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今日は響かないのです
会場の扉の前にやってきた奈津子の耳に大歓声が響いていた。
先に入場した武山和人への声援で会場は爆発寸前のようだ。扉を通して伝わる、その空気に、亮たちは臆することも闘志を燃やすこともなく、ただ立ちすくんでいるように見える。
心がどこかに行ってしまっている。
奈津子も気持ちが集中出来ない自分がそこにいた。
こんなんじゃ、ダメ!
試合だけに全てをぶつけられない自分に、必死に気合いを込め、「淳史! いつものやろう」と言って手を出した。
「おうっ」
淳史が手を重ね、亮、ヤマさんと続いた。そして、最後に伝次郎が手を重ねた時、奈津子は口を開いた。
「とにかく今は試合に集中しよ。ジムのことは試合が終わった後、それから。ねえっ」
みんながうなずき「うっしゃー」と大きな声があがった。
しかし、何故かその声は……響き渡らない。
奈津子は服の上に指輪をそっと出した。試合前にはいつもおばあちゃんに見守ってもらうため服の上へと出している。
いつもはおばあちゃんの笑顔のように輝く指輪が、今日は悲しそうにくすんで見える




