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追い詰められています
奈津子は第7ラウンドを、両手を握りしめながら見つめていた。
亮のパンチは相変わらず届かない。ただただ空を切る。
いつもの亮でないことは奈津子だけでなく、誰もが分かっている。だから、伝次郎やヤマさん、淳史から声が飛んでいる。でも、空気にとけるように亮へは届いていない。
奈津子の声も……。
残り時間も1分を切った時、亮はロープ際に追い込まれ連打を浴びていた。ガードを固めて必死に耐えているが、反撃も出来ないまま打たれ続けている。
このままじゃだめ。亮も自分たちだって。
だから、奈津子は身を乗り出すようにして、体全体を揺らして、リングを叩きながら亮に激を飛ばした。
とその時――首からネックレスがはずれ、指輪が飛び、リング上を2度、3度跳ねて下に落ちた。
床に転がった指輪。
奈津子は指輪を見つめている。指輪も奈津子を見つめている。何かを語りかけいるかのように。




