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ヴィジターキラー  作者: 反物質
第2章 「勇者よりTUEEEEE俺はなんやかんやで暗部に身をやつしました」浅倉忍
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2-7

「“対転生者捕縛拘束具”を出せ!!すぐさま目標の回収だ!!」

 トーヤが指示を出すと、すかさず騎士の何人かが物々しい布や金具を持ち出してきた。一方でいつ鎧を脱いだのか、身軽になった何人かの騎士が「執務室」の床に頑丈な杭を打ち込み、そこに引っかけられたワイヤーを伝って滑り降りる。エミリアの救出と忍の確保のためだろう。

「・・・・・・・・・・はぁ」

 ドサッ!!と何か重い音がすると、そこには顔を真っ青にして冷や汗を滝のようにかいたモーガンが崩れ落ちていた。

「モーガンさん!!」

「「旦那様!?」」

 マナやモーガンの使用人達が、何事かと駆け寄る。外傷こそ無いが、その表情はこわばっている。

「いやはや、やっと安心できました・・・・・皆さんには感謝をしなくてはなりませんね・・・・・」

 モーガンは安堵のあまり、軽くめまいを起こしていたのだ。それはそうだろう。目の前に自分の命を狙う者が迫ってきているのだ。しかも、姿形が見えない分、余計に恐怖を覚える。そんな極度の緊張状態から途端に解放されて、平常でいられる方が難しいだろう。

「旦那様・・・・・本当に無事で・・・・・・」

「これで、やっと平穏にできますね・・・・・・」

 使用人も疲れ切った、しかし確実に安堵の表情で語りかける。メイドなんかは涙を流している。1週間もの厳戒態勢、それが生み出したストレスはモーガンだけでなく、彼の使用人達もむしばんでいた。しかし、それも今日までで終わりだ。

「Mr.モーガン。お待たせいたしました・・・・・ようやく終わりましたよ」

「ええ、ありがとうございます・・・・・・“転生者殺し”の皆さん・・・・・・・」

 目の前で跪き、彼の表情を伺うトーヤに、モーガンは感謝の言葉を伝える。

「お礼といっては何ですが、今宵、パーティを開きましょう。皆さんにも、私の使用人達にも、感謝を捧げたいのです」

「・・・・・・・・・・Mr.モーガン。あなたはまだ・・・・・・」

「大丈夫ですよ、隊長殿。私は少し緊張していただけです。自分のために働いてくれた者相応のもてなしをするのも、クライアントの成すべき義務ですよ」

 よろよろと立ち上がるモーガン。いくらか体調が回復したようだ。

「Mr.モーガン。お気持ちはありがたいですが、今日私は出席するのは無理です。侵入者を早急に本部に送還する必要があります。その引き渡しに自分とエミリアは出席せざるを得ないので、今日の祝宴には立ち会えないでしょう」

「かしこまりました。では、後日あなた方の都合の良い日で行いましょう」

「・・・・・・・どうあがいてもやるんですね」

「ほほほ、当たり前でしょう。何しろあなた方が駆けつけてくれなければ、私はこの世にはもう居ませんでしたから」

 モーガンは、どうしてもトーヤ達「転生者殺し」をもてなしたいらしい。あまり人の多い場所やこういった宴会が苦手なトーヤは、正直げんなりしていた。

「わかりました。ですがメインは私ではなく、エミリアとマナにしてください」

「おや・・・・・なぜですか?」

 モーガンが尋ねると、トーヤはエレベータの入り口の方を見た。槍をぶん投げていたゲイボルグと、地下から這い上がってきたエミリアと楽しそうに、マナが話していた。

「この作戦が滞りなく進められたのは、エミリアが侵入者を一手に引き受けてくれたからです。おかげで万全の体制で迎え撃つことができました。彼女無しでは、撃退さえ難しかったでしょう・・・・・・さらに」

 トーヤ達の視線の先では、拘束された忍を少女達が取り囲んでいた。顔をのぞき込みつばを飲み込んでいるマナ、誇らしげに胸を張っているエミリア、それを見てじったりとした冷ややかな目で見つめるゲイボルグ。その様子微笑ましい様子を、少年と壮年の男性は見守っている。

