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ヴィジターキラー  作者: 反物質
氷河﨑凍耶「凍てつきし徒花は咲く」第四章
43/110

10-4

「うう・・・・・・ここは・・・・・・」

「エミリア様、お目覚めですか」

 目を覚ましたエミリアに、ゲイボルグが話しかける。

「中央線戦で意識を失っていたところを、運び込まれたそうです」

「そうだ、私は5体のタツモドキと戦ってて・・・・・・」

 事のあらましをハッ!と思い出し、エミリアはガバッと起き上がる。

「起き上がらないでください!エミリア様はまだ完全には回復できて居ません!!」

「しかし、指揮を執っていた私が倒れていては・・・・・」

 と、無理矢理起き上がろうとしたとき、ゲイボルグに引き留められた。

「今、トーヤ様がエミリア様の代わりに指揮を執られています!」

「と、トーヤが・・・・・?」

 驚いた様子のエミリアは、ふと、台座の上でふよふよと浮いている正八面体から聞こえる音に注意を引かれた。

『お前ら!!たった今、本部に連絡が入った!スローライフ公国の主戦力がこちらに向かっていると!俺たちはついているぞ!!』

『皆、つらいだろうがもう少しの辛抱だ!!無理に体を張って引き留めなくてもいい!最悪、注意を引くことができれば、その間だけは時間を稼げる!!少しでも進ませるな!!』

『やばいと思ったら、“ガーディアン”の仲間を楯にしろ!!“ガーディアン”は“魔導師”を守ることに専念し、ほかのモンスターはそれ以外の奴で対処!欲張って無駄に被弾するなよ!!』

「トーヤ・・・・・・・・」

 盛んに、トーヤが仲間達に檄を飛ばしているのが聞こえる。彼が指揮を執っているというのは本当のようだ。エミリアは予想以上の彼の指揮能力に面食らっていた。

「エミリア様、貴女様ならおわかりでしょう?」

 動揺するエミリアを、ゲイボルグは優しいまなざしでのぞき込んだ。

「トーヤ様がどれだけ努力していたか、必至に勉強してきたか、貴女様が一番近くで見ていたはずです」

「・・・・・・・・・・・!!」

 トーヤは鍛錬している間、本当に身を削るように必至にあがいていた。あまりにも特訓が激しすぎて、骨を何本も折り、そのたびに治癒魔法で無理矢理直し、すぐさままたトレーニングに臨んでいた。何時間も魔法について調べ、学んでいたせいで知恵熱を発症し、自分を氷漬けにしてしまったこともあった。それでも、音を上げることなく、1年間者間しがみついてきた。

 そして、エミリアが指揮を執る合同訓練なんかでは、トーヤは彼女を最も間近なところで見ていた。彼女がトーヤの頑張りを見ていたように、トーヤもエミリアの指揮の取り方を知らない間に盗んでいたのだ。しかも、自分の不足している部分を補い、アレンジまでして。

「トーヤ・・・・・・君は・・・・・・」

 エミリアはこの現状に、ただ感激に打ち震えるしかなかった。







 スローライフ公国の遙か西の森。そこで前代未聞の大決戦が起こっていた。河川の前の広い場所では、何人もの騎士や魔導師が、「ドラゴン(タツモドキ)」を相手に奮闘している。

「喰らえ、アクアショット!!」

「当たれッ!!」

 ザパァン!!と水がはじける音が森の中にこだまする。だが当たったその巨体はびくともしない。バサリ、バサリと大きな翼をはためかせ、紅蓮の甲殻に身を包むその竜は口内に炎を蓄積する。

 火炎竜ファイアードラゴン。この世で最も多く棲息しているタツモドキで、同時に最も転生者に通過儀礼のごとく殺されている、哀れなモンスターである。

「ゴァアアアアアアアアアアア!!」

 地を揺るがすような咆哮とともに、その炎が呼気に乗って吐き出された。瞬く間に空間が紅く染まっていく。

「うわぁあああああああああああああ!!」

「ひいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 上空から吐きかけられる業炎に、騎士や魔導師は逃げ惑う。あらゆるものを焼き焦がすその炎を自分から喰らう者など、居るわけがない。

