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メモが残された洞窟を発見してから一夜明け、アーサー、エミリア、ネロは「スローライフ公国」を訪れていた。「転生者殺し」によって、あの手帳の持ち主がこの国で召喚された「転生者」だとつかんだのだ。その王城の一室で国王とギルド長、そして「転生者」の一人の少年と会議を行っている。
「本当に、申し訳ございません・・・・・我が国で召喚した英雄が、まさか叛逆を行うとは・・・・・」
「しかも、彼は“死亡認定”しておりまして・・・・・完全にノーマークでした。あなた方が発見してくださらなければ、大変な事態になっておりました・・・・・・」
「俺の同僚が・・・・・・申し訳ない!」
国王とギルド長、少年は頭を下げて謝罪した。彼らこそ、あの手帳の持ち主を呼び寄せた張本人達であり、呼び寄せられた「転生者」の一人だ。
「それはいい。まずは奴の叛逆のきっかけとなった“裏切り”について話を聞きたい」
アーサーは険しい顔つきで問いただした。
「はい・・・・・俺たちがこっちの世界に来たときに、モンスターの討伐に行ったんです」
少年は深刻な顔つきで語り始めた。
「最初は比較的弱いモンスターの討伐だったんですが、“火を噴くドラゴン”が乱入してきたんです。自分たちの手には負えないと判断して、いったん退こうって言ったんです。しかし・・・・・」
フー・・・・・と深呼吸し、再び話し始める。
「アイツ・・・・・“健吾”が“ここでコイツを討伐すれば、ボク達は一気に出世できる”って言い出して・・・・・仕方なしに戦ったんです。でもやっぱり手も足も出なくて、結局逃げるしかなかったんです。そこでアイツが転んで逃げ遅れたんですが、とっても俺たちじゃ助けに行けなくて、それで・・・・・・」
「成る程・・・・・つまり“奴自身が勝手にしでかしたこと”が原因だったのか」
このように無謀な特攻を行い、そして自滅する転生者もかなり多い。これは「自身が物語の主人公だから、死ぬわけがない」などと錯覚してしまうことが原因だ。向こうの世界でこういった英雄譚が娯楽の一端として親しまれてはいるという話ではあるが、なまじ向こうの世界観との乖離が激しいがために、「現実と虚構の区別が付いていない」ことに起因するとされている。そして、今回その無謀を働いたのが「犬飼健吾」である。
健吾は今の話と事前情報をすりあわせると、かなり思い込みが激しく自分本位で、劇場型な性格らしい。まるで自分が悲劇のヒーローの様に振る舞っている様が日記から見受けられるし、何より「モンスターを眷属にする」というスキルがその本質を如実に表わしていた。
「我々も報告を受けてから現場に向かったのですが、そのときにはもうすでに足取りをつかめなくなっておりまして・・・・・・状況から“死亡認定”せざるを得なかったのです」
「ギルドの方でも記録は残っていたのが幸いでしたね・・・・・おかげで今回こうして突き止めることができたのですが」
ネロが顎に手をやりながら、今の少年の話とギルド長の話をメモに残している。
「では、私からも質問したい・・・・・今、彼はどれだけの戦力を手にしているのでしょうか?」
国王が手を組みながら尋ねた。その顔は緊張でこわばり、汗ばんでいる。
「そうですね・・・・・調査部隊の情報によりますと、“スライム42体、ドレッドファング15体、ビーナイツ25体、クィンホーネット2体、そしてドラゴンが5体”ですね。“ウルバヒドラ”、クルドヒドラ“はいいとして、”カザミドラ“と”ギガドラス“が居るのが非常に厄介です」
「ど、ドラゴンが5体・・・・・しかも、“風見竜”と“重鋼竜”が一緒となると・・・・」
ギルド長が頭を抱えた。この反応が、この二体がどれだけ強力なのかを物語っている。
「今回は我々も戦力を総動員するつもりですが・・・・・それだけでは全く以て足りません。是非とも御国のお力がほしいところですが・・・・・・・・」
「無論、全面戦争です。これだけの戦力ですから、やむを得ません。ただ、我が国出身の実力者にも声は掛けますが、間に合うやら・・・・・・」
