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男たちは満足気です
メガネの男は廊下に出ると、外に向かった。
背後からは会場係員の、時間です、という声が聞える。どうやら、永井たちに声をかけているようだ。
メガネの男は立ち止ることなく、その場を後にした。
ホールの外に出ると、ひとりの人のよさそうな小柄な男が近づいてきた。小柄な男はにやけながら囁いてきた。
「ばあさんの話しがヤツらには一番効きましたでしょ」
その言葉にメガネの男は「確かに」と言って歩きだした。
あいつが負ければ、社長が喜ぶし、俺は出世が出来る。
古くさいやり方だが、これが一番効く方法だと、男は思っている。そして、一代で会社を大きくした社長を喜ばせることが、出世の早道だと。
この時代にゴマすりなんてと笑う同僚もいるが、我が社における創業社長の権限は絶大だ。
メガネの男の表情が緩んでいく。
債権を譲ってくれた金融屋にも、たっぷりお礼が出来そうだ。
思わず笑い声が漏れ、そして、言葉も漏れた。
「負けろよ。永井亮」
横を歩くこいつにも、たっぷりお礼が出来そうだ。
今日は記者ふうのラフな格好ではなく、スーツをきっちりと着こなしている。というより、これが普段の姿だ。
話を聞き出した時に書き込んでいたのだろう。黒い手帳を胸の内ポケットにしまっている。




