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ヴィジターキラー  作者: 反物質
第五章 「国とギルドに追放された勇者の俺は、最難関ダンジョンで努力しすぎて世界最強になりました」杉田努
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5-2

「こ・・・・・ここ・・・・・は・・・・・・・」

 トーヤは混濁した意識の中、かすれた声で呻いた。辺りには岩石のような質感の「骸珊瑚」の幹がそびえ立っており、辺りはまだら模様の様に点在する光がぼんやりと辺りを照らしていた。その場所こそ、この最難関ダンジョンの最深部「第九層」。別名「嘆きの河(コキュートス)」と呼ばれている区画だ。

 だが、トーヤはそんなことを認識している余裕など無い。第八層など生ぬるいほどの冷気に、既に体が凍てつき始めて居るのだ。

「(俺は・・・・・・・・マナを・・・・・・かばって・・・・・・・)」

 トーヤは杉田に襲われたマナをかばい、奴の一刀に切り伏せられて、第八層の足場からたたき落とされたのだ。奴につけられた傷口は決して浅くないが、その傷口でさえ既に凍らされ、塞がれつつある。

「クソッ・・・・・・まだ・・・・・俺・・・・・・は・・・・・・」

 と、うわごとのようにつぶやくが、一向に力が入らない。起き上がろうとしても、体が言うことを聞かないのだ。それはこの冷気により体力を消耗しているからか、はたまた杉田に切り伏せられた時点で既に厳戒を迎えていたからか。

 と、

『おやまぁ、随分久しぶりな来客じゃあないか』

「・・・・・・・・・・・?」

 どこからともなく、声が聞こえた。まるで話しかけられていると言うより、脳内に直接語りかけられているようだ。

『最近上から誰も降りてこなくってねぇ。まあ上がなぜかここ最近静かなもんで快適ではあるんだけど・・・・・なにか知っているかい?』

『・・・・・・・上で、転生者が暴れている・・・・・』

 トーヤはその声の主に会話を試みる。もはや自分が声を出しているのかさえ解らないが、兎に角彼はその声の主に訴えかける。

『なあ、誰だか知らんが・・・・・助けてくれ・・・・・』

『助けるって?』

 その声の主は不愉快そうに答えた。

『何でどこの輩とも知らない奴を助けないといけないのさ。命乞いなんてみっともない。そりゃまあ大抵の生き物は自分の命の危機を訴えるって言うけど・・・・』

『・・・・・・・・俺、じゃない・・・・・・』

『・・・・・・・・・何?』

 声の主は、今度は不思議そうにした。





『上で・・・・・転生者と戦っている・・・・仲間を、助けてくれ・・・・・』





『へえ・・・・・・・・・?』

 声の主は不敵そうに唸った。否、物珍しそうに、の方が正しいか。

『上の階層が静かなのは・・・・・・その転生者が、おそらく絶滅させたからだ・・・・・アイツがここにこのまま居続ければ・・・・・・やがてこのダンジョンの生態系が崩壊する・・・・』

 トーヤは、もはや自分の意識を保っていることさえ危うかった。確実に迫る生命活動の危機。しかし、彼はその理不尽の塊のような存在をどうにかすべく、その声の主に必至に叫びかける。

『あんな奴を相手にしている・・・・・・みんなが、危ない・・・・・・俺に居場所をくれたみんなが・・・・・・殺されちまう・・・・・・』





『お願いだ・・・・・・みんなを・・・・・・助けてくれ・・・・・・』





『・・・・・・・・・・・・』

 声の主はしばし黙りこくった。トーヤの言葉を聞き入れたのか、それとも興味がそれたのか、解りかねる。しばし静寂が訪れた後、ビュオッ!!と、突然猛吹雪が吹き荒れ始めた。

「・・・・・・・・・・・・!!」

 その圧倒的な冷気の塊が吹き付けられると同時、トーヤの体は一気に凍てつき始めた。パキパキパキパキ・・・・と、急速に凍えていく。

「・・・・・・・・・みん・・・・・・な・・・・・・・」

 寒さをやがて感じなくなり、意識が遠のく中トーヤは上層で戦っている仲間のことを思い浮かべた。そして意識を手放す瞬間、最後に目にしたのは・・・・・・





猛烈な勢いで飛ぶ、巨大な翼を持つ「龍」だった。










「フー・・・・・・フー・・・・・・・」

「もうやめて!!みんなをこれ以上傷つけないで!!」

 傷だらけになり、足取りがおぼつかないシロをかばうように抱きかかえ、マナは叫んだ。エミリアも、ネロも、皆その場に倒れ臥していた。杉田の圧倒的な力・・・・・否、暴力の前に、彼らはただ屈するしかなかったのだ。