 そう。たった一人を除いて。

「ガッハッハッハッハッハ!!そんなものか貴様の炎は!!」

 普通の人間の数倍の巨躯を誇るドミニクは、あろうことかその炎に真っ向から突っ込んでいき、その頸に掴みかかった。

「ゴァアア?!」

 空を飛んでいたファイアードラゴンは悲鳴を上げながらそのまま引きずり落とされた。

「ほらほらどうした、小童が!!ワシの怪力に怖じ気付いたか!?」

 ファイアードラゴンを挑発しながら、ゴリゴリと地面引きずり回し、時たま持ち上げて地面に叩きつける。普通のモンスターだったら、既に息絶えているだろう。

 だが、そこは「タツモドキ」。腐っても「ドラゴン」と同一視されていた存在だ。ガッ!!とドミニクの腕を蹴り飛ばして体制を立て直し、逆にドミニクに掴みかかった。

「オオッ?!」

 ガギギギ・・・・・とドミニクの首と肩に詰めを食い込ませ、なんとそのまま持ち上げてしまったのだ!!ブオンブオンと振り回し、やがて勢いをつけてそのまま地面に放り投げた。

「グォオオオ!!」

 ドガァアアアン!!と地響きをあげながらドミニクは叩きつけられた。いくら本人が頑丈でも、自重がとてつもなくかかっているその巨体を上空から落とされては、ダメージは免れない。さらに、そこからファイアードラゴンはドミニクの首元に掴みかかり、マウントを取った。メキメキメキ・・・・・・と嫌な音が森の中に響き渡り、もはや悲鳴も上げられない聴衆はただ震えながらその巨体のぶつかり合いを見ているしかなかった。

 だが、ドミニクこそ「出撃許可」が降りるまでは戦闘さえ許されないほどの力を持っている。ドミニクの首を締め上げるファイアードラゴンの頭と翼を、逆につかみあげ、メキメキと握り潰さんとする。

「グハハ・・・・・・力自慢は・・・・・貴様だけだと思うなよ・・・・小童が!!」

「ガルルルルルルルウ!!」

 うなり声を上げながら、互いが互いを締め上げる状況。膠着状態に入ったそこに、

「動きを止めたな?!喰らえ!!“フルバースト”!!」

 ガガガガガガガガガ!!とネロが4門のガトリング砲でファイアードラゴンの頭部を乱れ撃ちした。貫通はおろか、甲殻一つ叩き割ることはできないが、ドガガガガガガガ!!と銃弾が殺到し、激しい打撃音が連続してこだまする。

「グォオオオ!!」

 圧倒的弾幕にたまらずのけぞったファイアードラゴンは悲鳴を上げた。つかみあげていたドミニクの首を放し、再び上空に舞い上がる。その火炎流の動きを、ネロは逃さない。

「ホラホラァ!!逃げンのかよ!!この腰抜けがァ!!とッととくたばりやがれェ!!」

 ネロは口汚い言葉を吐きながら、ファイアードラゴンになおも弾幕を浴びせかける。普段はにこやかな彼は鬼のような形相で舌舐めずりしている。その狙いは恐ろしく正確だ。

 ネロ自身は研究者ではあるが、彼は内側に狂気をはらむ二面性を持つ。いわゆる「トリガーハッピー」と言われる状態に陥ると、このように凶暴な一面があらわになる。

 そして彼の手にしているガトリング砲だが、実は「懐の中の小宇宙」によって亜空間に接続されており、ネロ本人には一切の自重が無く、反動も本来のものに比べ微々たるものである。さらにこの亜空間に「弾倉」を収納しているので、実質ほぼ無制限射撃を可能としている。

