『突然の大掃除と、お食事会』
戦国生活は、つらいんです。
『突然の大掃除と、お食事会』
朝が来た。
小谷山に抱かれた、清水谷の武家屋敷。
爽やかな朝の空気と、柔らかな朝の日差し。
雀のさえずる声で、朝を迎える。
などという事はなく。
「織田の奴らなんて、皆んな斬り殺してしまえばいいんだぁ~」
(ああっ、遠藤様は今日も張り切っていらっしゃるわ。)
朝の鍛錬で、あのように気合を高めていらっしゃるのだ。
(流石に今は、朝倉・六角を斬るわけにはいかないものね。新バージョンだわ)
遠藤長屋は、今日もにぎやかである。
「よう、小谷元気か?」
しばらくして矢野さんが訪ねてきた。いつも元気な人だな~。
「まあそれなりかな」
長政くんの方は、あまり元気がない。というか、眠そうだ。
「なんだい、元気ねえじゃんか?」
長政くんの肩をバシバシ叩きながら、にこやかに笑っている。
「ははは」
長政くんも、ほとほと弱っているようね……。
いま直面している問題があるのよ。
それは、むしよ、虫がいるの。
カナブン・カブトムシから、ハエ、蚊、蜘蛛。
最初はカナブンとか蜘蛛に驚いていたけれど、カナブンなんてもうどうでも良くなったわ。
虫がいる。
最初は蚊に喰われたと思っていたけれど、ノミやダニまでいるみたい。
というか、ノミやダニが、わんさかいるに違いないわ。
かゆい。
とてもかゆい。
「ホント困ったわね」
手持ちに虫刺されの薬がなく、対処のしようがないのよ。
これから蚊が出る季節になるのかと思うと、気が滅入ってしまうわ。
(女の子なので、長政くんみたいに思いっきり”ぼりぼり”できないのよ。困ってしまうわ。)
ああっ、かゆい
とってもかゆい。
困った……。
もう我慢できない。
(ぽりぽり)
「なあ、ねね。何とかならないかな?」
恥ずかしげもなくポリポリ掻きながら、長政くんが聞いてくる。
(ビックリした、見られたかな?)
「仕方がないわ、とりあえず清潔にしてノミやダニがいないように衛生的に保つしかないわ。
まめに洗濯をして、お風呂に入るしかないのよ。文句は、ないわね。
それと、虫刺されの薬を作ろうよ。ドクダミ(十葉)とかアロエ(医者いらず)とか何かあるはずよ」
恥ずかしさのせいで、まくし立ててしまったわ。
「薬か? おうめちゃんか小百合ちゃんに、何かいい薬がないか聞いてみよう」
「それがいいわね。とにかく掃除よそうじ!! 布団も、干しましょう」
「了解っと」
「ウザさんと弓兵衛にも声をかけてくるわね」
「だな、おれ達だけがきれいにしても効果薄いもんな」
寝具のむしろを物干しにかけ棒でパンパンと叩きながら、大掃除大会の開催に賛成してくれた。
「何で、俺たちまで……」
「よくわからないけれど、逆らわないほうがいいんじゃないかな?」
ねねに促され、しぶしぶ大掃除をする右左衛門と弓兵衛だった。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
『戦国クッキング』
小麦粉がある。
そうだ、おやつを作ろう! いや待って、ここは一つ、お好み焼きがいいかな?
小麦粉、OK!
だし、無いよ。
(この際、しいたけでもいいから欲しいわね。煮干しのだしって合うかな?)
塩、少々。
お水、これはOK!
