第四十四話 英雄王から救世主へ
今日ようやく黒鉄を更新することができました。
お待たせして申し訳ありません。
「おはようございます。陛下」
「いつまでも妾をまたすな。英雄王」
「おはよう正嗣。今日は大変そうだね。
でも頑張ろう」
俺が寮から出てくるのを待っていたかのように、三人の男女が俺の前に現れた。
獅子の頭の青年と銀髪に鳶色の瞳の少女、眠そうな顔をしている青年――
「ああ、おはよう。
レックス、エレミナ、サンドラ今日もよろしくな!」
これも三週間前から毎日の事でいつもの四人に加え、この三人も引き連れて学園に向かうよになっていた。
俺を陛下と呼ぶ。
獅子頭をした青年。
名をレックス・ガオ・アズドレイ。
亜人だ。
十三国の一つ。
亜人国・ガオを治める国の第三王子。
コイツを一言で表すなら。
骨肉隆々。
アシヲスのように英雄王と呼ぶ銀髪の少女は、
エレミナ・ドラグニール・ガイザック。
竜族。
十三国の一つ。竜神国・ドラグニールを治める国の第二王女。
華奢な身体つきだが、ただ単に体が小さく人の姿をしているだけの龍だ。力の制御が出来ていないのかよく物を壊す。
普通に俺の名前を呼んだのは、
サンドラ・アイラス・ベイン
ルスティーナの治める国・バルトに代々使える騎士の家系で長男だ。
ここには騎士になるために来たと言う。
性格は真面目で目標に真っ直ぐ進む奴だ。
この三人の共通点は俺に死前名を預けている事とクラスメイトという点である。
「さあ、陛下。鞄をお持ちします」
「あ、ああ。頼む」
厳つい獅子の顔がニコヤカニ笑う。
正直怖いんだが。
これも最初の頃は断っていた。
だって王子様だぜ? 普通逆だろ。
俺が持とうかくらい言わないとダメな気がする。
でも俺が断るとずっと言い続けるんだよ。
持ちます。お持ちしますよ。
――正直断る事に疲れた俺は最終的に鞄を持たせた。
以来、俺が荷物を持った事がない。
それ以外にも世話を焼いてくれる。
分からず困っていたら、助けてくれる。
ありがたい事だ。
でも、俺はこの親切が最初の頃気持ち悪かった。
「今日は妾と共に大空を堪能するのも良いとは思わぬか?」
「いいかもしれないな。
空なら流石に飛んでは来れないだろ」
「正嗣それ反則だ。
しっかり相手をしてくれ」
七人で談笑しながら学園の門をくぐる。
校舎に向かう生徒達に交じって込み合う、エントランスに向かった。
三週間前に初登校した時は酷かった。
人垣が割れたからな。
三週間たった今では、俺を見て悲鳴を上げる生徒も走って逃げる生徒も地べたに座り込んで命乞いする生徒もいなかった。
俺達は上履きと履き替える。
ルスティーナとはここでお別れて二階へ向かう。
あの子は中等部だから教室が一階なのだ。
二階に着くと三組の教室に向かう。
俺が一年間授業を受ける教室だ。
「じゃあ、マサやん。
実戦演習がんばるんだぞ」
ミリヤとスーヤは四組なので、ここで別れる事になる。
まあ隣だがな。
「スーヤ。アンタも出るんでしょうが。
しかも同じチームでしょ」
「あれ? そうだっけ?」
相変わらず仲がいい双子だ。
教室のドアを開けると静まり返る。
皆俺と目を合わせようとしない。
まあこれは三週間前から何一つ変わらない事の一つでもある。
最初に登校した時なんか悲鳴を上げて、教室から逃げて行く奴もいたから。
少しは慣れてくれているのだろうと思いたい。
俺はいつものように窓側一番後ろの席に腰を下ろした。
席は決められていない。
その時の気分で座る場所を変える事が出来る。
俺を取り囲むように前の席にレックス、右隣にエレミナ、その隣にヤザフ、レックスの隣にサンドラ――
エレミナとヤザフが日替わりで俺の隣を譲り合っていること以外を除けば、毎回このような席順となる。
もう慣れてしまったが。
「前から気になっていたんだが、なんでレックス達は俺を大魔王じゃなくて英雄王って呼ぶんだ?」
そう、俺と同じ人間族からは俺は大魔王と呼ばれ、恐れられているが、異種族は俺を英雄王と呼んで色々と世話を焼いてくれる。
それの天啓がレックスでもある。
「それは陛下が俺達のような亜種族を奴隷階級から解放するために立ち上がった英雄――
いや、救世主だからですよ」
英雄と来たかと思ったら今度は救世主か……
一体何があったんだ?




