第十五話 死前名
俺の部屋に何の用があるって言うんだ?
ルスティーナはまるで自分の部屋であるかのように俺の部屋に入って行ったが……。
もう少し遠慮して入ってくれてもいいだろ。
「マサツグ。早く入って鍵をかけて」
ドア越しに先に部屋に入ったルスティーナの声が響く。
もう一度言おう。ここは俺の部屋。
ルスティーナは俺の主人だが、この部屋の主人は俺だよ。
俺は部屋に入るとルスティーナが言った通りに鍵をかける。
ルスティーナは俺が鍵をかけた事を確認し、そこで始めてルスティーナは口を開いた。
「はぁ……。マサツグ。
アナタは自分が何を言おうとしたのか分かっていますか?」
ルスティーナはこめかみを押え、少し呆れた顔をしている。
俺はそんなに酷いことを言おうとしていたのか?
それとも死前名ってそんなに大事な物なのか。
価値観が分からないから何とも言えないが……
「死前名。それは前世でのアナタの名前です」
前世? 輪廻転生で言う所のあれか。
でもそれがどうしたって言うんだ?
別に生まれ変わる前の名前だろ。
今の俺に何の関係があるのだろうか。
「訳が分からないって顔をしていますね。
簡単に説明すると死前名を明かされる事――それは死を意味するのです」
死前名を名乗る場合は相手を必ず殺すと決めた決闘や自分の命を捧げても惜しくない主人に出会えた場合、それから運命の伴侶に出会えた場合のこの三つだとルスティーナは教えてくれた。
「まあ、最近では死前名を名乗らない事の方が多いですね。
特に歴史に大きく名を残すようなビックネームであるなら尚更ですよ」
分かる気がするな。
死前名が有名であればあるほど。
その生涯は歴史書に書かれ多くの人に知られている。
簡単に教えてしまえば命を落としかねない。
そう思うとさすがに背筋が寒くなるな。
「じゃあ、ルスティーナにも言わない方がいいのか?」
「そうですね。言わない方が言いでしょう。
私はまだ他人の命を背負うには幼すぎますから」
「そんなに重い物なんだな。死前名ってのは」
「はい。ですからあまり口にしないでくださいね。
私はまだマサツグに死んで欲しくはありませんから」
「まだってなんだよ!」
これは言わずには居られなかった。
だって悲しすぎるだろ。半月もこの子に使えているのに!
これではまるでいつか捨て駒にされるみたいじゃねぇーかよ!!
「いえ、そんなつもりで言ったんじゃないですよ。本当ですてば!」
ルスティーナは流石に慌てて否定していた。
「本当かな。俺、人が怖くなったよ」
「それより、マサツグ。
アナタは私に何か言わないといけない事があるんじゃないですか?」
言わないといけない事はいま言い終わったばかりだが?
何かあったか。
首を傾げる俺を見て、ルスティーナはため息をつく。
「来年度……と言っても明日ですが。
エディウス学園に入学するのですよね?
それを主人たる私に言い忘れるとはどういうことなのでしょう?」
ルスティーナは顔に不満ですと書かれているかのような顔をしていた。
ああ、そう言えば。俺もあの学園に通う事になるんだった。
昨日バタバタしたせいで、そのこと自体忘れていたぜ。
ルスティーナの言う事は正しいが、俺も忙しかったし。
何より君は寝ていたじゃないか。
「いや。昨日話そうとは思っていたんだけどさ。
部屋に行ったらルスティーナ寝ていたから起こすのも悪いと思ってさ」
これは本当の事だ。嘘ではない。
「それに、お腹を出して涎まで垂れている顔を見たら流石に起こせないだろ?」
今度は顔が赤くなっていた。耳まで赤くなっている。
どうしたんだ?
俺はいつもやっている事をそのまま言ったまでだが?
「も、もう学園に行きます。
それから、私が寝ている時はもう入ってこないでください。
これは命令です」
え、どうして?
訳が分からないんだが。
しかもルスティーナの久しぶりの命令をくだされてしまった。
普段は決して命令される事は無いんだがな。
それにしても命令か。
俺への初めての命令は、「死ぬな」だったな。
まあ、仕方ないか。
ルスティーナが嫌がる事をする訳にはいかないからな。
「分かりましたか。マサツグ?」
「分かりました。
それでは就寝されていた場合はあいさつに来ないので――」
「私が寝る前に来てください!」
ルスティーナはそう言い残し俺の部屋から出て行った。
俺は出ていく主人の背に向かっていってらっしゃいと声をかけた。
昨日は更新できなくてすみません。
仕事が忙しくなって更新が滞る事があるかもしれません。