 だが、それでもやはり相手は竜という事か、ファイアードラゴンは間髪入れずに火炎放射を吐きかける。

「チッ!!」

 ガシャン!とガトリング砲を収納すると、ピュン!!と一瞬にして姿が消え、火炎放射の当たらない場所に現れる。

「ア~~~~~~~!!コイツの甲殻クッソ堅てェ~~~~~~!」

「ゲホゲホ・・・・・ぐぅ・・・・・なかなかやりおる!」

 ドミニクは喉を押さえて咳き込んだ。ネロも確かな手応えを得られずいらだっている。ファイアードラゴンも甲殻が一部剥げ落ちているのだが、依然問題なく夜空を舞っている。

「こんなヤツをワンパンできる転生者共は頭がおかしいぜ!!」

 ネロの吐き捨てた言葉を肯定するかのように、ファイアードラゴンは大きく息を吸うと、

「ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオァアアアアアアアアアア!!!」

 と、猛々しく吠えた。







「こっちだ!!こっちに来い!!」

「ヴェヴヴ!!」

「ジェリュリュリュ!!」

 一方トーヤは、魔力で生成した氷片をその不気味な肢体にぶつけながら、木々の間を飛び回っていた。不気味な風貌を持つウルバヒドラとクルドヒドラ。彼らの猛攻をかいくぐりながら、トーヤは初めて健吾を目にした場所に誘導しようとする。足が遅いのが幸いだが、それでも2体を相手に逃げ回るのも骨が折れる。

「ゲェエエエエ!!」

 ゲボッ!と汚い音とともに、ウルバヒドラの口から猛毒液が吐きかけられる。それは先ほどまでトーヤが居た場所に着弾し、人一人乗れるほどの太さの木の枝を瞬時に汚染した。

「ジュラララ・・・・・」

 一方クルドヒドラは口吻に生える4本の触手の先端を口元に構えて、ジジジジ・・・・・と雷属性の魔力を収束させ、呼気にのせて一筋のレーザービームとして撃ちだした。

「ギェュウウウウウウ!!」

 しぼりだすような鳴き声とともに空を切り裂いたそれは、トーヤが飛び移った先の木の枝を難なく消し飛ばした。その寸前に飛び退いていたため被弾しなかったが、トーヤは肝を潰した。

「(思った以上にしつこいしリーチがある・・・・・この精度で“目が見えない”っつーんだから、とんでもねぇ野郎共だ!!)」

 ヒドラ族の特徴として、目がないというものがある。これは普段彼らが洞窟の中などで棲息しているため、受光器を退化させたのだ。その代わり常に「生命探知」のような「魔力で生物を探る」能力を得ており、しかも「隠密」や「偽装」ではやり過ごせないほどに鋭敏なのだという。

「ガギョギョギェギャ!!」

 ウルバヒドラが上体を起こし激しく頭を震わせると、一呼吸置いて噛みついてきた。しかもそれは顎を持つ普通の噛みつきではなく、伸縮自在の頭部をまるごと広げ、包み込むようにして食らいつくのだ。しかもその際に4本の触手を振り回すので、逃れられたとしてもそれに打ち据えられ、毒棘で指されてしまう。

「クッ!!」

 トーヤは飛び乗って木の枝に手をかけると、鉄棒の要領で素早く回転し、その勢いのまま地面に飛び降りる。その頭上の木の枝を毒の触手が打ち据え、バキバキバキッ!!と砕かれる。

 そしてそんなトーヤの目の前で、クルドヒドラが背中から無数の針を伸ばし、その場でグググ・・・・・と力をためていた。

「マズい!」

 トーヤはその場で上着を脱ぐとそれを楯のように構え、パキパキパキ・・・・・と凍てつかせ始める。その直後、

「ヴェウウウウウウウアアアアアアアアアアアアッ!!」

 不気味な絶叫と同時に天を仰ぎ、バリバリバリィ!!と周囲に電撃をほとばしらせた。電磁バリアが張り巡らされ、辺りの石や植物が押しのけられる。そしてその外側には電撃の槍が無数に飛び出し、辺りの生命を串刺しにせんと牙を剥く。

「ガアッ・・・・・・!?」

 トーヤは上着で電撃の槍をしのいだものの、その威力に吹き飛ばされてしまった。勢いよく地面に投げ出され、ゴロゴロと転がる。

「ゲホッ・・・・・・・・氷結がギリギリ間に合ったか・・・・・・」

 上着などと言う貧弱な楯で防げたのは、ひとえに氷結で凍らせて魔力に対する抵抗を高めたためであった。比較的厚手だったそのジャケットは氷が剥がれた際にビリビリに破れてしまった。そして、吹き飛ばされて体勢を崩したトーヤの元に、ウルバヒドラが口をすぼめ、今にも毒を吐きかけようとしていた。