「マナはつい先日我が組織に入隊した新人で、この作戦が初めての参加なのです。彼女の提案・・・・そして彼女の能力が無ければ、この作戦は成し得ませんでした。彼女がいなければ・・・・・」

 後半こそエミリアやゲイボルグ、その他使用人達が活躍してはいたが、彼女の提案がなければそもそも忍び込んでいた忍を見つけることができなかった。それに、トーヤが言ったとおり最初の任務、しかも何の事前準備も無しに挑んだのも同じだ。にもかかわらず、忍の再発見という大手柄を見せてくれた。現時点での彼女の力量を考えると十分だろう。

「解りました。大部屋にはなりますが、皆様のお部屋の方もご用意いたしましょう。存分に疲れをとってください」

「ありがとうございます。Mr.モーガン。・・・・・・皆、今日はご苦労だった!!クライアントの方から部屋を頂戴することができた!!明日以降は邸宅の修繕に取り組め!!今は休息することを優先するように!!」

 トーヤがパンパンと手をたたきながら、自分の部下達に指示を出す。彼が指示を出すと、騎士達は「おーっ!」と声を上げた。今の格好と合わさって、使用人をとりまとめる執事に見える。そして、トーヤは忍を取り囲む少女達の方に向かった。

「トーヤさん!!」

「隊長!!」

「トーヤ様」

 彼の姿に気づいた彼女らは顔を上げ、若き執事の方に目を向けた。

「ご苦労だった。みんな良くやってくれた。・・・・・・特にマナ、エミリア。お前達が居なければこの作戦は成し遂げられなかった」

「そんなことないです!!トーヤさんこそ、すっごい活躍してたじゃないですか!!」

「まあ、俺は隊長としての務めを果たしただけだが・・・・・・エミリア、明日以降の修繕作業の手引きをしてやってくれ。ゲイボルグも、モーガン氏の健康状態の経過を見ていてほしい。予想以上に精神的に疲弊している」

「ああ。任せた」

「承知しました」

 エミリアは敬礼、ゲイボルグは深いお辞儀で返した。

「あ、あの・・・・・私は・・・・・?」

 マナはおどおどした様子でトーヤに尋ねる。トーヤは彼女の肩を優しくたたいた。

「お前には忍の送還と、その際の報告書の作成に付き合ってもらう・・・・・いいな?」

「はい!!」

 マナは元気よく返事した。









「・・・・・・・・・っと、まあこんな感じで作るんだ」

 トーヤはマナの前で実際に書いて見せた。彼らは「応接室」を間借りして、そこで報告書の作成を実演して見せていた。二人はソファに座り、身を寄せ合っている。

「本来はお前にも試しに書いてもらいたかったが・・・・・今回は急ぎなんで、次回教えるよ」

 トントン、と書類の束を机の上で整える。これと今回捉えた侵入者「浅倉忍」を合わせて拠点に戻るのだ。

「この次は拠点でコイツのクライアントについて聞き出す。そして情報が得られたら・・・・・・・・・・・・」

「得られたら・・・・・・」

 マナはゴクリ、と唾を飲んだ。彼らが「転生者殺し」と呼ばれる、その所以。マナはいよいよそれに携わるのだろうか、と身構えた。

 そして、トーヤが口を開く。








「“エンデ本部”に引き渡して、俺たちの仕事はいったん終わりだな」






「・・・・・・・・・・・へ?」

 マナは素っ頓狂な声を出した。

「何だ?その先の調査もやるんかと思ったのか?」

「いえ・・・・そのまま“ぶっころ”しちゃうのかと・・・・・・」

「お前、案外物騒な発想をするんだな」

 くっころじゃないんだから、と半ばあきれながらトーヤはそんな単語を口にするマナにツッコミを入れた。

「そもそも、今回の事案の本質は“大帝国を代表する要人の護衛および迎撃”という、ギルドの中でも特殊性の低い内容なんだ。“転生者”が今回の刺客だったから俺たちがかり出されただけで、奴の今後の処理は本部の方に決定権がある」