「知って居るぞ。お前達は俺たち“転生者”を目の敵にしている集団なんだってな。だが、そんな輩に負けてやれるほど、俺は温情ではないんでね」

 チャキ・・・・・と「聖剣アスカロン」をマナに突きつける。

「・・・・・・・お前達は何なんだ!!俺たち“転生者”を何だと思ってやがるんだ!!」

 杉田は声を荒げて、マナに詰め寄る。怒号に怖じ気付いたマナはビクッ!!と震える。

「俺はもうどうやってこっちに来たのか忘れたが・・・・・・勝手にこっちに召喚されて、勝手に魔王退治だなんだ言われて、挙げ句の果てには“強すぎるので我々の手には余る”って言われて、追い出されたんだ!!そして今度は“転生者狩り”だと?!ふざけるな!!俺たちが何をしたって言うんだ!!」

 実際、彼ら転生者はある意味被害者でもある。向こうで自分たちの生活があるところに無理矢理つれてこられたり、死んだ瞬間にこっちの世界に引きずり込まれたり・・・・・彼らからすれば、迷惑この上ないはずだ。最終的にこちらの世界になじむものの、彼ら自身の意志でこちらに来ることは滅多にないのだ。

 だが。

「・・・・・・・・だからって・・・・・・・」

「あ?」

 マナは恐怖に震える声で、しかし、目の前の男に訴えかける。




「だからって、なんで“こんなこと”するんですか!!」

 マナは辺りに転がる死体の一つを指さした。




「モンスターさんだって、生き物なんです!!彼らだって、生きるのに必死なんです!!なんで、そう簡単に命を奪うことができるんですか!?」

 そう。彼ら「転生者殺し」は恨みがあって勝手に転生者を目の敵にしているわけではない。彼ら「転生者」がありとあらゆる場所に被害をもたらすから、彼らは転生者を仇としているのだ。

 例えるなら、放火。異世界の消防隊員は、発生した火災がこれ以上燃え広がらないように、命をかけて消火活動に努める。単純に炎が燃え広がるのであればいいのだが、工場などから発生した炎は非常に勢いが強く、殉職する者も出るという。

 だが、彼らはあくまで「消防隊員」。火種を作った「放火魔」を追うのは彼らの仕事ではない。燃え広がる炎を無視して放火犯を追う消防が、どこに居るというのだ。

 そしてこの「転生者」の厄介な点は、炎のような自然現象ではなく「人為的に」問題を起こしていることが問題なのだ。

「俺は、俺を追い出しやがった奴らに復讐をするんだ!!そのために、俺はどこまでも強くなってやるんだ!!だからここで経験値を稼いで、ここでレベルアップを_______」

「だからって、なんでここまで殺しちゃうんですか!!」

この「冥府の陸海淵」の生態系を壊滅させ、モンスターを絶滅の危機に追いやっているのも、この他ならぬこの男なのだ。

「何なんですか、“経験値”って、“レベルアップ”って!!そんなもののために、こんなことをしているんですか?!」

「そ、そんなもの・・・・・だと・・・!?」

 杉田は顔をしかめた。「努力の否定」の様に聞こえたその言葉に、杉田は不快感を表わした。

「ふざけんじゃねぇ!!何のためにここまで討伐したと思ってやがる!!最難関ダンジョンのモンスターを一体残らず討伐することのできる、この腕を以てしても足りねぇってか!!」

「だから、なんで“殺す”って事がいけないんだって解らないんですか!?」





「王様が貴方を追い出したのは、その“みんな殺しちゃう”そのやり方が怖かったんじゃないんですか?!なんで、そんなことも考えないんですか!?」





「・・・・・・・・・・・・・・・」

 杉田はしばしの間黙りこくった。マナに剣を突きつけたまま見下ろして、鋭い視線を送る。やがて、杉田はシロの足下から、ドガァン!!と岩石を発生させた。

「きゃっ?!」

「キャウウウウン?!」

 マナはかろうじて直撃を免れたが、シロはまともに食らいマナを引き剥がしながら吹き飛ばされる。

「悪いが、お前の言っている意味がわからない。所詮モンスターはモンスターだろう?倒して何が悪い?」

「・・・・・・・・・・・!!」

 マナは杉田の言葉に絶望した。杉田との価値観の違いに、唯々口を閉ざすしかない。価値観の違う者と言葉を交わしても、そこに残るのは軋轢だけだ。

 この男には「モンスター=命」という考えが、根本的に存在しないのだ。

「(さて、この女をどうするか・・・・・モンスターを操る能力者ってのはかなり厄介だが・・・・)」

 と、マナをどう処分してやろうか、考えていた時だった。





「VOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 シロが、今まで聞いたこともない様な咆哮を上げた。





「!!」

 杉田は、思わずシロの方を向いた。相変わらずボロボロの様子で、しかしなおも杉田をその鋭い眼光でにらみつけている。

 だがその瞳のない眼球が、エメラルドに輝いていたのだ。さらに彼の体表面を、青白いオーラが薄く覆っている。

「(こいつ・・・・・・ドレッドファングでも、ましてやスケアリーファングでもない・・・・!?)」

 杉田は彼の咆哮で、怖じ気付いている自分が信じられなかった。スケアリーファングの咆哮は自分よりも格下の獲物を恐怖で硬直させる咆哮だ。努力しすぎて圧倒的な実力を持つ杉田にとっては、負け犬の遠吠えにしかならないはずだ。

