浦田さんもお怒りです
浦田は解説席でイライラしていた。そんな気持ちを抑えて、冷静に解説を続けていた。
『浦田さん。そろそろ試合も中盤から後半へと向かっていきますが、ここまでの試合をどう見ますか?』
『そうですね。まず武山選手の動きはすばらしいのですが、永井選手の動きがいつもと違って心配ですね』
『いつもと違うとは?』
『まぁ、いままでの相手とはスピードが違いますが、今日の永井選手は〝手打ち〟なんですよ。あれじゃー当たりませんし、当たっても効きません。本来の永井選手はもっと踏み込んで、避けられてもドンドン前に踏み込んでいくんですよ。何て言ったらいいかな……今日の永井は〝気合い〟が足りないんだよ!』
思わず、声を張り上げてしまった。
浦田はデビュー戦から亮を見てきて、最近の成長ぶりに世界も狙えると期待していた。直前スパーリングも見に行き、それは確信に近かった。
また、勝つにも負けるにも前に出て行く、気持ちのこもった戦いぶりが大好きだった。だから、この好敵手武山との一戦を人一倍楽しみにしていた。
だからこそ、歯がゆい。
冷静に解説しなければいけない立場であることは分かっているが、何だか苛立たしくて、つい怒鳴ってしまった。
『まぁ、浦田さんもだいぶ興奮されているようですが、永井陣営から何か情報は入っていますか?』
アナウンサーの問いかけに亮陣営の側に張りつくリポーターの声が返ってきた。
『先ほどのインターバルで会長からの指示は、とにかく前に出ろ、それだけでした。それを聞いた永井選手は、はい、と答えていましたが、呼吸も荒く、かなり苦しそうでした』
『そうですか。ありがとうございました。では武山陣営はいかがですか?』
竹山陣営のリポーターの声が聞こえてくる。
『まず武山選手なんですが、しきりに、違う違う、と呟いていますね』
『違うとは?』
『どうも、試合前に自分が思っていたイメージとは違うということのようですね。ビデオで見ていた永井選手と随分違うと感じているようです。会長からは、違うなら違うでいい。このままのペースでいけば大丈夫だ。チャンスがあれば倒しに行け! と指示が送られました』
『そうですか。ありがとうございました。浦田さん、どうやら武山選手も永井選手がいつもと違うと感じているみたいですね』
『とにかく永井選手のこれからに期待したいです』
浦田は怒りを抑えながら言葉を発した。




