小学生の頃に遡ります
奈津子が小学校から帰って部屋に行くと、机の上に〝赤い鈴〟が転がっていた。
それを見た瞬間、赤い鈴を握りしめ1階へと下りながら「おばあちゃん!」と叫んでいた。
しかし返事はなく、続けて叫びながらジムへと向かった。
練習生が汗を流すジムにもおばあちゃんの姿はなかったので、練習生に激を飛ばす伝次郎に近づいていった。
「おじいちゃん、チーちゃんのお家は?」
「んっ? あぁ、鳥籠か。あれなら鳥を飼うっていう練習生がいたから、持って帰らせたよ」
その言葉に、奈津子の目から次々と涙があふれ出してきた。
「なんでよ! チーちゃん死んじゃったけど、あれはチーちゃんと私の大事なものなのにどーしてあげちゃったのよ」
泣き叫ぶ奈津子に驚いたのか、ジム内の動きが止まっている。
伝次郎は、何で怒ってんだ、といった感じで困惑顔をしている。
その時、静かにドアが開き、買い物袋を手にしたおばあちゃんが入ってきた。
おばあちゃんは一瞬でジムの空気を感じ、泣いている奈津子に目を向けてきた。
泣きじゃくる奈津子に近づいてくると、腰をかがめ、ハンカチで涙を優しく拭いてくれた。そして、言葉が詰まって上手く説明出来ないのを、ゆっくり待ち、うなずきながら聞いてくれた。
「ごめんね、なっちゃん。おじいちゃん、なっちゃんがそんなに大事にしていた事を知らなかったの。それに貰っていったおにーさん、チーちゃんのお家がどうしても必要で欲しかったんだって。だから、貰えて本当に喜んでいたのよ。ねぇっ、おじいちゃん」
おばあちゃんが伝次郎を見て微笑むと、伝次郎は一瞬キョトンとし、あわてた様子で奈津子を見ながら「そうそう」とうなずいた。
「でも、あのお家にはチーちゃんの想い出がいっぱいあるんだもん。あれがなくなっちゃたらチーちゃんの想い出がきえちゃうもん」
奈津子は下を向き、そう言った。
「そうかな? おばあちゃんはそうは思わないな」
その声に顔を上げると、おばあちゃんはにっこり笑って、
「いーい、なっちゃん。想い出は本当に大切よ。想い出のたくさん詰まった宝物も大切よね。だから大事にしなくちゃダメだよね」
そう言って、赤い鈴を持つ奈津子の手を優しく包んだ。
「でもね。無くなったり、どうしても欲しいって人がいたりしたら、あげる事だってあるかもしれない。今回のチーちゃんのお家も、おにーさんがどうしても欲しくて、新しい鳥さんを入れて大事するって言うからおじいちゃんもあげたのよ。それでも想い出は消えないわ。おばあちゃんの〝ここ〟にはチーちゃんの想い出がいっぱいあるんだから」
おばあちゃんは、胸を軽く叩きながら言った。
奈津子が無言でいると、さらに、
「おばあちゃんはチーちゃんが大好き! なっちゃんもでしょ」
奈津子がうなずくと、
「それなら大丈夫。いつでもチーちゃんのことを想えば、チーちゃんの想い出があふれてくる。なっちゃんがチーちゃんを大好きなかぎり、いつまでも想い出は胸の中に広がってくるから」
笑顔で言うおばあちゃんに、奈津子も笑顔になっていた。
★
奈津子は指輪を拾い上げるとそっと指に通した。
おばあちゃん。おばあちゃんの指輪、私にもピッタリだよ。
指を抱えるように胸の前にもってきた。
おばあちゃん、見ていてね!
リング上へと目を向けた。




