、剣戟で巻き上げるように氷柱を発生させる。だがそれは黒鉄に当たると同時にバキン!!と砕けた。やはり「不壊の鎧」は氷柱を通しはしないらしい。
「コイツを喰らえ」
黒鉄は手をかざすと、どこからか砲台の付いたドローンがブゥウウウウン・・・・と飛んできた。それは黒鉄の周囲を漂いながらトーヤに照準を合わせ、一斉にドドドドドッ!!と弾丸を吐き出し始めた。
「クソッ!!」
トーヤは駆け抜けながらどうにか弾道を振り切ると、手にした拳銃の引き金を引いた。撃ち出された弾丸はドローンのファン・・・・・正確にはその根元のローターを捕らえた。続けて2発、3発と撃ち込んでいき、5発ほどでようやくボォン!!と爆ぜ飛んだ。
「(クソッ!!・・・・・・無駄に高い耐久力しやがって・・・・・)」
トーヤはくるり、と回転し、脚を振り回す。蹴脚に載せて氷柱を撃ち出すと、黒鉄を巻き込みながらドローンに着弾する。
「チッ・・・・・・・」
黒鉄はかばうような格好で攻撃をやり過ごしたが、ドローンは凍てつき即座に砕け散る。
「(銃弾の効果は今ひとつか・・・・・奴が隙を晒すまでは取っておきたいが・・・・・)」
トーヤは攻撃がやんだ隙にチラリ、と右手に握る剣を一瞬だけ見やった。
「(俺の剣も、まさか多少切り結んだだけでひびが入るとは思わなかった。“勇者の剣”って奴の強度も桁違いだ・・・・うかつに斬り合うと、逆にやられる)」
先ほどの攻防で、トーヤの剣には既にひびが入っていた。これまでに何本も剣をダメにしてきたが、魔力をコントロール術を身につけてからはほとんど切れ味も落とさず刃こぼれさせずにこれた。だが、トーヤ自身が剣自体に魔力を纏わせたとしても黒鉄の「勇者の剣」の強度は規格外だった。「不壊の鎧」ほどで無いにしろ、そこらの武器を確実に上回っている。
トーヤはマガジンを捨てると、再び「魔力弾」の弾倉を装填した。普通の弾丸では役に立たないと判断したトーヤは魔力弾での立ち回りに切り替えていく。
「消し飛べ!!」
ゴウッ!!という轟音とともに黒鉄の右手からフレイムスロワーが炸裂する。ほぼビーム然としたその炎が、トーヤの進行方向から迫り来る。
「チッ!!」
「?!」
トーヤは舌打ちし、高く飛び上がった。さらにそれだけでは無く足裏から魔力を炸裂させ、パァン!!とその反動を使って空を蹴り黒鉄のフレイムスロワーを飛び越えた。
「(初めてやるが・・・・やはり結構不安定だな・・・・・)」
トーヤは若干体勢を崩しかけた。左手に「絶氷の龍紋」を授かり、生成できる魔力量を飛躍的に高めた後だからこそできる芸当だ。今初めて試みる「空中ダッシュ」だが、案の定重心がふらつく。流石に付け焼き刃では一回跳ぶだけで精一杯だ。
「まだまだだ。奴を追い詰めろ砲台共」
黒鉄の命令に反応するように、さらにブゥウウウウン・・・・と砲台ドローンがどこからともなく飛んでくる。それを見たトーヤはすかさず剣を納め、もう一丁拳銃を取り出した。
「やってみろ」
軽く魔力を弾倉に流し込んだ後、トーヤは二丁の拳銃の引き金を連続で引き、氷柱の嵐を生み出した。ガガガガガガッ!!とサブマシンガンもかくやという速さで連射されるそれは、飛んでくるドローンを次々と凍てつかせた。
「まだだ。もっと足りん」
黒鉄は顔色一つ変えずにドローンを続けざまに呼び寄せる。ブゥウウウウン・・・・と音を鳴らしながら降りてくる度に、トーヤはそれらを狙い撃ちにした。
「数が多すぎる!!錬成だかなんだか知らんが、厄介な奴に渡しやがって!!」
トーヤは愚痴をこぼしながらも、なおも継ぎ足されるドローンを撃ち落としていく。しばしの間平行線をたどっていたが、やがて黒鉄がしびれを切らした。
「面倒臭いな・・・・・とっとと終わりにするか」
「!!」
黒鉄から発せられる嫌な雰囲気に、トーヤは身構えた。次はどんな攻撃を仕掛けてくるのか。そう神経をとがらせる彼の前で、絶望的なことが起こった。
「来い。フラガラッハ。奴を徹底的に始末しろ」
黒鉄の号令に答えるように。虚空から6振りの真っ白な剣が現われた。