「クッ・・・・・・・マズい・・・・・間に合わな・・・・・」

 魔力の移動がうまく行かずに体勢を立て直すのに悪戦苦闘するトーヤ。まさに毒液が履き替えられようとした、寸前。



ボゥン!!と、ウルバヒドラの頭部に炎を纏った矢が命中した。




「ギョワァアアア!!」

 外部からの突然の炎属性の攻撃に、ウルバヒドラはのけぞる。吐き出された毒液は本来の圧力を加えられず、ビチャビチャと辺りにまき散らされた。離れていたトーヤには当然届かない。

「ハァーイ!貴方が噂の副隊長さんね!」

 トーヤの目の前に、スタッ、と「レンジャー」の女性が降り立った。オレンジ色の髪をカールさせたポニーテールの女性は、トーヤに向かって笑顔で手を振った。

「“鷹の目”ミラ様・・・・・予想以上に早かったですね」

「当たり前じゃない!祖国がどえらい事になってるって聞くものだから、そりゃもう駆け足よ!」

 と意気込んでいるミラだが、その背後でクルドヒドラが再度「チャージビーム」を放とうとする。

「な、危な・・・・・・・」

 口腔の前で職種を構え、雷属性の魔力を充填するクルドヒドラ。その予備動作を見たトーヤは身構えたが、

「はいはーい」

  と、軽いノリでクルドヒドラの砲に手をかざすと、透明な魔力の楯が張られる。「ギェュウウウウウウ!!」という絞り出すような絶叫とともに撃ち出されたそれは、けれどもその透明な楯にいとも簡単に阻まれる。

「見たところ、“下位個体”ね。この分なら2対1でもやれそうだわ!」

 と言い放ち、ザッ!とヒドラ族のタツモドキの前に立ち塞がる。

「このまま、任せてもよろしいでしょうか?」

「なぁに、当たり前じゃない!そのために私が来たんだから!あなたはあなたが成すべき事をしなさい!」

 そう啖呵を切りながら、ミラは弓を引く。目の前の強大な力を前に、臆せずに立ち向かう。

「・・・・・・・恩に着ます」

 トーヤはそれだけつぶやき、きびすを返して森の中へと飛び出していった。身勝手な転生者の我が儘に、終止符を打つために。






「ぎゃああ!!」

「ひぃいい!!」

 魔導師達は悲鳴を上げて逃げ惑っていた。彼らを追うのは岩のような外殻に金属質な突起物が多数生えている、動く鉱山と見紛う者だった。並のモンスターよりも二回り以上も大きく、背中や頭部、腕に煙突状の排熱器官が伸びており、そこから土属性と水蒸気が吹き出す。「重鋼竜ギガドラス」。数居るタツモドキの中でも、屈指の実力者として知られている。

「ポーーーーーーーーーッ!!ブシューーーーーーッ!!」

 蒸気機関車のような音を上げて、ギガドラスは大口を開けて地面をえぐりながら迫ってきた。魔導師達はかろうじて避けるが、土属性の魔力をぶつけるごとに行動が機敏に、より激しくなっていった。その暴れっぷりから、もはや手がつけられない状態となっていた。

 そして、岩のような外殻が紅く光ったと思うと、

「バフォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 ボウッ!!と背中の排熱器官から炎があふれ出し、周囲に熱風を巻き起こす。ギガドラスは「激震炉」という内臓器官で土や岩石を燃やして炎属性の魔力も生成し、自身の身体能力を強化する。する。この「激震状態」に突入したと言うことは、ギガドラスはフルスロットルの状態である。

「ブォオオオオオオオン・・・・・」

 まるで銃器の金属の関節がこすれるようなうなり声を上げながら、退化し腕と化した翼を引き絞る。それを思いっきり地面に叩きつけ、えぐるようにそのまま振り上げると、ドガァアアアアアアアアアアアン!と地面から鋭利な岩がささくれ立つ。

