6-11
トーヤは、如何にも「洞窟をそのまま住居にしました」と言わんばかりの城の中を駆け回っていた。トーヤは仲間達から遠ざけるべく、単身で黒鉄の注意を引いていた。少しの間だけでも彼らが情報を得る時間を稼ぐためだ。そして、トーヤは危険を冒してでも、敢えてトラップの多いルートを模索して黒鉄を足止めする。
「(ここには地雷原か・・・・・・)」
トーヤは一瞬だけ魔力を展開し、不自然な障害物や空間を探る。一見何の変哲もない岩石質の城の床や壁や天井。トーヤはそこに魔力が触れた感触から推測、瞬時に判断を下す。
「凍れ」
目の前には生物に反応する地雷がある事を確認したトーヤは剣に魔力を循環させ、その場でXを描くように振るう。その剣戟の勢いに乗せられて氷塊が次々と射出され、地雷の埋まっている場所を凍てつかせる。
「待ちやがれ!」
「来やがったか」
男の声を聞いたトーヤは背後を振り返った。そこには鬼のような形相で迫ってくる黒鉄の姿があった。そこらのモンスターなどよりもよほど速い速度で差し迫ってくる。
「こっちだ」
トーヤは挑発するように中指を立てながら、その地雷原を駆け抜ける。氷柱に飲み込まれた地雷は、トーヤの存在を探知できず炸裂しなかった。
「随分奇妙な能力を持ってやがるようだな・・・・・ならば、これでどうだ」
黒鉄は通路に入るや否や、ダンッ!!と殴りつけるように壁を手で叩く。だが黒鉄の合図が発せられても、地雷は微動だにしない。
「クソッ!!何なんだ、コイツの能力は____ッ!?」
「前ばかり見てると、後ろから刺されるぞ」
トラップが起動せずに苛立つ黒鉄。だがその一瞬を突いたトーヤは背後に氷柱を発生させ、黒鉄を地雷原へ突き飛ばした。そして同時に、黒鉄を中心とした一帯の地雷の氷結を解除した。
「爆ぜ飛びな」
パリン、と乾いた音が鳴った直後、ドォン!!ドォン!!と爆発音が連続で響く。一発一発がタツモドキのブレスのように強力で、かなり離れているにも関わらずその爆風に煽られ掛ける。だが、その爆発の中心にいる黒鉄の状態は未だに平常だ。
「・・・・・やはり効きやしねえな」
「・・・・・“不壊の鎧”のおかげでな」
もうもうと上がる煙の中、黒鉄は悠々と歩いてくる。硝煙を纏う姿は、モンスターのごとき威圧感を放つ。
「この“不壊の鎧”はあらゆる魔法を無効化し、物理ダメージもほとんどを軽減する。この程度の爆発など、俺には通用しない」
「知っているよ。お前の様子を見る限り解る」
実際黒鉄の装備している「不壊の鎧」はトーヤの氷柱の先端をはじくことから、物理的にも非常に硬いと思われる。だが、トーヤは黒鉄を挑発する。
「それだけ優秀な装備なら、もう手放せないな。風呂も寝る間も、クソしている間も着て居なきゃ不安だろ?お前の頼りない“ステータス”だとそれ無しじゃおちおち外も出られないな。」
「・・・・・・・煽りのつもりだろうが、無駄だ。装備の性能は戦力に直結する。それを黙って享受することに抵抗などないさ」
「・・・・・・・・おめでたいことだ」
しかし、黒鉄は至って平然としている。トーヤは口の中で、やっぱりダメか、と吐き捨てた。
「それ以上に、お前は俺に随分恐怖しているようだな。こんなわかりやすい挑発に乗るほど、俺はバカじゃない。よほど腕に自信がないとお見受けする」
「そういうお前こそ、テメェが魔王だって言う自覚がらしい。そんな“腕に自信がない奴”相手にわざわざ出張ってくるなんて、愚行にもほどがある。キングの駒はポーンに守らせときゃいんだよ。・・・・・・・ああ、でも自分で“バカじゃない”って言えるほど頭が良いお方がなさることだから、何らかの意図はあるんだとは思うけどな」
「・・・・・・・・・!!」
トーヤの言葉に反応して、黒鉄は一歩歩み出た。
「フン、好き放題言えば良い。・・・・・・・・”徹底的に“叩き潰してやる」
