心が揺れています
奈津子は思わず両手を胸の前で握りしめていた。
なんで黙ってるの?
そう思いながらも、亮が口を開くのが怖い。
逃げ出した。
どこかそんな気持ちにもなっている。
「俺さ……」、亮の視線が奈津子からはなれていく。後ろを振り返るように首を動かしている。さっきまで行っていたはずの駅を見つめている。美貴を送っていったその場所を。
「俺、やっぱり好きだったんだ」
胸が激しく跳ねた。苦しくらいに心臓が動いている。
笑顔で言ってあげなきゃ。それなら告白しちゃえって。それとも、もう告白したの?
亮が向き直った。その顔が微笑んでいる。
告白して成功したそんな顔だ。
笑顔、笑顔、笑顔。どう作ればいいか分からない。簡単なはずなのに。
きっと、ぎこちない顔になっている。でも、これが精一杯。
目に向かって、ダメなものがこみ上げてしまう。
亮が再び振り返ってくれたから、素早く目元をぬぐった。
でも、また……。
亮は同じ場所を見つめている。
「やっぱり、からあげが好きなんだ」
何を言っているのか、よく分からない。頭が上手く回らない。
でも、亮が見つめているのは……。
駅の手前――【ながい】の看板?
向き直った亮の顔に笑みはない。真剣な顔が見つめてくる。視線が落ちそうになる。涙だってこぼれそうなままだ。
それでも奈津子は見つめ返した。
「俺ってほんと鈍いんだ。からあげだって、昔から大好きなんだよ。それを今頃気付いてんだよ。それにもうひとつ。昔から好きなのに」
奈津子は包み込んでいる指輪を強く抱きしめた。
亮がひとつうなずき、
とその時、引き戸が音立てて開いた。