「・・・・・・・・・・・・・・!?」
トーヤは背筋が凍った。黒鉄を守るかのように真っ白な剣が漂っている。その剣には見覚えがある。
「(自動追尾型の剣・・・・・・それが6本だと!?厄介の域を超えている!!)」
トーヤは一瞬、自身のコートの中に隠してある剣に意識を向けた。弾けど弾けど獲物を屠らんとする、執念深き剣。そんなものを黒鉄はまだ6振りも持っていたのだ。たった一振りでさえ、囚われの身とは言え「異世界の英雄」を屠った剣だ。そんな代物をそろえられたら、どれだけの脅威になるだろう。
そしてこれだけの戦力を得るために、どれほどの命が「消費」されたのだろう。
「悪いな。俺は完璧主義なのでね。常に戦力を求め続けている」
黒鉄は右手をかざし、フラガラッハの切っ先を一斉にトーヤに向けた。
「命乞いの時間も残さん。徹底的に叩き潰してやる・・・・・・喰らえ!!」
ヒュンヒュン!!と純白の凶刃がトーヤに襲いかかる。
「なんだ・・・・・・この部屋は・・・・・・」
ネロは、目の前の光景に唖然としていた。彼らが目指していた「秘密の部屋」にたどり着き、一行はその扉をくぐったのだ。そこにはとんでもない大きさのモンスターが潜んでいたとか、膨大な数の本棚が立ち並んでいたのだとか、そんなものでは無い。もっと壮絶なもの______では無く、寧ろその真逆だった。
彼らが目指していたのは、ただの「女の子の部屋」だったのだ。
まるでお姫様が使っているようなヴェールに包まれたベッドや、真っ赤なカーペット、材質の良い本棚など、明らかにこの城の雰囲気からは浮いた家具が設けられ内装が施されている。
「う・・・・・くっせぇ・・・・」
「ブシンッ!!」
「ど、どうしたんだい?グーフォ」
「この部屋のゴミ箱から、何だかネットリした臭いがしやがる・・・・」
ネロの質問を受けたグーフォは鼻をつまみ、ゴミ箱を指さした。シロも先ほどからしきりにくしゃみしている。彼らの嗅覚では非常に不快な臭いを捕らえているのだろう。
「ゴミ箱・・・・・って、なんだか大量のティッシュが詰まっているね。それにこの臭いは・・・・」
ネロはグーフォの指さしたゴミ箱に近づき、のぞき込んだ。中には白く柔らかな紙がぐしゃぐしゃに丸められて詰め込まれている。ここまで近づくと、ネロの鼻でもその臭いが感じ取られる。ネロはその臭いに心当たりがあるのか、すぐに双眼鏡を掛けてゴミ箱の中身を分析し始めた。すると・・・・・・・・
「高濃度の“黒鉄の魔力”を検出した・・・・・それにこの臭いの特徴から、このティッシュには“黒鉄の精子”が大量に付着しているみたいだ。おそらくは・・・・・・・」
「ああ。そういうことだな」
ネロとグーフォは嫌そうに顔をしかめた。イマイチ意図のつかめないマナは、無邪気にもゲイボルグに尋ねてしまった。
「ねえ、ゲイボルグさん。あのゴミ箱の中身って・・・・・・それに黒鉄さんは、ここで何をしていたんですか・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・」
ゲイボルグは顔を赤らめて、しばし答えに窮していた。やがて、意を決したように口を開くと、
「・・・・・・要するにトール様とエリスが、ここで性交をしていたのです」
恥ずかしそうに答えた。
「え・・・・・・せっ・・・・・」
流石に自分のした質問の意味を理解したのか、マナは顔を真っ赤にした。いくら田舎の村娘とは言え、そういうことの単語ぐらいは理解できる。愚かにもその事実を無自覚に他人に尋ねてしまったことに、今更ながら羞恥を覚える。
が、ネロとグーフォは別の意味でばつの悪そうな顔をしていた。
「最悪だ・・・・・・流石に何か奴に関する手がかりがあるかと高をくくっていた・・・・・まさか、奴がここで“寝ていた”なんてな・・・・・・・」
「本棚にあるのは“医療魔術”の本に“異世界英雄譚”・・・・・そして“官能書籍”と来た。肝心の城にまつわる書物や文献が全くない・・・・・流石に参ったね」
