6-5
「ヤレ!!コロセ!!」
「ブッツブスゼ!!」
口々に叫びながら、刺々しい岩石の城からモンスターが湧き出してくる。野性的で暴力的な殺気を放ち、侵入者を完膚なきまでに叩きのめすべく殺到する。
「前衛班は前に出ろ!!砲撃班に近寄らせるな!!」
騎士の一人が叫ぶと、騎士の中でもより重装備な者達が前に出る。剣や槍はもちろん、大半のものが楯を持っている。剣を持つものは腕を覆うぐらいの、槍を持つものは身長までの大きさの楯を装備しているのだ。
そしてそのうちの一人、オーソドックスな剣と盾を持つ騎士の元に、常人より二回りほど大きいオークが襲いかかる。
「サアコッパミジンニツブサレチマイナ!!」
女性の胴体ぐらいはある太さの棍棒を、騎士に向かって叩き潰さんと振り下ろす。その棍棒を、騎士は手にした円盤状の楯でバックナックルの要領で殴りつけるようにいなす。
「ナニ!?」
「・・・・・・・・・」
普通に防いだだけでは、恐らくノックバックしていただろう。いくら「レベル」「ステータス」というものがあっても、物理法則に則った現象は避けられない。そういったものを無効化できるのは、本当にステータスに圧倒的な開きがあるもの_____転生者ぐらいだろう。
騎士はのけぞるどころか逆に一気に懐に接近し、オークのだぶついた腹の肉に剣先を突き立てる。だが、その手応えは「肉を切る」というよりも「肉に埋もれる」と形容できる。
「・・・・・・・・あ?」
「トールサマニ“カスタム”サレテンダゼ!!ソンナチッポケナケンナンカキクワケネエダロ!!」
オークは騎士を詰りながら左腕で振り払う。ブォン!!と振るわれる大木のような腕を騎士は間一髪で躱すが、ダメージらしいダメージなど与えられていない。
「オレサマハ“物理ダメージ90%カット”ノカスタムヲウケテイル!!オマエラミテーナザコノコウゲキナンカキクワケネエダロ!!」
「・・・・・・・・・・・・・」
黒鉄によって強化を受けたオークには、物理ダメージは期待できないと言うことだ。騎士は基本的に剣や槍で戦う騎士にはつらい相手だ。
「サア、サッサトツブサレチマイナ______」
勝ち誇ったオークは、再び騎士を眼前に捉えて棍棒を振り上げる。そして為す術もなくやられてしまうのか____と思われた、瞬間、
オークの足下が突然崩れ、ガボッ!!と下半身が地面に埋まり込んだ。
「ブヒィイイイイイイイ?!イ、イツノマニオトシアナガ?!」
オークは自分の置かれた状況に反応しきれず、パニック状態に陥った。棍棒を取り落とし、這い上がろうと必死にもがく。その背後から、別のオークが駆け寄ってくる。
「テメェ!!ナカマニナンテコトヲ!!」
罠にはめた騎士に制裁を与えるべく、そのオークは棍棒を振り上げる。しかしその足下には、いつの間にか魔力でできた鈍色に光る鎖が伸びていた。
「・・・・・・・・・・“レッグアンカー”」
騎士は手に握った鎖を引っ張った。ジャラララ!!とオークの足に絡みつき、すかさずその足下を掬う。バランスを崩したオークはそのまま前のめりに倒れ込み、ゴキン!!と地面に埋まったオークの頭部に顔面が激突した。
「プギィ!?」
「ブゴォ!?」
ちょうど顎を強打したオークと、全体重の乗った顔面ピストンを喰らったオークは、情けない断末魔をあげてそのまま倒れ込んだ。
「・・・・・・・・・・やっぱいつもの格好のがいいな」
というと、騎士はおもむろにパチン、と鎧の金具を一カ所外した。するとまるでドミノ倒しするように、鎧の金具が次々と外れていく。そして中から出てきたのは・・・・・・
