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タッツミー  作者: ゆらゆらゆらり
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ここは立ち入り禁止です

 奈津子は、控室の亮の姿にホッとしていた。

 会場に入る前にテレビ取材があったりしたので、昨日のこともあったし、心配していたのだ。

 でも、改まった取材ではなく、歩いているところに、ひと声かけられただけで、無言でやり過ごしていた。というより、その時から集中している感じで、声も聞こえていない感じだった。


 かわりに奈津子が捕まってしまった。あいかわらずサングラス姿の伝次郎とヤマさんは近寄りがたかったようだ。

 奈津子も「体調は万全ですので、いい試合を期待してください」とだけ言って、その場を後にしていた。


 今、目の前で、亮はヤマさん相手にウォーミングアップをしている。

 適度な緊張感を保ちながら、軽快な動きで、小気味いいミット音を響かせている。まさに、順調そのものだ。

 淳史は、傍らでトランペット片手に満足げに見つめている。


 しかし、伝次郎だけが下を向き椅子に腰かけていた。

 何か気になることがあるのか、昨日からほとんどしゃべらずにいるのが、奈津子は心配でならなかった。


 とその時、ゆっくりとドアが開いた。そしてひとりの男性が入ってきた。

 奈津子は思わず言葉を漏らしていた。「何で……」

 見覚えのある顔。嫌悪感が胸に広がり、

「何ですか、こんな時に。もうすぐ試合が始まりますし、それにここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」


 男性はその言葉にも動じることもなく、冷静な声で

「いえね。うちの会社がこの試合のスポンサーのひとつだって言ったら、周りの人も、どうぞどうぞ、って言うもんで、ちょっと寄らせていただいたんですよ。それに」

 視線が奈津子から離れ、ひとりを捉えて止まった。


 そこには険しい顔がある。

「お前、何しに来た。話しは昨日済んだろ!」

 伝次郎の怒鳴り声にも男性は平然と、

「確かに会長さんに意見は伺いましたが、みなさんの意見はまだ伺ってなかったもんで。試合が終わったらジムがなくなるってことを、試合後にお知らせするのもどうかと思って、それならば今のうちにということで参ったしだいでございます」


 奈津子の胸が大きく波を打った。意味が分からなかった。でも、あるフレーズは、からみつくように、頭に残った――ジムがなくなる。

 体が動く。

「おじいちゃん。ジムがなくなるってどういうこと?」

 詰め寄る奈津子に、伝次郎はただ視線を落とし、唇を噛みしめた。


「おじいちゃん、何とか言ってよ」

 体を揺すって、問い詰めても何も返ってこない。

「どうやら会長さんは説明しづらそうなので、私から説明いたしましょう」

 その声に振り返ると、男性はかけていた眼鏡を手にして、ハンカチで拭いていた。そして、「とりあえず、これを見ていただきましょう」と、いつも手に持っている鞄を開け、A4サイズの書類を長机に置いた。


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