油は、ごま油ね。
そして、キャベツが無いので食用になる菜っ葉を適当に入れましょう。
玉子は、弓兵衛が特別に用意してくれた。
なんの玉子だろう? とりあえず生食じゃ無いからいいか。
鶏肉。 野鳥を弓兵衛と獲りに行ったのよ、すごいでしょ。
そうそう、事の始まりはね、弓兵衛が持っている鉄砲にあったの。
~ 回想 ~
私は、長屋の板の間でゴロゴロしていた。
「暇ね~」
長政くんは、矢野さんとどこかへ行ってしまったわ。
おうめちゃんは、やらないといけない仕事がたくさんあるそうで働きまわっていたし、小百合ちゃんも用事がありそうだった。
女性はみんな忙しいみたい。
それに比べると弓兵衛や右左右衞門はいつも暇そうだわ。
私は暇をもてあましていたから、他の長屋を覗いたの。
弓兵衛の長屋を、そうっと覗いてみると………。
真剣な表情で鉄砲をいじっていたの、火縄銃だったわ。
一心不乱にというか、ひたむきに手入れをしていたので声をかけづらかったの。
プロの職人と云った手つきで、入念に調整をしていたわ。
思わず見惚れてしまった。
「何か?」
顔を向けずに聞かれた
「気づいていたんだ」
「それは、当然です」
まだこちらを向かないで、いじっているわ。
人と話をする時は顔を見なさいって、教わらなかったのかしら。
「何をしているのかなあと思って」
「国友筒の手入れをしておりました」
「国友筒?」 私は首をかしげた
「これですよ」
そう言うと、火縄銃を軽く掲げて、ようやくこちらの方を向いてくれた
「ああ、火縄銃ね」
「そうともいいますね」
「弓兵衛は、上手いの?」
「さあ、どうでしょうか? 私より上手な名人は、たぶん居ると思いますよ」
「そう……」
ああ、会話が途切れそう。どうしよう。
沈黙がやって来そうで困っていると、右左さんが玄関から”ひょっこりと”顔を覗かせた。
「何いってやがる、浅井家家中で弓兵衛以上の火縄の名手はいねえよ」
「うざ、他の御家中には、いるかも知れないじゃないか」
「そりゃそうかも知れねえが、ちったぁ自信を持てよ」
「うざ、慢心は禁物だよ」
「ふん」
腕前を披露しようじゃないかと云うことで、矢場(弓道場)へ行ったの。
的までの距離は思っていたよりも遠かったわ。
(まあ、そうじゃないと戦で使い物にならないでしょうね。)
ふたりとも弓がとても上手だった。
鉄砲を撃つのも見たかったんだけれど、火縄銃の方は、撃つのに許可が要るそうよ、火薬が高いらしいの。
「火薬か~」
でも火薬の作り方なんて、うろ覚えにしか知らないわ。それに、あれをあれだものね、パスしましょ。
それから、的を撃つだけではつまらないと云うことで、野鳥を捕りに行ったの。
遠くまで出かけるのかと思っていたけれど、目的地は近かったわ。
「わあ、いるいる」
なんという鳥かはわかんないけれど、鴨みたいな鳥がそこかしこにいた。
「鳥をとるのに鉄砲を使うのかと思ったわ」
「ご冗談を、先程も言いましたが、あれはとても高いのですよ」
弓兵衛が、やれやれこいつ判っちゃいないなといった風に呆れているよ。
(なによ、鴨とり権兵衛だって鉄砲を持っていたわ。)
弓兵衛達は、弓矢を携えている。
「じゃあ、やっぱり弓矢を使うのね?」
「弓はともかく、矢も馬鹿になりません」
「じゃあ、さ……」
私が話に気をとられていると。
弓兵衛は、石ころを拾って投げようとしていた。
「まさか、それでとれたら世話ないわよ……」
”びゅう~ん” ”がっ” ”ぎゃあっ” ”どさぁっ”
弓兵衛が投げた石は、すっごい勢いで飛んでいって逃げようとしていた鳥を落としてしまった。
……というか、一発で命中?
「それで捕れるって、どんなけよ!」
「まあ、こんな感じです」
鳥さんがかわいそうだったけれど、お肉の誘惑には勝てなかったのよね。
お肉、お肉うれしいな~
あと何匹か仕留めてもらった。
……で、話は戻るんだけれどね。
まあ、鉄砲どころか弓矢さえ使うことなく、石を投げて次々仕留めていたわ。
何この人? 鴨とり名人?
弓矢を抱えていた、右左さんが呆れていたもの。
「ちぇっ、おれの出番なしかよ」
「矢野、矢の無駄だ」
「うふふっ」
本当に弓兵衛って変わっているわね。
捕らえた鳥は、おうめちゃんが捌いてくれたの。手伝えなくてごめんね。
それにしても、何もかも人任せだなあ~。
私も、何かしなくちゃ!
とまあ、そんなわけで。
今日は鳥肉があるのよ。
焼き鳥(塩)と、お好み焼きよっ!
ソースがないのがつらいけれど、そこは我慢しましょ。
赤味噌仕立てよ。
鉄の板を薪で熱して、お好み焼きパーティーが始まった。
「弓兵衛ぇ、右左右衞門~。今日は、お好み焼きだよ~」
冬なら、鴨鍋ですね!
夏なので、お好み焼きパーティーになりました。