「コイツ“暗殺者”ダ!!」
「騎士ニバケテヤガッタノカ!!」
辺りのモンスター達が次々とどよめき出す。金属製の鎧の内側から出てきたのは、漆黒の生地に紫のラインの入った、近未来的なデザインのボディスーツに包まれた細身の青年だった。「転生者殺し」に所属する騎士達は、基本的に防衛戦を展開することとなっているため「騎士」の職業に登録されている。しかしながら、その実態は様々な実力者の寄せ集めでもある。もちろん正式にギルドの職員が抜擢されるケースもあるが、実際には名だたる冒険者や研究者が多く、さらには犯罪者までもが引き抜かれているのだ。彼らは基本的に「ギルドにヘッドハンティングされるor逮捕される→ギルドの判断で戦力に加えられる→ギルド本部から“対転生者特別防衛機関”に移籍される」という流れで加入しているため、結果的に普通の官僚制とはかなり異なる組織形態を取っているのだ。
「やれやれ・・・・・目立つのはあんまり好きじゃないんだが・・・・」
と言って、その騎士・・・・否、暗殺者は兜を脱ぎ捨てた。端整な顔立ちの青年は剣をその場に突き立てると、
「“ダーティギフト”」
と唱え、足下に紫色の粘性の液体を広げた。それは半径4メートルほどで、体格の良いオークであっても容易に巻き込んでしまえる範囲だ。
そしてそのオーク以外にも、外から立ち入ろうとしたモンスターを悉く毒の沼に引きずり込む。
「ギョワァアアアア!!」
「ギュワァアアアア!!」
巻き込まれたモンスターは毒に侵され、断末魔をあげながら次々と倒れていった。
「意外だな。“状態異常無効”のスキルは大人気だと評判のはずだが・・・・・」
毒の沼の中心で、青年は感心したようにつぶやいた。「○○無効」といったスキルの搭載はもはや転生者の伝統芸能の様に扱われており、それを持たないモンスター達を少々以外に思ったのだ。特に彼らの主が「完璧主義者」であるという情報があるのだから、なおさらだ。
「アノ毒ノ沼ニハイルナ!!」
「ソトカラヤッチマエ!!」
といって、モンスター達は青年から距離を取る。いくら知能の低いモンスターといえど、流石に命の危機を感じさせる領域に好き好んで踏み入るものは居ないだろう。
だが、もちろんこのフィールドを展開した彼自身、一番解っていた。
「そうだ。離れておけ。そうすれば・・・・・・」
青年が意味深な言葉を口にすると、直後にモンスターの群れに向かって、ドォン、ドォン!!と砲弾が次々に撃ち込まれた。
「グォオオオオオオ?!」
「後衛が狙い撃つ」
砲撃が直撃したモンスターは吹っ飛び、その爆風に煽られたものにも決して軽くはないダメージが入る。青年が展開した毒の沼はダメージゾーンとなっており、後衛を守るためのバリケードにもなっている。
しかし当然、モンスターの中には毒に耐性を持つものが居る。
「キシシシ!!コノテイドデトメラレルトオモッタノカ?!」
カササササ!!と大型のサソリ型モンスター「スコルピオダート」が迫りよってくる。元々毒を扱うモンスターなだけに毒耐性を召還時から既に得ており、「カスタム」を受けて居なくても毒の沼に踏み入ることができるのだ。
「サア、シネーーーーーー!!キシシーーー!!」
はさみを大きく開き、毒針を持つ尻尾を振りかぶったスコルピオダートは
「やだね」
と、一瞬で頭上に飛び乗られ、頭部と胸部の間の関節にザシュッ・・・と剣を突き込まれた。そして突き刺した剣を、そのままひねり・・・・・
「“兜割り”」
スパァン!!と頭部を切り落とした。切断された胴体から体液が流れ出し、毒の沼に不気味なマーブル模様を作り出す。
