勘違いでも正論
「貴方はっ!?」
この子の名はイブリース。
先日、ルークたちが討伐したはずの魔王だ。
「痛い勇者パーティーの後ろで突っ立っていた奴!」
「待て! 突然過ぎて頭が追い付かない!」
「問答無用です!」
咄嗟にルークはテレポートの魔法を使った。
場所は適当。辺りは長閑な平原が広がっている。
ひとまず安心――
「勝負から逃げるとは何事ですか!?」
「うわぁっ!?」
――とはいかず、魔王が足にしがみ付いていた。
「もう一度聞きます! 勝負から逃げ出すとは何事ですか!?」
「じ、冗談言うな! いきなり目の前に現れやがって、立場を考えろ!」
「だ、だからってテレポートは無いでしょう!? 無視される気持ちが分かりませんか!? この寄生虫!」
ルークの額に青筋が浮かぶ。
彼は思い出していた、魔王の発言を。
――後ろで突っ立っていた奴!
――寄生虫!
彼は魔王の頬を掴むと、むしり取らん力で引っ張る。
「この口か!? この口が俺を無能と言ったのか!?」
「い、痛い痛い! 裂ける! や、やめろーっ! レベルを考えろー!」
「お前こそ、傷口に塩を擦り込んでくれやがって! 恥を知れ! この悪魔め!」
「私、悪魔なんですけどっ!?」
「あぁ、ごめん、ついうっかり」
「ううん、わかればいいの――」
「――って、そうはいくか!」
「うわーん! 何なんですか、この穀潰しはーっ!?」
したたかに自己紹介を終えた2人は、どちらも涙しながら木陰に座った。
傍目には、魔王の方が大ダメージ。
赤くなった頬を両手で擦っている。
「なぁ、お前は死んだんじゃなかったのか?」
先に切り出したのはルークだった。
「勝手に殺さないでくれます? 私、全面的に被害者なんですが?」
「はぁ? 魔王の分際で何を言う?」
「私が魔王? あ……あー、なるほど。ようやく合点がいきました。いやぁ、人間ってアホだと思っていましたが、本格的に救いが無いですねぇ」
「また泣かしたろか?」
ルークは両手をワキワキさせる。
「お、乙女の柔肌を傷付けて誰が喜ぶのです!? 貴方だけですからね、ボッチですからね、その辺をよく理解しなさい!」
「……大人しく事情を話せ。結果如何によっては謝ってやってもいい」
「お、聞きましたよ? 人間風に言えば、汝、その言葉に嘘は無いですね?」
「無いから早く言えっての」
イブリースはコホンと咳払いする。
「痛いとはいえ勇者が乗り込んで来たと聞きまして、私としては、これはもうチャンスだと思いました。幹部に成り上がる絶好の機会だって」
「幹部に……成り上がる?」
「そして行く行くは魔王様の後を継いじゃったりして――なんて考えながら、魔王様の椅子に座っていました。それなのに、侵入と同時に壁をぶち抜いて直進ルートで来たかと思ったら――」
イブの言葉に嘘は無い。
ニルスは彼女であるエルザを何よりも大切にしている。
その彼女がこう言ったのだ。
「はぁ、疲れたから帰りたい」
「この愛に障害があろうか、いや、無い!」
ニルスは壁を破壊し、適当に侵攻。
たまたま玉座の間に辿り着いて、そこに座っていたイブリースを見て、
「そこの美少女、名を名乗れ!」
「美少女だなんて、もー、照れるじゃないですか。私はイブリースって――」
「――だが浮気はせん! 愛の剣で滅せよ!」
「はぎゃーーーっ!?」
一閃の後、魔法で瞬時に撤収した。
これが魔王(?)討伐の真相である。
呆気に取られたルークだったが、何とか尋ねる。
「つまり、魔王はまだ?」
「ピンピンしています。というか、勝手に討ち取られた事になっていて、カンカンですよ?」
ルークは両手を地に着いた。
「すみませんでしたっ! そうだよな、お前みたいに胸の無い小柄な奴が魔王とかあり得ないよな! もっと冷静に考えるべきだった、畜生!」
「ほ、ほっほぉ~? その言い方、凄く胸に突き刺さるんですが? 冒頭以外、ううん、もはや余すところなく誠意が感じられないんですが?」
彼はむくりと顔を上げて失笑する。
「当たり前だろ? だってお前、結局は敵じゃんか」
「うぐ、せ、正論……で、でも、貧乳なんて言う必要ないですよね!? なんで陰湿な精神攻撃を仕掛けるんですか!? 仮にも勇者パーティーの一員なら、もっと正々堂々と来て下さい! この人でなし!」
「お前こそ正論を言うな! この――」
その時だった。
「キャーーーッ!」
女性の悲鳴が木霊した――
2018年8月16日
表現を微調整しました。本編に影響はありません。
2018年12月1日
誤字を修正しました。
2018年12月10日
齟齬のある内容を修正しました。また、一部の表現を修正しました。




