もうひとり怒っている方がいます
もうひとり〝違い〟を感じている男がいた。
貫禄十分の紳士といった感じの男は、リング上を見つめながら思わず呟いていた。
「おかしいなあ。永井亮はあんなもんじゃないはずだが……調子でも悪いんだろうか」
その言葉を聞いた隣に座るメガネをかけた男はニヤリと笑い、しゃべり出した。
「社長! それは私が――」
男は得意満面の顔で、隣の紳士に木下ジムとの契約を説明した。そして、あの条件も説明した。
とその時
「バカヤロウ! 何をしているんだお前は」
紳士は鬼のような形相で怒鳴った。
そのあまりの迫力にメガネの男も、その横の小柄な男も縮みあがっている。
メガネの男は微かに震えながら、
「いつも社長が一生懸命に甥っ子さんのボクシングを応援していらしゃって、今回の相手は強いから勝つのは難しかも、とおしゃっていたので、少しでもお手伝い出来たらと……」
「ふざけるな!」
紳士はまた怒鳴り、視線をリング上に向けて語り出した。
「お前はスポーツをやったことがあるのか。熱中したことがあるのか。勝つとか負けるとかも大事だけど、それよりも全力で相手にぶつかっていって、相手も全力で応えてくれるのが、うれしくて楽しいんだよ。和人は永井亮の強さを認め、自分の全てをかけて必死に練習してきたんだ。生まれながらのお坊ちゃまのあいつが、なりふりかまわず、鬼のように練習に打ち込んでいたんだよ。楽しくて、うれしくてしょうがないんだよ! あいつのその気持ちも努力も、お前はぶち壊したんだぞ!」




