何を言ってるんだ山峰
山峰悟は世紀末、1999年にS県H市で生まれた。
H市は都会よりの田舎という中途半端な場所で、同時に個性の強い人間が不思議と生まれる場所だった。
それ故か、山峰の育った街からは学者を始め、小説家、俳優など様々な分野で輝く人材が排出されていた。
そしてその特異性は山峰悟にも発現していた。
「人生に必要なのは勇気と想像力だ!」
山峰は偶然教科書で見かけた名言をいつも吐いて回った。
幼少より日常から逸脱したドラマや特撮を好んだ。
平凡な父と母、祖父と祖母を憎んだ。
だがその気概とは裏腹に、山峰本人の能力はさほど高くはなかった。
感情の起伏こそ激しいものの、体力測定では平均水準より若干低めの結果を弾き出す。
作文は特に何の特徴もない文体でつまらない。
絵を描けば初心者を体現させたような線の歪みが恥ずかしいものだ。
大学はDランクという微妙な私立。
山峰はいつしか映画研究会に入っていた。
現実は退屈で、薄汚れていて、薄味だ。
ならば自分の望むものは自分で創る。
山峰は燃えた。
昂った意識の炎は沈下されることなく燃え続け、社会人の歳になっても山峰は映画制作の道を続けた。
創作が出来れば何でもよかった訳ではない。
刺激の強い内容……漫画であれば戦闘描写に重きを置いた漫画を。
巨人に変身した主人公が怪獣を倒すような特撮を。
山峰は求め続けた。
「君の世界は拙いな」
山峰はそれなりに努力を重ねていた。
それはそんな日々の中で打ち付けられた言葉だった。
映画の世界で巨匠と呼ばれるに相応しい男の言葉だった。
要するに山峰の目指す世界は子供の延長でしかないと評価されたのだった。
山峰は巨匠に小道具のハリセンをかまし、その場を立ち去った。
柔く降る雨が肩に当たる。
山峰はふと現実に、無人の東京――の残骸に立つ自分に意識を戻した。
今回の現実は刺激の程良いものだった、と思う。
雨はいつしか小降りになっていた。
芳本はこちらを見上げている。
何故だろう、その顔には憎悪も疑問も感じられない。
芳本は人間だ、そして自分も人間だ。
山峰は思う、すると芳本が再び口を動かした。
「ルラーリは」
「え?」
「ルラーリの場所は……ルドルフさんしか知らない」
何を言うのかと思えば紋切り型なものだった。
山峰は笑った。
この現実から意識を遊離させていたせいか、失笑してしまった。
ルラーリ、永久機関、世界を転覆させる事が出来る――という設定。
彼らはその存在を信じている。
そして自分も信じなければならない。
自分はルラーリを狙う組織、ディマーリのボス、ダランドなのだ。
芳本から感じた神妙さをぬぐい去り山峰は行動を開始した。
「じゃあ、丼作ろうか」