「・・・・・・じゃあ、えーっと・・・・・くらいあんと?の方の情報もギルドの方に聞いた方が・・・・・・・・・」

「本当は任せてもいいんだが、得られるものは得ておきたいし、調べるルートが複数あればそれだけ得られる情報も増えやすくなる。単に情報量が増えるのもいいし、仮に情報がかぶったとしてもそれはそれで確実性を得られる。・・・・・・・それに」

「それに?」

 マナが尋ねるとトーヤはフッ・・・・とあさっての方向を見ると、

「・・・・・・・・ある意味お楽しみが増えるんだよなぁ・・・・・・」

「?」

 トーヤは何やら恍惚の表情で、遠い目をしていた。マナにはその意味がわからなかった。

「さて、とりあえず引き渡しは明日以降だ。それまではゆっくりと休むとしよう」

「はい、そうですね!」

 と、マナが意気込んだ時だった。

「肝心なのは・・・・・・確実に・・・・・じょうほうを・・・・・・」

 トーヤがうわごとのようにつぶやきながら、フーッ・・・・・とマナに寄りかかってきた。

「ふぇっ!?ちょ、トーヤ、さん・・・・・・・?!」

 突然の奇行ににマナが慌てふためくが、その顔をのぞき込むと、

「スー・・・・・・・スー・・・・・・・・」

 と寝息を立てていた。その顔は日中険しい顔をして駆け回っていたとは思えないほど無垢で、中性的なかわいらしささえ感じられるほどだ。

「寝ちゃった・・・・・・・・・」

 思えば、トーヤは昨日からずっと動き続けたままだった。日夜頭を巡らせ、戦闘にも参加し、積極的に魔法も使っていた。心身ともに、疲労がたまっていたのだろう。こうやって見ると、実際の彼はマナとは劇的なほど身長に差の無い少年だった。トーヤは決して低くはない方の部類だが、それでも一般的な15歳の少年と大差ない背の高さだ。普段の彼の振る舞う姿が凜々しいに身長が高く見えたが、そこに居たのは、年相応の少年だったのだ。




 俺はな、いっくら戦ったって「レベルアップ」しねぇんだよ!!目に見えて身体能力が上がるわけじゃねぇし、魔力量だって全然増えねぇし、みんなが普通に使っている魔法や特技だって勝手には覚えられねぇ!!人がやっているのを自分なりに真似て、分析して、それっぽいのを出せるようにして!!ようやく出せるようにしてきたんだ!!




 先日、トーヤが叫んでいた台詞をマナは思い出した。トーヤ自身はフィジカル面で誰よりも劣っている。昼間のパフォーマンスは、彼が丹念に鍛え上げてきた魔力の「操作性」によって発揮されているに過ぎない。でなければエレベータの中をわざわざ魔力で満たすなんて真似はしない。

 この世に出回っている本の中には「努力しすぎた~」と銘打たれている冒険譚が出版されているが、実際「し過ぎる」ほどの努力とは一体何なのだろうか。まだこの世を見切れていないマナには解らないことだらけだ。

 マナは寄りかかるトーヤを無理矢理起こそうとはせず、もう少し彼に寄りかからせることにした。先ほどトーヤにされたように、今度はマナが軽く彼の肩をたたき、

「・・・・・・・・・お疲れ様です」

 とだけ、つぶやいた。








「トーヤ様?もう夜も更けて参りましたので、そろそろお休みになっては_______」

 と、ゲイボルグが「応接室」に入ってきた。トーヤとマナが入ってからずいぶん経つが、一向に出てこないため様子を見に来たのだ。しかし、ゲイボルグはそれを見ると、ふっと微笑んだ。

「もう・・・・・・そんな格好で寝ていては風邪を引きますよ」

 と、ちょうど持っていた毛布を、彼らに掛けた。






 トーヤの様子を見ていたマナも、そのまま眠ってしまっていた。互いに肩を寄せ合い眠る二人は、第三者からしたら恋人同士にしか見えなかった。


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