「ぐぅううう!?」

 ガーディアンの男性はその大楯で防ぐものの、その威力を殺しきれず大きく後ずさる。ミシミシ・・・・・と、嫌な音が体から鳴り響いてくる。

「副隊長は注意を引いてしのげって言ってたけど・・・・・こんなの無理だ・・・・!」

 その常軌を逸した攻撃範囲とその火力をどうにか対処するので精一杯で、とてもではないが反撃などする暇も無い。やはり最強クラスのタツモドキなだけあり、思うように立ち回れない。

 そんな彼らの前で、ギガドラスはその腕を大きく広げ、

「ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 と、蒸気機関車の嘶くような咆哮を上げ、天を仰ぎ見た。

「やばい・・・・・・絶対なんか来る・・・・・・」

 そう怯える魔導師の前で、ギガドラスは両腕を掲げたまま猛烈な勢いで突進し始めた。ギガドラスの攻撃技の中でも最も高威力な「ラースオブアース」という技は、その蒸気力を最大限まで高め、両腕ですさまじい掌底を行う。いくらガーディアンとて、しのぎきれない。

「も、もうだめだぁああああああああああああああ!!」

 と、魔導師が泣き叫んだとき、




「“グラシアルフォートレス”」

 彼らをまとめて、巨大な氷壁が持ち上げた。




「ポーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 ギガドラスの「ラースオブアース」はその氷壁を捉え、ゴシャアアッ!!とすさまじい亀裂を生じさせた。だが、その氷壁は激しく揺れはしたが、崩れることはなかった。

「・・・・・・随分と厄介な奴が来やがったな」

「貴方は・・・・・・“絶対氷壁”クルトアイズ!!」

 魔導師は彼の名を呼ぶが、重厚な甲冑に身を包む青い長髪の男性は面倒くさそうにぼやくだけだった。そんな彼はガーディアンのような大楯のほかに、まるで大砲をそのまま剣にしたような武器を肩に担いでいた。

「ハァ・・・・・・別に俺は愛国心なんざ無ぇから国がどうなろうと知ったこっちゃないが・・・・」

 だるそうに、クルトアイズは氷壁から飛び降りた。ゴシャン、という重たい音がするが、本人は居たって普通に降り立っている。

「ブルルルルルルルル、ドゥルァアアアアアアアアアアアアア!!」

 エンジンが暴走したように吠え、ギガドラスは再び地面をめくりあげる。とげとげしい岩が地面を伝うように次々と隆起していく。そこに、クルトアイズはその剣を突き出し、トリガーを引いた。

「・・・・・・・・・余所者に鼻伸ばされてんのは癪なんだよ!!」

 剣先の銃口・・・・・否、砲口からは魔力の塊が飛び出し、ささくれ立っていく岩盤に着弾、炸裂した。ボォン!!と爆発し、その攻撃の勢いを相殺する。

「シューーーーーーーー・・・・・・」

 ギガドラスはなおも盛んに炎上しながら、目の前の矮小な人間を葬らんと狙いを定める。そんなギガドラスを正面にしても、なおもクルトアイズはけだるそうにそいつを見据えた。

「・・・・・・・・さぁて、巷で噂の“バスターブレード”、その威力をとくと味わうがいい」





 又、別の場所では新芽のような緑の竜が、空を舞っていた。

「キチチチチ・・・・・・・・・・」

 虫が関節をならすような鳴き声のそれは、半透明な翼膜と首回りの「旋殻(せんかく)」と呼ばれる甲殻を持つ。自然風や風属性の魔力をその「旋殻」で受けることで自身に風属性の魔力を充填し、最大限までたまると背中と翼から「ブースター」と呼ばれる器官が露出する。そこからは暴風を生み出し、同じ翼を持つタツモドキとは思えないような飛行方法で獲物を追い詰める。

風見竜カザミドラ。風を首回りの旋殻で受ける姿からそう呼ばれている。

「喰らえ!“サンダーショット”!!」

「打ち抜け!!」

 魔導師達は魔法を放つが、その竜を穿つことはなかった。ほかの竜のように羽ばたかず、翼と背中の「ブースター」からのジェット気流で、天空をまるで戦闘機のように飛ぶ。

「ピギィイイイイイイイイイイイイイイ!!」

 甲高い雄叫びとともに急旋回し、カザミドラは地上を目指して降下する。

「やばい、やってくる!!」

 魔導師達は一斉に背を向けて走り出した。この速度なら逃げられる、そう踏んだ彼らは直後、この竜の恐ろしさを体感することになる。

 カザミドラは地面にあわや衝突する寸前、バシュィイイイイイ!!と背部のブースターから膨大な風属性の魔力を噴射、急加速したのだ。しかもその制動力をもって地面に平行になるように軌道修正し、ブレード状の尻尾をこすりつけながら。

