閑話休題2-1
「それじゃあ“浅倉忍撃退作戦”と“秋山利人討伐作戦”の報酬だ。受け取れ」
「あ、はい・・・・・・・・」
対転生者特別防衛機関の、「執行部隊室」。トーヤに呼ばれて彼のデスクに向かったマナは、封筒をもらった。
「その中には今回の報酬の明細とお前の“バンクカード”が入っている。バンクカードを持って買い物すれば、ギルドにおいてある口座から自動で引き落としてくれる。なくすと大変なことになるから、慎重に取り扱うように」
「はい・・・・・・・」
いわゆる「クレジットカード」の様なものを受け取ってマナだが、その声はどこか上の空だ。マナはエミリアからトーヤのことについて聞いてしまい、未だに心の中にわだかまりを感じていた。まるで生まれたときからこちらにいるような顔をしておきながら、その実は大間当司や浅倉忍達と同じ「転生者」であったこと。なんだか裏切られたような気分になり、マナは彼に対してどういう対応をすればいいのか、解らなくなっていた。
「(・・・・・・・・・・私にとって、転生者さんってどんな人たちなんだろう・・・・)」
大間当司や秋山利人のような者は、モンスターや街の住人に危害を加えていても平気な顔をしていた。かといえば浅倉忍のように、ただ淡々と任務をこなしていただけのものもいる。そしてトーヤ・・・・・否、凍耶のように、こちらの世界に完全に帰化しているものもいる。彼らが普段どんなことを考えて、どんなことを望んでいるのか。マナは訳がわからなくなっていた。
「(転生者さんが嫌いなの?転生者さんが憎いの?もう訳がわからないよ・・・・・)」
マナはそんなことを考えながら封筒を開けて先日の任務の明細書を広げた。
対転生者特別防衛機関 執行部隊所属
マナフィア・インフィニアート 殿
報酬明細
・浅倉忍 撃退作戦・・・・・・・350,000G
・秋山利人 討伐作戦・・・・・・120,000G
合計・・・・・・・・・・・・・・470,000G
マナは数字を見て、自分の目玉が飛び出たかと思った。
「~~~~~~~~~~~~ッ!?~~~~~~~~~~~~ッ!?」
「ん?・・・・・・・・ああそうか。そりゃ驚くよな」
目をまん丸にして、あんぐりと口を開いているマナを見て、トーヤは思い出したように口にした。
「ト、トトトトトト・・・・・トト・・・・トトトート、トートト!!」
「俺はそんな体毛が伸びそうな名前じゃないぞ」
「でも、でで、でででもももももももも」
「落ち着け」
真っ青な顔でトーヤに明細書を見せてくるマナを、トーヤはなだめた。
「だ、だって私・・・・・ぜろがよっつもついてるのなんて、みたこともないんですよ?!せいぜいおっきくて3桁までです!!」
「まあ、田舎のアイテム屋の娘ならそうだよな」
マナはカーム村ではアイテム屋の娘だった。彼女が貰えるおこづかいなど、せいぜい数100G程度だろう。そんな彼女が突然こんな大金を手にしてしまっては、金銭感覚も狂うという者だろう。
「“対転生者特別防衛機関”ってのはな、ほかのどの組織でも対応できないような“転生者”専門に扱う組織だから、その分報酬も優遇されるんだよ。特に俺たちの部署は最も危険な部署だからな。特別報酬もいいって訳だ。端的に言えば、これぐらい貰わないとやってられない」
「そ、そうなんですね・・・・」
ちなみにトーヤは現時点で2億(G)ほど手元にはあるのだが、基本的に物欲がない彼は使いどころに困っており、必要な衣類や機材をそろえるほかはほとんどを村や町の発展のために寄付している。・・・・・・それでも使いどころに困っているのだが。
「せっかくだから、もう少し貯めとけ。この前みたいなパーティがあったときのドレスコードに使える」
「あ・・・・わ、わかりました・・・・・」
マナは怖じ気付く様にすごすごと明細書をしまった。なんだか、この紙ペラ一枚でも高価な物のように思えてくる。
「・・・・・・・・・・そういえば、今度の土曜日は俺とお前は非番なんだっけ」
「え?はい。そうですね・・・・・・・」
「・・・・・・・・・いい機会だから、エンデの周りの店でも行ってみるか」
「え?い、いいんですか?」
マナはトーヤから思わぬ誘いに、思わず口に手を当てて驚く。
「結構面白い店があるから、一回行ってみようと思ってな。お前だったら多分気に入ると思う」
「そ、そうなんですね・・・・・・」
「どうするか?」
トーヤからの予期せぬ誘い。トーヤからいろいろ聞きたいマナは、またとない機会だ。
「いいじゃないか。なれないことばかりで付かれているだろうし、行ってくるといい!」
「エミリアさん!」
グッ!とエミリアがサムズアップしてみせる。彼女の言葉に背中を押され、マナはトーヤに告げる。
「もちろんです!是非つれてってください!!」
「じゃあ、決まりだな」
トーヤはそう言うと、手帳に何かを書き込んでいた。おそらくは予定を書き込んでいるのだろう。
と。
「いやぁ、随分楽しそうだねぇ」
「ネロ、居たのか」
いつの間にか部屋に入ってきていたネロが、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「いやぁ、例の件について途中経過を報告しに来たところだけど、なかなかいい物を見させてもらったよ。でも職務中に女の子をデートにさそブボワァッ?!」
話している最中に、突然ネロの顔面がパガァン!!と同時に後ろに吹き飛んだ。
「黙れ。」
マナはトーヤの方に目をやると、左手をネロの方に向けていた。エミリアだけは見切ることができたが、ほかの誰もがトーヤが一瞬で氷の礫をネロの顔面にぶち当てていたのを気づくことができなかった。




