第三十話 桜花
「ようやく見つけたよ虫……
僕としても、今度と言う今度は許しておけない事だよこれは」
地の底から響くような声が学園長室に響き渡る。
これは本当に腹を決めたほうが良いかもしれない。
ヤザフの纏う魔力の色が赤から更に鮮やかで暗い紅へとその色を濃くしている。
「魔力の色は得意な魔法の色を示しているのだけど。
同時に強い感情も魔力の色として現れる事があるんだよ」
そうだったのか勉強になったぞアグネス。
じゃあ、紅は強い怒りという事か。
怒るというより激怒と言った方が正しいようだ。
少しでもクールダウンしてもらわないとな。
「ヤザフそう怒るな。
見られても減るもんじゃないし、美しい曲線美をしていたじゃないか。
周りにいた女子生徒も中々だったが、ダントツでお前の方が綺麗だったぞ
!」
俺はニッと笑って親指をグッと立てて見せた。
ヤザフの周りを覆う色が更に濃くなり、魔力の質量も跳ね上がった。どういうことだ!?
「何じゃい。しっかり周りも見ておるじゃないか。
それとお主が何処で覚えたかは知らんが、それはエルフの間では「俺の女」を指す合図じゃ」
な、なんだと!!
知らなかったとは言え、火に油を注いだうえダイナマイトまで投げ込んだようなもじゃないか。
プライドが無駄にあるヤザフにこれ以上の屈辱と恥辱は生まれて初めてだろう。
それも毛嫌いしている人間の男にだ。
相手を殺しただけでは多分すまない。
俺の体がグチャグチャになるまですり潰す事だろう。俺の存在を抹消するために。
「学園長。
今からそこの虫を僕が駆逐するので少し騒がしくなると思いますがお気になさらないでください。
直ぐに終わらせますから」
淡々と喋るヤザフに爺さんはコクコク頷くと俺の近くから離れていく。
「健闘を祈っておる。生きて帰ってくるのじゃぞ」
俺の肩を二度叩き学園長室の隅まで移動する。
俺は目の前に居るヤザフに視線を向ける。
ヤザフは耳に着けていたイヤリングを外して制服のポケットに入れる。
次の瞬間――ヤザフの魔力質量が跳ね上がった。
――っ。これはどういうことだ?
「驚いているようだね。
それもそうだろうさ。
僕の本来のクラスは「Aトリプル」魔力強制具を使ってランクを「Bダブル」まで落としていたのさ。
そうしないと周りの物に悪影響を及ぼしてしまうから……
でもお前は全力で殺してやる。
肌を見られた上……
俺の女などと僕を侮辱した事を地獄で悔やんで死ねばいい」
魔力の暴風が学園長室中で吹き荒れ、俺に向けて緑色の魔弾を放つ。
おい、冗談だろなんだよその大きさ!
全て直径五十センチはあるぞ。
弾くことが難しいと判断した俺は、爺さんの机を盾にそれを防ぐ。
魔弾を受け止めたのに穴が開く事はなかった。
案外丈夫だったな。
こんな狭い場所じゃ、爺さんやアグネスに迷惑がかかるよな。
「死んでやれないが。
お前のストレスの捌け口にはなってやるよ。
俺について来い!」
俺はヤザフにそう言い残し、魔弾により破壊された窓から飛び出した。
「ふざけるな!
お前は僕をまだ侮辱したりないのかぁ!!!!」
特大の魔弾が炸裂し、けたたましい爆音が学園中に轟く――
ヤザフは学園長室を吹き飛ばした。
ウソだろ。そんな事も出来るの? お前。
「どこを見ている」
「……お早いおつきで」
苦笑いで一人感心する俺。
何故なら目の前には後ろに居るはずのヤザフがいた。
なぜお前がここに?
お前より早くスタートしたんだよ。
おかしいよね。
「お前に見えなくて当然だ虫。
僕の速さについてこれる者なんてこの学園にはいない」
確かに速さは前にボコボコにされた時に嫌と言うほど味わった。
早いだけじゃなく、その一撃一撃が重い。
もし今の興奮状態のヤザフの攻撃が当たれば俺は確実に一撃で頭を吹き飛ばされるだろう。
それだけは嫌だ。
まだやりたい事は山ほどあるし。
「ヤザフ、お前に見せてやるよ。
俺の力と俺の剣邪を!!」
そうだ。
二日前の俺とは違う、お前との差は埋まったも同然だ。
「だからどうしたというのだろうね?
そんな物を持っただけで強くなれると思ったら大間違いだよ」
どうだろうな。
やってみなくちゃ分からないだろ?
俺は精神を集中する。
俺の思い描く形、俺の理想、俺の夢を手に持ち構えている地金に流し込む。
形状は刀。
その刀に切れない物はなく、刃毀れする事もない強靭さ。
加えてその美しさは陰る事無く輝き続ける。
俺の前に立ちふさがる者を薙ぎ倒し。
俺にただ勝利を捧げろ。
俺がお前に与える名は――
「桜花!!」
俺が名を与えると同時に視界を眩い光によって白く染め上げられた。