「ぐぁあああああ!!」

 幸い、急加速後はその速度故かほとんど追尾しないようだ。だが、機動力の低いガーディアンは防御が間に合わず、その鋭利な尻尾に切り裂かれた。鎧を纏っていたため致命傷は避けられたが、立ち上がることができないようなダメージを負った。一度「ザ・ソニック」を繰り出したカザミドラは、今度こそ地面に降り立つ。

「クソッ!!仲間の仇だ!!」

 魔導師の一人が憤りながら、「サンダーボルト」を放つ。が、それはキチン質の甲殻に阻まれ、まともにダメージを与えられない。

「ギュシイイイイイ!!」

 甲高い声を上げながらカザミドラは翼を振るい、同時にブースターから魔力を噴出、魔力の刃を飛ばす。

「「“バリアブラ”!!」」

 魔導師が叫ぶと電磁バリアが張られ、自分を含む味方を包み込む。が、そのバリアもたやすく破られる。バリン!と破られた衝撃で、魔導師は吹き飛ばされる。

「うわぁああああ!!」

「ど、どうすればいいんだ!?」

 他のモンスターとは一線を画す機動力と苛烈な攻めに、魔導師達は苦戦する。そんな彼らの前で、カザミドラは一歩身を退いた。翼と背中のブースターから風属性の魔力が漏れ出しており、次に猛スピードで突っ込んでくるのは目に見えていた。

「(やばい、このままじゃ・・・・・・)」

 そう思う間もなく、カザミドラは飛び込んでくる。このまま吹き飛ばされてしまう未来が脳をよぎった、刹那。




シャキン!!と、金属がこすれて響くような音が鳴った。




 カザミドラと自分たちの間に入り込んできたその影は、神速の剣戟であの巨体をはじき、その軌道をわずかながら反らしたのだ。タツモドキの中では決して重い方ではないが、それでもモンスターの突進を無理矢理反らすというのは、常識破りなことだった。

「拙者が修行の旅に出ている間に、随分と物々しいことになっておるな」

「あ、貴方は!!」

 袴に身を包み、髪の一房を金に染めた壮年の武人は、不敵に笑って見せた。鍛えに鍛え抜かれたその肉体は、魔力の光を反射し煌めく太刀を自由自在に操っていた。「閃光」と呼ばれたその人物は、この国の未曾有の危機に駆けつけてくれたのだ。

「拙者の故郷の危機とあらば、駆けつけぬ理由など無い。異世界からの異邦人の小童に好き勝手されているのも、拙者とて看過できぬ」

 そう語るゴランは、その竜からは一切目を離さなかった。ジェット気流を吹き出しながら天を旋回するカザミドラは、再び「ザ・ソニック」を繰り出そうとする。

「き、危険です!!そこで待ち構えるなんて無茶だ!!」

 そう叫ぶ魔導師などお構いなしに、ゴランは太刀をチン・・・・・と納め、身をかがめた。

「ピギィイイイイイイイイイイイイイイ!!」

 甲高い声で叫びながら、地表を目指して急降下するカザミドラ。そして地面に衝突する寸前の、急加速の瞬間。そこを狙って、ゴランは鞘に収めた太刀を一瞬にして抜いた。その刹那、シャキキキン!!と連続で金属が空を切る音が鳴り、ゴランとカザミドラは交錯した。

「ギュウウウエエエエエ?!」

 空中に飛び出したカザミドラは突然もんどり打って、フラフラよろめいた。ほんの一瞬だけだが体勢を崩し、すかさず羽ばたき出す。その翼の「ブースター」の一つに切り傷ができている。