 思えば、おかしかった。大抵のモンスターなど真っ二つにするはずの剣戟をいくら喰らっても、目の前のモンスターは倒れはしなかった。モンスターをワンパンできる自分が、倒せないはずなど無いのだ。

「(この女が最も厄介だと思っていたが・・・・・真にやばいのは、コイツの方か!!)」

 その危険性を察知した杉田は、シロに狙いを切り替えた。放っておけばやがてとんでもない化け物になるこのモンスターの息の根を止めるために。

「グ・・・・・・・」

 しかし、度重なるダメージにシロの体はよろめく。もう彼は立っていられるほどの体力も残っていないのだ。

「やめて・・・・・・おねがい!!やめて!!」

 マナは慌ててシロに駆け寄ろうとするが、そんな彼女を岩石の檻に閉じ込めた。バガァン!!とマナの周囲に鋭く、長い岩石が発生する。

「お前はそこにいろ」

 杉田はマナを一瞥すると、そのままシロに駆けだした。確実に、仕留めるために。

「やめて!!その子を殺さないで!!」

 そして、マナは涙を流しながら叫んだ。この世に生ける全ての命に愛を注ぐ、一人の可憐な少女。その祈りが通じたのか、




ドパァアアアアアン!!と、杉田の体が、骸珊瑚の幹に打ち付けられた。




「・・・・・・・・・・・・・!?」

 杉田が感じたのは痛みでもなく、衝撃でもなく、疑問だった。たった今、杉田は目の前のオオカミ型モンスターを仕留めるために走っていたはずである。しかし、今この瞬間、自分は骸珊瑚の幹に叩きつけられている。まるで、「吹き飛ばされた過程が根こそぎ消失したように」。

 一方で、マナは信じられない光景を目にした。

先ず、駆けだしていた杉田の動きが突如止まったのだ。まるでビデオテープか何かで再生した映像を、ある瞬間で止めたかのように。そしてそれと同時に、最下層の方から龍が飛び出してきた。その龍はまっすぐ杉谷向かうと長い尻尾でビシャァアアン!!と打ち付け、骸珊瑚の幹に吹き飛ばした。するとその吹き飛ばされた杉田も、幹に当たる寸前でピタリと静止したのだ。吹き飛ばされた時の体勢のまま、ピクリとも動かずに。そして優雅に降り立つとシロを咥えあげ、マナのそばに下ろしてやった。シロは既に力尽きていたらしく、下ろされた時点でぐったりと崩れ落ちている。

「・・・・・・・・・・・・!!」

 マナは、その美しさに見惚れていた。

 体長にしておおよそ15メートルほどであろうか。大型モンスターの中では、別段巨大な方ではなかった。だが、その龍は明らかに別の雰囲気を纏っていた。

 本体と思しき部分は灰白色で所々ひび割れていて、まるで朽ちたコンクリートのような質感の甲殻だった。その上に覆うように、青く輝く氷の鎧を身に纏っている。四足歩行一対の翼を持つその龍の前足は発達しており、特に肘から咲の部分は後ろ足よりも太く、がっしりとした構造になっていた。

 そんな龍がゆっくりと杉田の方を向きながら翼をはためかせると、ドパァアアアアアン!!と、杉田の体が、骸産後の幹に打ち付けられた。

「・・・・・・・・・・・・・!?」

 杉田が感じたのは痛みでもなく、衝撃でもなく、疑問だった。たった今、杉田は目の前のオオカミ型モンスターを仕留めるために走っていたはずである。しかし、彼はいきなり骸珊瑚の幹に叩きつけられていた様に感じただろう。まるで、「吹き飛ばされた過程が根こそぎ消失したように」。

「もしかして・・・・・・・・・・・・・・」

 マナは、トーヤから聞いていた「伝承」を思い出した。この「冥府の陸海淵」の最下層を根城にする、あらゆるモンスターを超える存在。

『あんな死にそうな子に、“仲間を助けてくれ”なんて言われちゃ、ここで動かなかったら私の品性を疑われるってモンよ』

 マナは、確かにその「声」を聞いた。自発的に言葉を話すモンスターなど、見たことがなかった。

 そしてそんなことをやってのける存在に、彼女は心当たりがあった。






『さあ、余所者のクソガキが!!私を殺せるモンならやってみろぉおおおおおおおおお!!』

「コァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 挑発的な怒号とともに、吹雪を思わせる咆哮が、「冥府の陸海淵」に響き渡った。







「・・・・・・・・・・・“氷獄龍ヘル”・・・・・・」

目の前に現れた「冥府の(レギーナ・デア・)女王(コキュートス)」「時を凍らせる龍」。その存在の名を、マナは無意識に口にしていた。


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