この「スローライフ公国」は数多くの実力者を輩出している事で有名だ。「鷹の目:ミラ」、「絶対氷壁:クルトアイズ」、「閃光:ゴラン」など、名だたる戦士がこの国出身なのだ。だが、彼らも「冒険者」であり、すでに皆この国を発っている。彼らの活躍で居場所はわかるものの、この緊急事態に間に合うかどうかは疑問が残る。
しかし、戦力以外にも別の問題もある。
「なあ、一つ聞かせてほしい。・・・・・・・犬飼は、どうなるんですか?」
少年が緊張の面持ちで質問した。おそらくクラスメイトということで彼のことを気にしてはいるのだろう。
だが、そこに待っているのは非情な現実だった。
「奴はこちらで“処分”させてもらう」
「なっ・・・・・・!!」
アーサーの切り捨てるような答えに、少年は憤り、ガタッと立ち上がる。アーサーの言う「処分」は、すなわち「処刑」を意味することを理解したのだろう。
「ま、待ってください!!まだ交渉の余地があるかもしれないんですよ!?そんな簡単に殺すなんて___________」
「少年。君の言いたいことは解る」
少年の言葉を、エミリアが遮る。
「だが、彼はすでにこの国を滅ぼす勢いで戦力を集めて居ることが解っている。明らかに“侵略”の意志がある以上、平和的に解決することはできない。・・・・・・・それに」
「それに?」
エミリアの言葉を、少年は復唱する。
「彼はおそらく聞く耳を持たない性格だ。交渉を行うどころか、問答無用で襲いかかってくることは想像に難くないはずだ。君たちも解っているだろう?」
「うっ・・・・・・・・・・・」
実際、その性格故に彼とは生き別れる羽目になった。いくらこちらに迎え入れる意志があろうと、無効は徹底的に敵認定している以上、交渉など望むべくもない。
「タカシ、腹をくくるのです。こうなった以上、もう戦うしかありません・・・・・・・」
「畜生・・・・・・・ッ!!」
タカシ、と呼ばれた少年は再び椅子に座り、自分の膝をダンッ!!とたたいた。タカシは涙を流している。自分の仲間を手に掛けること、あのとき彼を守れなかったことを悔やんでいるのだろう。
「気持ちはわかるが、もう取り返しの付かない事態にまで発展してしまっている。それに一方的な思い込みで国ごとお前達を潰すつもりだ。こんな危険な奴を野放しにはできない。・・・・・では、国王」
「ええ。祭りは普段通り行いましょう。その一方で戦力を集結、徹底抗戦と行きましょう」
国王は神妙な顔でうなずいた。おそらくここで祭りを取りやめてしまうと、嗅ぎつけた健吾が侵略を注視し、さらに戦力を増強させるだろう。探すにしても、あの隠れ家が見つかったことが解ればすぐに別の場所に移動され、雲隠れされるに違いない。
相手に余裕を与えない。そのためにはここで叩くしかない。非常に危険な賭だが、健吾の能力の危険性から、戦力の拡大は防がなければならない。
「では、1週間後。予定通り行きましょう。“防衛戦”開始だ!」
アーサーは立ち上がり、そう宣言した。
「成る程、祭りの日まで1週間ですか・・・・・思った以上に時間が無いですね」
「ああ、そしてこの前お前が見つけてくれた隠れ家の情報から、奴が100体近いモンスターを従えてくるのは間違いないからな。そのためには国との協力が不可欠だが・・・・・・肝心の主戦力が集うかどうかが難しい」
トーヤは「対転生者特別防衛機関」本部の中庭でエミリアと話していた。1週間という時間は長いようで、実はかなり短い。一つの町単位ならば兎も角、国全体が総動員して動くとなると、それだけ情報や人のやり取りの規模が大きくなる。つまりそれだけ伝達や移動に時間がかかるのだ。
そして、現時点でスローライフ公国の主戦力となり得る冒険者は、この国から遙か彼方へと旅立っている。彼らの元に情報を届けるだけでも数日かかり、さらに下準備や移動となると1週間でスローライフ公国まで戻ってこれるかはかなり怪しい。
つまり、実質的には「転生者殺し」が主体になって行動することになる。今回の件の特性上彼らがメインになるのは順当ではあるが、少数精鋭の彼らでは厳しい者があるのも事実だ。