「風見竜の噴気孔は膨大な風属性の魔力を噴射する器官である反面、その外殻はほかと比べて非常に柔いと聞いている。すれ違う瞬間に一太刀入れる事など、拙者には造作もない事よ・・・・・さあ来い!!異世界の無法者に操られし哀れな竜よ!!拙者が相手になってやる!!」

「ピギィイイイイイイイイイイイイイルルルルルルッ!!」









 そして、樹海のとある洞窟。ハルピュイアとエルフが激闘を繰り広げていた。

「転生者ァアアアアアアアッ!!死ねェエエエエエエエッ!!」

 その強靱な脚で健吾に組み付こうと、空中から陰湿な雰囲気を放つ少年に突撃する。が、それをエルフの魔法が許さない。

「ご主人様には、指一本触れさせはしませんわ!!」

 メキメキメキ・・・・と洞窟の地面を穿ち、太く頑丈な植物が行く手を阻む。グーフォはその植物の壁に突っ込み、鉤爪で切り裂き、引きちぎろうとする。だが・・・・・

「か、堅ェ・・・・・・」

「エルフの“植林”の魔法を、簡単に崩せると思っていらっしゃるの?!」

 ハルピュイアの鋭い爪と強靱な脚力を以てしても、その植物は傷一つ着かなかった。そして彼の脇腹に、すさまじい勢いで蔦が突き出される。直撃したグーフォは吹き飛ばされ、空中を面白いぐらいにぐるぐると回る。

「ガハッ・・・・・・・・・・・」

 どうにか体勢を立て直し、グーフォはにらみつける。目の前のエルフの少女ではなく、その背後に佇む、異世界の少年を。

「これが、ボク達の愛の力さ・・・・・どうだい?彼女の心の強さを、感じ取れたかい・・・・・?」

「ケッ!何が“愛の力”だ!!所詮はテメーが“洗脳”しているだけじゃねーか!!」

 既にボロボロなグーフォはそれでも啖呵を切るが、リズの圧倒的な迎撃能力に押されつつあった。ここまで何度も彼女を無視して犬飼健吾を仕留めようと飛び立ったが、その悉くを彼女の植物に阻まれた。

「ハァ・・・・・・わたくしは、ご主人と・・・・・・強い“愛”で・・・・・ハァー・・・・・・つながれて・・・・・居るのですわ!・・・・・・・あなたのこの程度の・・・・・“思い”で・・・・・ハァ・・・・・・敗れると思わないことですわ!!」

 シュルルル・・・・・と植物を地面に引っ込めたリズは息を切らしていた。彼女は一切攻撃を受けていないにもかかわらず、一目で見てもかなり消耗していた。おそらくこの「魔法」は、自分たちの予想以上に魔力を使うのだろう。だが彼女の攻撃は一切そのスピードを緩めないし、蔓も堅いままだ。相当な心の強さなのだろう。