「ウ、ウソダロォオオオオオ!!」
スコルピオダート自体決して弱いモンスターではなく、寧ろ「中ボス」を張れるほどの戦闘力を持つ種類だ。それをたった一撃で仕留めて見せた青年に、オークを中心としたモンスターは驚きを隠せなかった。
「トーヤ隊長ほどじゃないにしても・・・・・・・・これでも俺たちは戦闘スキルを“開発”してるんだぜ。全く・・・・・ここまでやっても及ばないとか、“転生者”ってのはもはや“モンスター”じゃなくて“魔物”なんじゃないのか?」
彼だけではない。戦線のあちこちで、騎士達_____否、騎士の兜をかぶった歴戦の猛者達が無双を始めて居る。「転生者」にタメを張れるのはあくまでも正規の「転生者殺し」だが、そんな彼らを補佐する部下達も、生半可な実力など持ち合わせていないのだ。
そしてそんな彼らをまとめ上げ、自らも戦う「転生者殺し」の正規メンバーが、声を張り上げる。
「お前達、まだ攻め急ぐな!!戦線を維持することに徹底しろ!!」
黄金色の鎧に身を包んだ少女は、大剣を勇ましく担ぎ上げながら部下達を鼓舞する。「対転生者特別防衛機関 執行部隊副隊長:エミリア・ゼッケンドルフ」。彼女はかつて名門の騎士の家系に生まれ、厳しい父親と祖父の指導の下育った。そんな彼女が大人数をまとめ上げる「スキル」を持っているのは、必然というものだ。
「オイ、ドウダ?」
「トリアエズキテナイゼ」
グレムリン(元々いた固体)は城の窓の周辺に陣取っていた。魔王トールこと黒鉄から防衛の指示が出され、侵入者を見つけ次第即刻抹殺するように命令を受けている。
「シンニュウシャッテヤツハドンナヤツナンダ?」
「サア、ヨクシラネェナ。ドンナヤツラガナンニンナノカ、ソレスラシラサレテネェ」
グレムリンは単純に「侵入者が入ってきた。発見し次第速やかに排除せよ」としか言い渡されておらず、細かい指示どころか人物像も人数さえも知らされていなかった。
そこに。
「おう、やってるな」
「ハーピー!!」
グレムリンが守っている窓から、ハルピュイアが入ってきた。彼の姿を見たグレムリンはそちらに注意が向く。
「奴らは見つけたか?」
「イイヤ、マダスガタモアラワサネェ」
「アイツラ、ホントウニドコニイヤガルンダ?」
ハルピュイアの質問に対し、グレムリンは不満そうに答える。恐らく見れば解る、とのことで教えられていないのだろうが、それにしても情報不行き届きも甚だしい。
「成る程な。じゃあ俺様は中の見回りに行っているから、引き続きそこを頼む。くれぐれも逃がさないようにな」
「オウ!!」
空中で身を翻し、城内に飛び去ろうとするハルピュイア。しかしその後ろ姿を、
「オイ、マテ」
と、グレムリンの一体が止めた。
「ナア、オレタチニ“ハーピー”ッテイタッケカ?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ハルピュイアは呼び止められ、ホバリングしながら振り返った。
「ヨクヨクカンガエタラ、オレタチノナカマニ“ハーピー”ナンテイヤシナイ・・・・オマエ、ダレダ?」
呼び止めたグレムリンがハルピュイアに問いかけた。その瞬間。
ザシュッ、と、隣にいたグレムリンの頭を鋼の剣が貫いた。
「ガ・・・・・・・・・・」
脳を貫かれたグレムリンは即死し、断末魔のような声を漏らした。その頭部を貫く剣は、城の窓の外から伸びている。そしてその先には、
「・・・・・・“偽装”を掛けてても気付くのか・・・・腐っていても“転生者産”って訳か」
険しい顔をした色あせた長い金髪の少年、トーヤが剣の柄を握っていた。
