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第6話 「人参嫌いをなくす方法」

 そこには十歳くらいの少年が映っていた。少年のいる部屋は広くもなく狭くもない真っ白な壁に囲まれた部屋で、少年が座っている椅子と机以外には何も置かれていない。そして彼の目の前にはシチューが置かれている。

 すると撮影をしているらしい人物が少年に、それを食べなさい、と言った。明はその声が、先ほどから明が相談をしている男の声であることに気づいた。

 そして、言われるままに少年はシチューを食べ始めた。二分ほどでシチューを食べ終えたかに見えたが、カメラが皿によっていくと、一種類の具だけがつまはじきにされていることがわかる。

「この少年は私の患者です。これは彼が特殊整形をする前の映像です。ほら、見てください。いくらか具が残っているでしょう?これは人参です。まあお分かりかとは思いますが、彼は人参が嫌いなんです。どんなに細かくして混ぜても、彼は食べません。一口食べただけですぐに気が付いて吐き出してしまいます。筋金入りの人参嫌いです。では続きを見てください」


 いったん画面が切り替わった。しかし画面には先ほどと同じ部屋で同じ少年が映っている。しかし、一つ違っていることは、彼の前に置かれているものは、シチューではなく、皮を剥いただけの生の人参であった。


 そこからの彼の行動は明の予想を見事なまでに裏切った。

 なんと少年はひったくるように人参を取ると、いきなり人参にかじりついたのである!

 その食べ方は飢えた獣のような勢いで、あっという間に人参は少年の胃袋の中に納まってしまったのである。画面中の尋常でない少年の勢いに圧倒されて、明はただただ驚いて、口をぽかんと開けているばかりであった。


「こ、これは‥‥どういうことです?」

 明は数秒後にようやくはっとして、そう尋ねるのが精一杯だった。そんな明を見て佐々木は言った。

「びっくりしたでしょう?彼は私の整形を受けて人参が嫌いという苦しみから解消されました。それどころか人参が大好きになりました。これが私の整形の成果です」

 明は狸にでも化かされたような気分になった。どんな方法を使ったのか知らないが、人間はそんな簡単に変われるものなのだろうか? だいたい手術後の少年の顔つきは尋常じゃなかった。いったいこの男はあの少年に何をしたのか。先ほどまで、遥の傷を消し去ってくれる天使のように見えていた男は、このときの明には、薄気味の悪い魔法使いのようにしか見えなかった。

「その整形とはどんな方法なんですか?いい加減教えてくださいよ‥‥これじゃまるで催眠術を見ているみたいです」

 明がそう言ったのを聞いて佐々木は、ほう、と言い、少し感心しているようだった。

「催眠とはいいところを突いてきましたね。しかし当たらずとも遠からず、ってところですかね。考えてみてください。催眠術は暗示のかかっている間しか効果がないんですよ。それじゃあちっとも苦しみを根本的に解決できてないじゃないですか」

「それじゃあ、どういう方法を使ったんですか!」

 明はだんだん苛ついてきた。

「まあまあ、そう怒らないでくださいよ。今お教えしますから…さてでは、人間に催眠術のような暗示をずっとかけ続けるにはどうしたらいいと思います? もうわかったんじゃないですか?非常に単純なことですよ‥‥」

「わかりませんよ!いいかげんに教えてください!」

明の苛立ちは限界に達した。

「では種明かしをしましょう‥‥マジックと同じで種が分かれば納得ですよ。脳に錯覚を一生かけ続ける方法、それは―」


「脳に直接手術を施すことです。脳の神経細胞などに手を加えることです。これが私の特殊整形、通称、脳内整形です」


「な、なんだって‥‥脳に整形手術をする‥‥そんなばかなことが‥‥」

 明はそれ以上言葉が出なかった。

「一体何がばかなことなのです?私の手術法なら誰でも、どんな悩みでも、簡単に解決することが出来るんですよ。こんな素晴らしい技術は他にはない‥‥」

 そういって佐々木は一人で拍手をした。そして、リモコンを手に取り映写機に向けてボタンを押した。すると壁一面に人間の頭頂部がばっくりと割られた映像が映し出された。明はそれをみて思わずもどしそうになった。

「おっと失礼‥‥初めての方には刺激が強すぎましたね。まあちょっとの間、我慢してください。ごらんの通り、これは脳内整形手術の映像です。そらあんなふうに、脳の器官である海馬をレーザーで局部的にいじったり、前頭葉を針でつついてみたりしましてね。すると手術後に、患者は見えもしないものが見えるようになっていたたり、思い出したくない記憶がなくなっていたり、嫌いなものがどうしようもなく好きなものに変わってしまっていたりするのです。ほかにも様々なことが可能です。まあ、脳のどこをいじればどう変わるのかがわかるのは、世界中でも私だけでしょう。私はこの研究に人生をかけてきたのですから。美容整形を目的とする場合には、自分の姿を見たら脳から快楽物質を分泌されるように手術すればいいわけです。そうすれば必ず自分の姿が大好きになるでしょう? 従来の美容整形のように、手術後に自分の思い描いていた姿とのギャップに後悔するなどといった心配は全くありません。ただ、自分の容姿に酔いすぎて、ナルシストになってしまう心配は多少ありますが。ちなみに、先ほど映像でお見せした少年のときは、彼の脳にある、『人参は嫌い』という記憶をいったん消してから、人参が好きになるように、人参を見たら脳内に快楽物質が分泌されるように脳内整形したんです」

 明は唖然とした。

 狂気の沙汰だ。


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