第三十五話 伴侶?
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ヤザフは向かってくる武器達に矢の大軍をぶつけて相殺しようとするが、先程と同じく武器に当たる前に矢は次々と消滅。
武器達はその速度を保ったままヤザフへと襲いかかる。
ヤザフは魔弾を連続で放ち、武器達にぶつけて弾幕をはり。
その間、ヤザフは後方へ全力で飛んで逃げる。
その後ろを五本の武器達が追いかけていく。
ヤザフは追いつかれまいとフェイクを織り交ぜながら匠に躱し、魔弾を連射して距離を稼ぐ。
だがそれでも武器達の追跡は振り切れなかった。
ん? ヤザフの奴。
こっちに近づいていないか?
ヤザフは速度を保ったままアシヲスへと突っ込んでくる。
右手には大きな紅く燃え上がるような魔弾。
『操作されている物を壊そうとしてもダメならば、操っている者を倒してしまえばいいだけの話』
アシヲスに向けて右手を突き出し、紅い魔弾を放つ。
ヤザフ会心の一撃にアシヲスは二センチほどしかない黒い魔弾を放った。
『そんな物で僕の魔弾が止められるはずがないだろ!
どこまでお前は僕を侮辱すれば気が済むのだ!!』
ヤザフは勝利を確信したかのように笑っていた。
だが。
黒い魔弾は数倍近い大きさの紅い魔弾をかき消し、その魔力を取り込み大きく膨れ上がった。
直径一メートル程の大きな魔弾をヤザフは正面からまともに受け、空から落ちていく。
『そうか……これは――』
ヤザフは羽を毟られた鳥のように地面へと叩きつけられた。
土埃が舞う。
あれほど強大であったヤザフの魔力はドンドン小さくなっていく。
『序列三位・黒鉄の覇道か――
どうりで僕の覇王の攻撃が通じないわけだ』
視界を遮っていた土埃が晴れていく。
着けていた鎧は失われ、傷を負った状態のヤザフの姿があった。
地面に座り込み、魔力も弱々しい。明らかに疲労しきっている。
よかった。
死んでない。
そんな状態のヤザフを黒い武器達は取り囲み更に抵抗のできない状態にしていた。
剣、刀、槍がヤザフの首に切っ先を向け、斧とメイスはヤザフの頭の上で静止しているのだ。
少しでも下手な動きをすれば殺される。
完全に命を相手に握られた状態に、もはや抵抗すら無意味と言える。
投了だ。
この状態からの巻き返しなど出来るわけがない。
『どうだ? 降参するか?』
『かなり不服だけど、自分の体の状態が分からないほど僕も馬鹿では無い。
ここまで痛めつけられたのは兄上以来だよ』
右手に持っていた細身の剣を地面に置き、アシヲスを見上げる。
良かった。これで――
『虫に負けるなんて屈辱だ――
さあ、僕を殺せ』
え?
いや、なんでそうなるの?
確かに殺されかけたけど。
元々悪いのは俺だしそこまでしなくてもいいんじゃ……
『お前は僕に死前名を名乗っていた。
それは命を掛けるという決闘の証だ。
だからお前には僕を殺す権利がある。
だから――』
『ちっ……。古くせぇな。
そんなの別にいいんだよ。
オレ様が暴れたくて暴れただけだしな――』
どうするんだ?
そう思っていたら、暗闇にアシヲスが現れた。
「後のことは任せる。
よきにはからえ」
「おい。勝手な事を言うな」
暗闇の奥へ歩き去ろうとするアシヲスの肩を掴んで引き止める。
俺だって困る。
ヤザフの命が掛かっているからな。
「まああれだ。
活かすも殺すもお前の自由だ。
オレ様ならこのエルフの戦闘能力を見込んで死前名を奪うがな――」
視界が薄れていく。
目の前には俺の答えを待つヤザフの姿があった。
まったく。
面倒事を押し付けやがって。
微かにヤザフの手が震えているのが解る。
ただの魔力の枯渇なのか、恐怖から来る物なのか分からない。
「俺はお前を殺さない」
確かな声でそう宣言する。
その答えにヤザフは肩を揺すって笑う。
「これほどの屈辱はない。
お前が僕を殺さないのなら……」
細身の剣を手に取りその切っ先を自らの喉へと突き立てる――
「俺はお前を殺さない。
それはお前が自ら命を絶つことも禁じるということだ」
俺が刀身を握り、喉に刺さる少し手前で剣は止まった。
俺はヤザフの目を見ながら言葉をつむぐ。
「俺にお前の死前名を教えろ」
それしか殺さないですむ方法がないんだよ。
だからお願いだ。
死前名を教えてくれ!!
「……アルシア・ベル・モンブラン」
「それが死前名か?」
静かにヤザフは静かに頷く。
よかった。
これで殺さなくて済む。
ん?
なんかヤザフの顔が赤いような……
「肌を見られた上、死前名を名乗らせるなど……
責任はとってもらえるのだろうね?」
責任?
なんの?
あれ、そう言えばルスティーナに死前名の事を習ったな。
あれでは――
死前名を名乗る場合は相手を必ず殺すと決めた決闘。
自分の命を捧げても惜しくない主人に出会えた場合。
それから運命の伴侶に出会えた場合のこの三つ……
曲がりなりにも俺の死前名をヤザフは知っていて、俺もヤザフの死前名を知っている。
「僕――いえ、私はようやく運命の伴侶に巡り合えた」
恋する乙女のような顔で俺を見る。
どうしたらいいの?
俺。
「……伴侶ですて?」
あ、ルスティーナ。
なんでお前がここに?
それにミリヤにスーヤ、爺さんにアグネスまで……
「どうしてここに?」
「時間になっても来ないから気になってきてみたのだけど……
これはどういう事なの正嗣」
これといって指差す先には、先程まで地べたに座り込んでいたはずのヤザフが俺の腕を抱きしめていた。
いつの間に!!




