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第十六話 鍛錬

 ルスティーナを送り出した俺は、通常の業務を滞ることなく済ませ。

 寮から歩いて二十分の所にある森の中で自由時間を満喫していた。

 と言っても、昨日出来なかった鍛錬をしている。

 少しでも休むと取り返すのに数日を要するからだ。

 傭兵の資本は肉体だからな。

 常に動けるようにしていないといけないし。

「まあ、今は執事だがな」

 色々あってルスティーナに使えることになったが、執事としての生活も悪くはないと思っている。

 誰かのために生きることも一つも道かもしれない。

 俺は多くの人の命を守るために戦っていた。

 でもこうして一人になって一人の主人に使えてみて俺が思ったことは――

 やりがいがあるという事。

「おお、先客がいたとはな。失礼した続けてくれ」

 緑色の髪に青い瞳をした少女。

 服装は軽装で腰に細い剣を刺している。

 特徴的な部分を言うならば長く尖った耳。

 前にルスティーナが言っていた森の住人と言われるエルフか? 

 初めて見たが、美しいな。

 この場合綺麗だと言った方がいいのか?

 まあ、どちらでも意味はあまり変わらないが。

「アンタも鍛錬に来たんだろ?

 俺に構うことは無いぞ?」

「僕が君のような人間とかい?

 冗談はよしてくれよ。汚れるだろ」

 ……俺の耳はいつからおかしくなったんだ?

 とてもこの子の口から出た言葉とは思えない言葉だったが。

 それともあれか。俺の聞き間違いか?

「聞こえているかいゴミ虫。

 僕は確かに続けろと言ったがそこは止めて帰るところだろ?

 それを……鍛錬にこの僕を誘うっていうの?」

 見下した顔で俺を見るエルフ。

 流石に腹がたつんだが、殴って良いよな?

 はずみで殺してもしかないよね。

「エルフかなんかしらねぇけど。アンタ態度デカすぎだろ、何様のつもりだ」

 これだけは言いたかった。

 言い返さないと何かいけない気がしたんだよ。

「これ以上僕を怒らせないでくれる?

 折角衝動を抑えているのに、歯止めが利かなくなるだろ人間?」

 俺は目の前のエルフの手が微かに動いた事を見逃さなかった。

 少しの動作で投げられた物を回避し、一つだけ取ってそれエルフに投げ返す。

「へえー。目は良いようだ。

 ゴミ虫と言ったが虫に格上げしておこう。

 光栄に思うといい……僕の名はヤザフ・ベル・マリアルフ。

 君を殺す名だ」

 目の前からヤザフと名乗ったエルフは姿を消した。

 どこに行った?

  逃げて帰ったか……いや、それはない。

 あんなプライドの高い奴が逃げるなど。考えられない。

「目は良い見たいだが、障壁は紙屑のように脆いな」

 ヤザフは俺の後ろにいた。

 かなり面白くないモノでも見せられたかのような顔をしている。

 なにが紙屑だって言いたいんだコイツは!

 振り返りざまに右肘で攻撃を加えようとしたが何かに阻まれる――

 それは今朝、ミリヤやスーヤ。ルスティーナの周りを覆っていたものだ。

 たしか、魔力障壁。

 そもそも、これはなんのためにあるんだよ。

 邪魔でしょうがねぇな! お前の顔を殴れないだろーが。

「障壁が見えるようだね。どうやら目はかなりいいようだ。

 だが、それだけじゃ僕に攻撃するなんて無理だよ」

 ヤザフの右足が俺の右脇腹にクリーンヒットする。

 トラックや重機に突っ込まれたような衝撃が俺を襲った。

 俺は地面を二、三回ゴミのように転がるとようやく止まった。

 口に溜まった血を吐きだして、震える足を鼓舞して立ち上がる。

 元立っていた場所から二メートルは転がっているようだ。

「やってくれるじゃねぇか。耳長野郎」

 取り敢えず俺は強がってみた。

 正直、立っているのがやっとだ。

 だが、負けるなんて考えてないぜ。

 なんたって俺はルスティーナの執事だからな!

明日は投稿お休みします。

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