「ナッ・・・・・テメェ!!」
目の前に現われた侵入者に、残ったグレムリンはすぐさま向き直る。不埒な無法者を排除するために。
だが、それが致命的な悪手だった。
「おい、敵を前によそ見は禁物だぜ?」
「ギャァ!?」
注意がトーヤに向いた瞬間に、窓から入り込んだハルピュイア____グーフォに、頭部と肩に組み付かれた。
「ハナシヤガレ!!ナニシヤガ______」
「あらよっと」
グーフォは騒ぎ立てるグレムリンを一瞬持ち上げると、首をひねりながら城の床にガンッ!!と頭部を打ち付けた。打ち付けられたグレムリンの首からゴギン!!という嫌な音がし、頭があり得ない方向を向いた。
ハルピュイアのうち、グーフォのような「猛禽型ハルピュイア」が得意とする技「デスツイスト」。敵の首などの重要な箇所の関節をつかんで、強引にひねってへし折る即死技だ。哀れなグレムリンは首をへし折られ、一瞬の早業の前に断末魔をあげる前に命を絶たれてしまったのだ。
「どうだい?作戦はうまくいった?」
「いいや、ダメだな。グレムリン程度でもすぐに見破られる。グーフォの陽動に任せる作戦は通じないと思った方がいい」
「成る程ね。結局ほぼ正面突破するしかないってことか」
窓から入り込んだトーヤに続いて、ネロ、マナ、シロ、そしてゲイボルグがよじ登ってきた。
「全く・・・・・・コイツも“主”の元に行こうとするのかと思いきや、あれからうんともすんとも言わないし・・・・・悉くうまくいかないな」
「まあ、そううまくいくことの方が珍しいけどね」
トーヤはチン、と剣を納めるとコートの内側から鎖を巻かれた氷塊を取り出した。その中には真っ白な剣が閉じ込められている。
「結局この剣は何でできていて、どんな能力を持つんだろうな?ぱっと見“主人の命令通りに敵を切り刻む剣”ぐらいにしか思えないが・・・・・・」
「ボクも解析したいところだけど、氷の中に入れてちゃ限界があるしね。かといって出しちゃってまた暴れ出されても困るし・・・・・本当に厄介な代物だよ」
トーヤに吊された氷塊はぶらぶらと揺すられるが、全く動きを見せない。中の剣はあれだけ激しく動き回ったにもかかわらず、だ。トーヤはこれ以上は無駄だと悟り、封じられた氷塊をしまうと、窓から上がってきたゲイボルグ立ちの方を見た。
「・・・・・・・ゲイボルグさん、大丈夫ですか?」
「え、ええ・・・・・なんとか・・・・・」
いつものメイド服に着替えたゲイボルグだが、身の丈ほどの槍をギュッと握ったまま、その場から動かなかった。顔色は悪く、不安定に揺れる精神を必死になだめるように荒い呼吸を繰り返す。
「ゲイボルグ。立ち向かうと言った以上、もう後には引けない。覚悟を決めて行くぞ。マナも気持ちはわかるが、そいつが言いだした以上俺たちにはこれ以上口出しする権利はない」
「でも・・・・・・・・・・・」
「自覚しろ。俺たちはもう敵地のド真ん中、もう敵の本拠地に足を踏み入れている。ここで立ち止まっている暇はないんだよ・・・・・・たとえ、どれだけ苦境に立たされても」
トーヤは言いよどむマナに厳しく言い聞かせ、彼女に背を向けた。これから始まる、熾烈な潜入作戦を全うするために。
「行こう。まずは奴らの情報がわかる“書斎”や“研究室”、“資料室”に相当する部屋を見つけるぞ。片っ端から暴いて、少しでも奴の攻略法を見つけるんだ」
彼らが行うのはただの潜入作戦ではない。敵に追われながら現地で情報を集め、そして攻略法を探るという、誰がどう考えても高難易度の範疇を超えた、調査・攻略・討伐同時作戦なのだ。




