あの必殺技です
「ここです。ちょっと、もう一回。もっとスローにならない」
浦田はモニター画面を見ながら、放送席近くのスタッフに聞こえるように声を飛ばした。
放送中だが知ったこっちゃない。あの瞬間をしっかり伝えたい。そんな思いだ。
「そうそう、ここです。永井が左のダブルを打つ。これは前と同じです。ここで同じように右、はい、ストップ」
浦田は身振り手振りでその瞬間を再現した。
『ちょっと、浦田さん。テレビ放送には今、浦田さんの声しか流れていないので。言葉で説明していただけると助かるのですが』
言われてみれば確かにそうだ。テレビには目の前のモニターと同じ画面を映っているということだ。
しかも、体を動かしすぎていたので、声もしっかりとマイクに乗っていなかっただろう。
浦田は当たり前のことに、思わず苦い笑いを浮かべた。
「では、改めてここですね。永井が右ストレートを放とうと、右の肩がぐっと前に入った瞬間ですね。竹山の左肩も反応しています。もう一度、巻き戻してください」
VTRが亮の左のダブルからスロー再生されている。
「竹山はダウンを奪った時と同じ、永井の右ストレートの内を抜けて、左のストレートであごを狙おうという体勢に入ったわけです。だけど、ここで永井の体勢を見てください。さらに前方に傾けて、そして、放ったのが左です」
亮は左のダブルの後に、さらに踏み込むように間合いを詰め、左のショートを放っていた。
「スマッシュといわれるフックとボディの間、斜め下から放ったショートレンジのパンチがしっかりとあごを打ち抜いています」
『竹山選手より、さらに速い左があごを捉えたというこですね』
「そうです。竹山も閃光を放つが、さらに光り輝く閃光が走ったということです。まさにフラッシュ。イノシシフラッシュですよ!」
興奮そのままに言い放った言葉に、アナウンサーはきょとんとした顔をしている。
『えーっと、イノシシ……フラッシュですか?』
「そう、イノシシフラッシュです」
アナウンサーが小ばかにしたような顔になっている。