グーフォとネロは、この部屋からはまともな情報を得られなかったのだ。「召喚システム」どころか、この城の見取り図一つ見つけられなかったのだ。
その事が知らしめる事実。それはゲイボルグのナビゲートも、ネロとグーフォの戦闘も、マナとシロのアシストも、全てが無駄になったということだ。そして今、彼らが情報を得るためにトーヤ一人が黒鉄を引きつけている。いくらトーヤでもずっと気を引き続けるのは無理だ。どこかでトーヤを無視してこちらに向かってくるか、逆にトーヤを始末するために彼を襲っているか。どちらにせよ、もう時間との勝負だった。
「・・・・・・・・みんな、聞いてくれ。ゲイボルグの情報を頼りに攻略の手がかりを探しに来たわけだ。でも、ここには何にも無かった。奴を追い詰めるための材料はおろか、この城にまつわるものさえ無かった。・・・・・・・だけど、トーヤくんが一人で相手をしている以上、これ以上道草を食っている暇は無いんだ」
ネロは苦々しい表情で、告げた。
「このまま“召喚システム”の解析と破壊に向かう。ゲイボルグ。奴の“式場”の場所を教えてくれ」
「ネロ・・・・・様・・・・・・!?」
「おいおい・・・・・・・」
「ネロさん?!何を言い出すんですか!?」
ネロの言葉に騒然とする。当たり前だ。破壊だけなら兎も角「解析」すると言いだしたのだから。ただ壊すのとは訳が違う。戦いの最中に「召喚システム」の仕組みを解き明かす、集中力がものを言う作業を行うのだ。そして当然、そこに誰も番人いない訳がない。寧ろ黒鉄の性格上大勢のモンスターや使い魔を配置しているに違いないだろう。
「隊長殿。なんでそんなことをするんだ?最悪の場合、そのシステムそのものをぶっ壊すだけで良いんじゃ無いか?」
グーフォはネロに苦言を呈する。
「そのシステムの中に“使役システム”ってのが内包されているんだろう?コイツのせいでみんな言うことを聞かされているんなら、単純にぶっ壊せば良いと思うんだが・・・・・・」
「そうだね。破壊するだけなら簡単だ。それでこの国全体に及んでいる支配が解けるのであればそれに越したことは無い。・・・・・・だけど」
と、ネロはゲイボルグを横目で見やりながら話した。
「問題なのはそのシステムが“召喚されたものの生命活動を支えているんじゃ無いか”って事だ。仮に問題なく破壊したとして、生まれてきたモンスターや使い魔が皆死んでしまうんじゃ本末転倒だ」
「だが_________」
「まだ解らないかな?このシステムを破壊したことでゲイボルグが死ぬ可能性があるんだ」
「「「!!」」」
三人は、心臓にナイフを刺されたような気がした。シロは雲行きの怪しい雰囲気に心配そうにうろうろしている。
「ネロ様!!私のことなどお気になさらず!!私の変わりなどいくらでも居ます!!ですから_______」
「キミはマナに言われたんじゃ無いのかな?キミのその命を作るために、どれほどの生命が犠牲になったのか。彼らのためにも生きるべきじゃないのか?」
「う・・・・・・・・・」
それに、とネロは付け加える。
「ここでモンスターや使い魔達の消滅を招くことは、“転生者に生命の尊厳を侵害された者達を見殺しにする”事になるんだ。そんな事はなんとしてでも避けたいんだ。・・・・・・・“対転生者特別防衛機関”としても、ボクとしてもね」
「ネロさん・・・・・・・・」
マナは、自分が人生の大きな分岐点に立たされているように感じた。ここでの選択を謝れば、自分の今後の人生が決まってしまう・・・・・そんな予感がしていた。
「・・・・・・・・・みんな、腹をくくるんだ。ボク達はもう引き返せない。なんとしてでも成し遂げるんだ」
「・・・・・・・・・解りました。トール様の“式場”へご案内いたします」
「オーケイ。」
「・・・・・・・・・・・・」
ネロの言葉に、各々は釈然としないまま賛同する。果たして、作戦はうまくいくのか。絶望的な状況の中で、それでも彼らは前に進まなければならない。
異世界から土足で上がってきた、「英雄」という名の「侵略者」の魔の手から、命を解放するために。