「しかし・・・・・エミリア隊長。モンスターを見極めるのはどうするのです?いくら何でも戦場になる樹海の原生モンスターまで手をかけるのは忍びないですが・・・・・」
と、トーヤがエミリアに尋ねているときだった。
「!!」
トーヤは突然その場から身を翻す。飛び退いた直後、彼がほんの一瞬前まで居た場所にドスン!!と、石が落ちてくる。
「なっ?!」
エミリアが突然のことに面食らっている最中にも、その襲撃者はトーヤに襲いかかる。飛び退いたトーヤに上空から黒い影が急降下してきて、トーヤに掴みかかろうとする。そして彼はそれを俊敏な動きで躱す。トーヤに襲いかかってきた影、それはハルピュイアの青年だった。
「生意気に避けてんじゃねぇこのクソガキ!!小癪にも“生命探知”なんざ覚えやがって!!」
「グーフォ副隊長。俺のは“魔力の揺らぎ”を感知しています。厳密には“生命探知”とはやや異なります」
「うるせえよ!クソが!!」
バサバサバサッ!!と大きく羽ばたくのは、グーフォだ。
「おい、グーフォ!!いい加減トーヤの事を認めたらどうなんだ!?既に彼は我々の仲間になって1年が経つのだぞ!!」
「仲間じゃねぇよ!!俺は一日たりとも思ったことはねぇ!!」
トーヤが「対転生者特別防衛機関」に所属してから1年が経った。周りの仲間こそ始めは「異世界出身」ということで難色を示していたが、彼の献身ぶりを目の当たりにし、徐々に受け入れていった。
だが、グーフォだけは認めようとはしなかった。「転生者」に思い人を殺された彼にとっては、トーヤは存在するだけで虫酸が走る。故に一刻も早く追い出すためにこうして度々奇襲を仕掛け来るのだ。
「そんなことを言ったって、どうせコイツだって内心は俺たちのことを見下してやがるんですぜ?“ほかの奴らには真似できない事をやってのける、俺カッケー”ってさげすんでいるに違いねぇ!!なあ、“異世界の英雄”トーヤくん?!そろそろ本性を現したらどうだ?!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
トーヤはグーフォの言葉に歯がみした。彼自身は「貰い物の力」に酔いしれる異世界の英雄に蔑ろにされ続けるこちらの世界の生命達に、尽くしていたつもりではあった。そして、それを万人が受け入れるわけがないことぐらいは解っていたつもりだった。だが、それでも実際に言葉を耳にすると胸が痛む。
「ほうら、そうやって黙っているって事は、そうなんだな?今に見ていろ、本性を現すに______」
「グーフォ!!いい加減にしろ!!」
トーヤに罵声を浴びせ続けるグーフォにキレたエミリアは、グーフォの脚をつかみ、そのまま地面に叩きつける。
「ガハッ!?」
地面に引きずり下ろされたグーフォは背中を打ち付け、咳き込んだ。
「お前が転生者に憎しみを抱いていることは百も承知だ!!だが、彼は我々の仲間であり、私の部下だ!!部下のことを悪く言う奴を、私は認めはしないぞ!!」
「グッ・・・・・・・!!」
空を飛ぶハルピュイアを引きずり下ろすのは並大抵のことではない。決して武闘派ではないグーフォとは言え、彼を軽々と引きずり落としたエミリアには、ぐうの音も出なかった。
「いい気になってんじゃねぇぞ!!今に見ていろ!!」
と、捨て台詞を吐きながらグーフォは飛び立つ。憎しみをあらわにしたその表情を、トーヤはいやというほど見てきた。
「・・・・・・・トーヤ。お前の体質は確かに“ステータス”に頼っている連中にとっては脅威そのものだろう。・・・・・・だが、お前のものは決して“チート”などではない。だから引け目に思うことはないぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・はい」
返事するトーヤだが、その長い前髪の向こうの瞳は、憐憫な色を湛えている。1年間ここで戦ってきた彼だが、未だに精神的な弱さを抱え込んでいる。
転生者の持つ「チート」に真っ向から立ち向かえる術を持ちながら、それを「チート」だとして疎ましく感じるというのは、皮肉なものだ。
「・・・・・・・・・・・本当に、大丈夫なのだろうか」
1週間後の大舞台を前に、エミリアは不安を募らせるばかりだった。




