第二十九話 俺の剣邪と俺の命
「爺さん終わったぞ。
さっさと剣邪とやらを寄こせ」
俺は学園長室に入るなり、爺さんの机に俺の測定結果が書かれた書類を叩きつけた。
爺さんは呑気に茶など啜り、ケーキなんか食っていたからな。
流石にむかっ腹がたった。
「何じゃ騒々しい。
わしの楽しみを奪うつもりか」
棺桶に片足突っ込んだような爺さんが楽しみにしている物なんて食事くらいなのかよ。
俺なら絶対に嫌だな。
このままボケて若い衆が振り回される絵なんて見たくない。
「そんな事より剣邪だ」
「そんな事は言い過ぎじゃろ」
ケーキを食べる手を止め。机に置いてあるメガネを掛けた。爺さんだからな老眼鏡だろう。
俺の測定結果が書かれた書類を手に取り、結果に目を通しす。
「何じゃこの測定不能とは」
やっぱり気になるよな。
「それはね。マサツグが機械を壊しちゃったから測定できなかったんだよ」
「いや、乗っただけで最初の機械は壊れたし。
次に進められた機械は近づいただけで壊れちまった」
俺の答えに爺さんの掛けているメガネがずれ落ちる。
「……うむ。」
爺さんはずれ落ちたメガネを中指で押し上げため息をつく。
そして遠い目をして呟いた。
「一億ゼルドが……」
半ば抜け殻のようになっている爺さんを無視し。
隣に立って爺さんのケーキをパクついているアグネスに声をかけた。
「一億ゼルドっていくら位なんだ?」
「そうだね……多分一生遊んで暮らせるくらいの金額かな?」
……マジ?
それは大事だ。
かわいそうな爺さん。
まあそんな事より。
「おい、爺さん。
呆けるのは後にして俺の剣邪は何処だ」
俺は爺さんの頬を叩いて正気に戻す。
「自分がやった事なのにまるで他人事のようじゃの」
「ああ、俺の腹は全然痛まないからな」
「なんというやつじゃ。
お前にはコイツで十分じゃろ」
汚い布に巻かれた棒状の物を俺に投げてよこす。
俺は落としそうになりながらそれを受け取り汚い布を剥ぎ取る。
中から一メートルほどの鉄の棒が入っていた。
これをどうしろと?
まさかこれが剣邪とか言わないだろうな。
「見た目はただの棒じゃが実は違う。
それは剣邪の元となる地金じゃ。
それにお主の魔力か氣を流し込むと剣邪が完成する。
流し込む時にどのような形状にするかをあらかじめ決めて置けば失敗はせんだろう」
形状か。
俺は鉄の棒を握りしめ集中するために目蓋を閉じた。
そうだな、どうせなら刀が良いな。
黒い鞘に赤い刀身。
長さはそうだな……一五三センチメートルほどかな。
「マーロウ。やっぱり空間移動は難しいね。
測定室に行くはずが更衣室に行っちゃったよ」
「な、何じゃと! そ、そそ、それでどうじゃった!」
ああ、もう煩いな。
爺さんは性に餓えた中学生か!
俺は余りの煩さに目蓋を開ける。
「どうって言ってもな。マサツグならよく見てるんじゃないかな?
下着姿の女の子達に取り囲まれていたから」
適当な事を言うんじゃない。
周りを見て楽しむ余裕なんて一切なかったぞ!
「なんと! このラッキースケベめ。
わしなんかそんなイベント一切起こらんと言うのに……
なんと羨ましい」
「そう言えばエルフのヤザフが居たよ」
そのせいで俺はまた殺されかけたけどな。
それにしても綺麗な肌をしていた。
出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいたからな。
「……それはまずいの。
いや、それはまずい」
羨ましそうにしていた顔が一転。苦笑いに変わる。
どうしたんだ?
「エルフ女性の素肌を見ていいのは婚約者か夫だけじゃ。
それ以外の者が素肌を見たとあっては――」
突然、学園長室の扉が轟音と共に吹き飛んだ。
廊下に立っていたのは誰あろう、今話題に上っているエルフ――
ヤザフだった。
「命は無いの」
呑気に言うな爺さん!