 彼女の瞳の中に宿る「M」の文字。転生者に思い人を殺された「憎悪」よりも、洗脳した奴との「愛情」の方が強いというのだろうか。

「さあ・・・・・・・もう彼はいいだろう。楽にしてあげよう・・・・・・・」

「・・・・・・そうですわね。では・・・・・・」

 リズは右の掌をグーフォの方にかざした。彼女の動きに合わせて、足下から再び姿を見せた植物がその先端をグーフォに向ける。

「(畜生・・・・・・・ッ!!こんなところで・・・・・・俺は・・・・!!)」

 ギリ・・・・・と、悔しさに歯ぎしりするグーフォ。そんな彼に、無慈悲にもその植物は突き出され、グーフォを貫く。

 はずだった。




洞窟の外から飛び込んで来た、氷塊が凍らさなければ。




「!!」

「え・・・・・・・」

 リズと健吾は目を見開いた。グーフォの鉤爪を受けても傷一つ着かなかった植物が、いとも簡単に凍り付いたのだから。

「・・・・・・・・・・グーフォ副隊長。転生者を目の敵にするのはいいですが、もう少し冷静になった方がよろしいかと」

 グーフォが振り返るとそこには、スラックスとワイシャツを身に纏う、色あせたブロンドの少年が立ち塞がっていた。少年は肩を上下させ、白い息を吐いていた。

「テメェ・・・・・なんでここが・・・・・・・」

「貴方が飛んだと思われる場所に、羽根が落ちていました。“隠密”が得意な貴方らしくない」

 と、数枚の羽根を見せた。模様や大きさからして、自身のであることは容易に理解できた。

「キミは、さっきの・・・・・・・・・」

「犬飼健吾。お前を“脅迫罪”及び“国家への侵略行為”を働いたとして、お前を“処分”する。・・・・・・覚悟しろ」

 と、トーヤはシュラ・・・・・と剣を抜いた。

「そんなこと・・・・・させませんわ!!」

 冷や汗をかきながらも、なおリズは植物を操り、犬飼を守ろうとする。細長い植物が地面から一斉に生え、トーヤに殺到する。

「・・・・・・・・・・コイツは面倒そうだ!!」

 トーヤは眉間にしわを寄せながら、あろうことかその植物の蔓の束に正面から突っ込んでいった。

「バカかお前は!!俺様の鉤爪でも傷が付かなかったんだぞ!!」

 そう叫んだグーフォの前で、予想外のことが起きる。トーヤが一瞬のうちに振り抜いた剣に、その植物がスパッ、と切り捨てられたのだ。

「!?」

 グーフォは今まで何度自分が食らいつけど、まともに傷の付かなかった植物が切り落とされた光景に、戸惑いを隠せなかった。

「この程度・・・・・どうと言うことはありませんわ!!」

 リズは叫び、さらに植物を足下から生やす。それをトーヤの方に勢いよく延ばすが、やはり一閃のもとに斬り捨てられる。

「きいいいい!!なんで・・・・・なんでこんな子供に・・・・!!」

 リズはムキになって植物を生やし、それを操るが、トーヤも負けじと剣を振るう。死にものぐるいで植物の軌道を見切り、的確に切り落としていく。その表情には一変の余裕もない。

「グーフォ副隊長!!あんた、こんなにスパスパ切れるのに、なんでそんなに苦戦しているんですか!?」

「スパスパ・・・・・?!」

 グーフォは彼の物言いに腹を立てかけたが、その違和感に気付き、言葉を途切れさせた。トーヤに殺到する植物。その太さが、明らかに細くなっているのだ。しかもトーヤが切れば切るほど、伸ばす植物はみるみるうちに細くなっている。さらに表面の光沢も失われていき、しおれているように見えるのだ。

 思えば、戦いが長引くほどにリズの様子はおかしくなっていった。たいしたダメージも与えていないのに消耗していき、顔色が悪くなっていった。魔力の枯渇かと思ったが、よくよく考えればエルフは「魔力の扱いに長けた種族」だ。たったこれだけの攻防で消耗するような魔力など持ってないはずだ。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・・・・ウッ?!」

「?!」

 やがて、リズは植物を操るのを突然やめた。トーヤに向けて突き出されようとしていた蔓が、ピタリと止まる。そして、シュルルル・・・・・とリズの足下に戻っていく。何かの予備動作かと思ったトーヤはとっさに身構える。が、直後彼女の身に起きている「異変」に気がついた。

「あんた・・・・・・・まさか!!」

 トーヤが叫んだ直後、事態は急変する。彼らの目の前で、とんでもないことが起こった。




リズのワンピースの内側から、ブシャアアアアアアア!!と大量の液体が流れ落ちたのだ。




「り、リズ・・・・・・・キミは・・・・・!!」

「な・・・・・・・何が・・・・・起きてやがるんだ・・・・・!?」

 ずっと黙りこくっていた犬飼とグーフォは、その光景に目を剥いた。そんな彼らの前で、リズは仰向けに倒れ込む。

「このエルフ・・・・・・腹が・・・・・・・」

 戦いの最中であるのと、ゆったりとしたワンピースだったのとで気づかなかったが、彼女の腹が明らかに膨らんでいる。それも、華奢な肢体をもつ彼女のものとは思えないほどに。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・アア・・・・・・・ンンッ・・・・・・!!」

 そして、彼女はその場で息み始めた。冷や汗をかき、顔面蒼白の状態で、なおも何かをしようとしている。思い当たるのは、一つしか無かった。






洞窟内に、鉄の臭いが充満した。


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