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『策士.遠藤直経』

皆さん、遠藤直経は脳筋キルマシーンではありません。



『ねねの就活と端午の節句』


 今日は、端午の節句であるらしい。

遠藤様にお願いされて、侍女見習いとしてお祭りに参加した。

三男、仁兵衛くんのお祝いだそうだ。


「お仕事頑張ろう!!」



- 昨日 -


「ねね殿、長屋での生活はいかがかな?」


「はい、とても難儀しております」

私は、正直に話した。この機会を逃したら、かなりやばいことになると思うの。


「左様であるか、無骨な男どもが長屋におるゆえご不満かな?」

「そうではございませぬが、あまりに以前との生活が異なりますゆえ」

(お願い何とかして~。)


「なるほどのう、ふ~む」

腕組みをして考える遠藤様。


「以前も申した通り、家臣たちの手前もある。そなた達だけ特別扱いは出来ぬ」

「そうですよね。今だってご迷惑をお掛けしているんですもの。なんともなりませんよね」

ねねは肩を落とす。


その様子を見て、気分を変えるかのように直経は膝をぽんと打つ。


「ならこうしよう、仁兵衛の子守と娘の伊音いねの話し相手になってもらえぬか」


「遠藤様の息子さんに娘さんですか?」


「仁兵衛も家族以外の者と触れた方が良かろう。伊音もそちなら異存なかろうて」


「はあ」

どうなんだろう? 私に勤まるのかなぁ。

アルバイトをしたことのない私は、正直なところ戸惑ってしまったわ。


「さすれば、屋敷にて生活をしてもらっても何も問題なかろ……う」


「ご配慮ありがとうございます」

間髪を入れず、五体投地をする勢いでお礼を言ったわ。


「なに、ねね殿が我が家に仕えてくれるのであれば、お安い御用じゃて」



問題が解決したからかしら、遠藤様がにこやかに笑っておられたわ。



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~



 とまあ、そんなやり取りがあったの。


「………というわけで、お屋敷よ。私は帰ってきたわっ!」

長政くんには悪いけれども、あそこは女の子の住むところじゃないわ。

だいたい、男女二人が同じ屋根の下で寝るなんてイケないことだわ。



 遠藤様から渡された着物に着替え、屋敷に参上した。

初顔合わせだ。

(緊張するなぁ~。)




ー 遠藤家お屋敷 -


「今日からお話し相手となります、ねねと申します」

伊音いねです」

「仁兵衛じゃ」


 かわいい、伊音ちゃんは小学校高学年くらいかしら、直経さんに似て活発な子なのかしら。すこし日焼けしているわね。

仁兵衛ちゃんは、ちっこいわぁ~、幼稚園ぐらいかな?


姉の裾に隠れながら、名乗る姿が超カワイイわ。



「よろしくね」

わたしは、抱き上げて頬ずりしたくなるのをぐっと堪えた。



 仁兵衛ちゃんは、今日神社にお参りをするということで、これからお風呂に入るとのことだった。


『お風呂キタ~』


「私がお世話しますっ!」

(ついでに入って良いよねっ! いいよね!!)


わたしは、食いつき気味に立候補した。



 そのあと、すこしばかり嫌がる仁兵衛ちゃんを捕まえて、意気揚々と湯殿へと向かったの。

直経さんの趣味らしく、思っていたよりも立派だった。

岩とヒノキを上手く使っている。隠れた温泉の宿という感じね。


感心しながら、ぬか袋を手に取り入浴のお世話をした。


 仁兵衛ちゃんが赤くなって顔を背けている、おませさんね。

きっちりと磨き上げたあと、ふたりでお風呂に入ったわ。


「ふぁぁ~、いきかえるわ~」



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~



『直経の策略』



 現在、浅井家家中は、織田信長に対抗すべく行動を開始している。

まずは情報を収集しているところだ。

報告によると、信長は京から本拠地のある岐阜へと逃れようとしていることが明らかになった。

畿内の大名・国人の人質を集めつつ、将軍家と帰国に関しての折衝をしているようだ。


その後に入った情報から、

”信長は撤退した軍勢が揃うのを待って、京を離れるのではないか” と予想された。


 浅井家当主である浅井長政は、軍を派遣する意向を示しすでに準備に入っている。

もちろん我が浅井軍をもってして、信長を打ち取るのが本筋である。


遠藤直経はそれに加えて、六角承禎と共謀して信長を討つ算段をした。

信長に追われ、逼塞している六角の残党を信長の足止めにあてるという寸法だ。

これで、信長を取り逃がす危険性が減るであろう。


「信長さえおらねば、織田家はおとなしく美濃・尾張に逼塞するだろう」

直経は、そう確信していた。



 だが直経は、それだけではまだ不足だと考えていた。

この時点では、信長という男の恐ろしさを本当の意味で感じていたのは、おそらくこの直経だけだっただろう。


以前の饗宴の席で長政に信長を討つことを勧めた、直経の嗅覚は群を抜いていた。

念には念を入れるのが直経の信条である。


 この時彼は、信用ができる子飼いの刺客を放つことを考えていた。

「雇ったものではダメだ」 そう確信していた。

そこで白羽の矢が立ったのが、弓兵衛である。


「奴ならば、仕損じることはあるまい」

(これが成功するなら、あの若者を影武者に仕立てることもいらないのだが……)


「それでも万が一、億が一のための算段をせねばならぬ」


どこまでも先を見据える直経であった。


とにかく、ねねという娘を遠藤家の家中に引き入れた。

小谷殿には、うまく首輪を付けることが出来たといえるだろう。



 満を持して、刺客が放たれた。


遠藤の手の者、弓兵衛である。

もうひとりは、六角承禎に雇われた”杉谷善住坊”という者であった。



長政のためには、腹黒にも・非情にも成れるのでした。

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