黒鉄の表情が一層険しくなるとともに、ダンッ!!と力強く踏み出す。その瞬間に合わせて、トーヤは凍らせていた地雷を「起爆」させた。
「ああそうかい」
トーヤは地雷原から離脱すると同時に奥側から順に地雷を炸裂させ、発生した爆発_____正確に言えばその「魔力」を巻き込ませ、連鎖的に威力を倍増させた。ドガァン、ドガァン、ドゴォオオオオン!!と、先ほどとは比較にならないほどの爆音が連続して轟く。
「(奴が思ったよりもおしゃべり野郎で良かった。・・・・おかげで少しだけでも“浸食”することができた)」
「クソ・・・・・・が・・・・・」
ゴホッ、と黒鉄は咳き込んだ。トーヤが地雷に仕込まれた魔力を少しばかり「浸食」したことで、わずかばかりダメージを与えることには成功した。その間にもトーヤはその場を離脱し次のトラップ地帯に差し掛かる。
「逃がすか!!」
すぐに黒鉄はトーヤの後を追うべく走り出す。その体は淡く緑色に輝く。トーヤは「“システム”を無視してダメージをお与えることができる」という体質を持つが、あくまでも自分から相手にダメージを与えるときだけだ。相手がスキルなどで回復することまでは阻害することはできない。
だからこそ、トーヤは間髪入れずに「次の手」に移る。
「待ちやがれ・・・・・この野郎!!」
黒鉄はすかさずトーヤを八つ裂きにせんと詰め寄る。右手には「勇者の剣」が握られており、そのままトーヤに斬りかかった。そして誰もが恐れる「魔王の一撃」を、トーヤは敢えて剣で受け止める。
「さあ、テメェで仕掛けた罠にテメェでかかりな」
「!?」
トーヤはそう口にして、黒鉄の意識を一瞬だけ引く。その一瞬の間に、一見岩石質の城の床がガコン!!と開いた。
「コイツ、俺が斬りかかったと同時に下がり、俺を落とし穴にはめやがった・・・・!!」
黒鉄はそのまま落とし穴の底にあった棘の上に落下した。「不壊の鎧」のおかげで針のダメージは受けなかったが、まんまとトーヤの策略にはまってしまった。一方のトーヤは落ちる寸前に棘を凍らせ、落下した衝撃を使ってバギバギン!!と踏み砕いた。多少でこぼこするが、安定した足場を確保することができた。
「貫けッ!」
そして相手が体勢を崩した一瞬の隙を突き、トーヤは拳銃を素早く取り出してドォン!!ドォン!!と引き金を引いた。撃ち出された弾丸は黒鉄の頭を捕らえた_____が、チュイーン!とはじかれた。
「チッ、小癪にも頭部に強力な結界を張ってやがる・・・・」
「フン、お前らが頭を狙っているのは解っているんだよ!!」
黒鉄はその防御力にものを言わせ、銃弾をモロに浴びながらも銃口を向けてくる。しかしその瞬間にも、トーヤは黒鉄の足下の棘に霜を降らせていた。そしてその引き金が引かれる寸前に、
「腹がガラ空きだ」
「ガハッ!?」
トーヤは棘に纏わせた霜を急激に成長させ、ジャキィン!!と何本もの氷の棘を生やした。端から見れば黒鉄が居るところの棘が急に延びたように見えるだろう。だが、バギバギバギィ!!と黒鉄の体に当たった氷の棘は片っ端から折れてしまった。
「(クソッ!!あまりにも面倒臭すぎる!!“不壊の鎧”の名は伊達じゃないって事か・・・・・)」
「やはり・・・・・装備は常に最高のものをそろえておくのが正解だな・・・・・・」
直接凍らせたそばから抜け出され、氷柱の切れ味を生かした刺突も鎧に阻まれ、銃弾も謎のバリアでヘッドショットも狙えない。おまけに「不壊の鎧」のスキルの効果で、魔法攻撃は通っても即座に回復されてしまう。依然対峙した「棚餅優太」ほどではないにしろ、厄介極まりなかった。
だとしても、トーヤは黒鉄の注意を引き続けなければならない。
「・・・・・・頼むから・・・・なんとか奴の抜け道を・・・・・」
トーヤは落とし穴から這い出ると、切に願いながら城の中を駆け抜けていった。




