スリーパー下松
広間は沈黙で満たされていた。
サイボーグだと自称する彼らを下松は攻撃した。
具体的に言えばヘンセイの腕を切り飛ばした。
血は出ない、傷口は機械仕掛けで、配線がもたれている。
一方の下松の腕には櫛が突き刺さっている。
何の変哲もない、木製の櫛だ。
気が付けば腕に突き刺さっていた、櫛。
羽交い締めにされた時のような油断ではない、下松は既に戦闘に集中した状態にあった。
にも関わらず、アリィを気取る事は出来なかった。
アリィは紛れもない強者だった。
「ポンコツの癖に……イモ引くんじゃねぇよ」
挑発。
その瞬間、半壊した窓から光が炸裂した。
壁際から飛び出した影が下松に向かって駆けた。
下松は眩んだ目をそのままにククリを投げた。
ククリは確かな感触を残して対面の壁にめり込む。
ククリナイフは「く」の字型に弯曲した幅広の片手持ちナイフだ。
避けづらく、扱いやすい、下松のお気に入りだった。
「効かないわ」
金髪を散らしてアリィは言った。
ククリはアリィの肩を抉る事には成功していたが仕留めるには至らなかったらしい、アリィはそのまま下松に体当たりした。
「ダランド万歳!」
押し倒された下松にアリィはマウントポジションを取った。
一撃、二撃、……ビンタが下松を襲った。
ただのビンタではない、強化ビンタだ。
高圧ポンプと最新の技術で加速した張り手が下松を頬に直撃する。
攻撃の度に脳が揺れた。
窓の外で再び雷鳴が轟いた。
鼻の奥に血の溜まる感触があった。
顎の骨が傾く感触があった。
少女の顔は恍惚としていて、ヘンセイと同じ歓喜の笑みが漏れていた。
「あなたはここから出さない。
少しの間、眠っててもらう、わ……」
下松は木製櫛をアリィの首元に突き刺した。
驚愕の眼差しが下松を捉えていた。
しばらくして少女の動きは鈍くなり、数分で動きを停止した。
「何なんだこいつらは」
胸を炙られるような焦燥感を抑えつつ、呟く。
停止したアリィを退けると深呼吸をした。
雨はまだ止まない。
櫛を抜いた腕からの出血が止まらない。
下松は壁にもたれた。
雫の音が煩わしい。
雷の音が鬱陶しい。
血の色が……生々しい。
下松は静かに意識を失った。




