31年1月◯日
仲良し夫婦になった。文字通りだ。
仲良し夫婦という以外の表現方法は知らない。
料理、ゴミ出し、掃除、洗濯、買い出し、すべて代わりにやってあげたい。一番理想的なのは守護霊のように常に背後にいることだが、そんな贅沢なことは言ってられない。
一番変わったのは妻の方から口づけをしてくれるようになったことだ。
行ってきますの口づけも、お帰りなさいの口づけも、どちらも妻からしてくれる。
お風呂も解禁になった。
家族と同居している手前自粛しようとしていたが、
『あとがつかえてるから一緒に入ってさっさと出てきなさい』
との母の言葉に、妻が目を輝かせてうなづいていた。
母と姉の言葉を素直に、そした盲信的に受け入れているが──悪影響と見るべきか、ナイスフォローと感謝すべきか。
──感謝を表すわけではないが、次の母の日のプレゼントに何か欲しいものがないか尋ねたところ、
「あなたからのプレゼントなんて期待していないわよ。欲しいものなら自力で──旦那に買ってもらうからいらないわ。強いていうなら──はやく孫の顔を見せなさい。ヘタレは卒業したのでしょう!」
容赦なく古傷をえぐってくる。
「私は遠慮しなくてよ。ブランド物のバッグ二つで手を打つわ。私と香澄とのお揃いよ。何か文句ある?」
妻をダシにしているだけのような気がする。とはいえ、妻が愛されていることは誇らしい。二つ返事でOKを出した。
ただ最近、少し妻の様子がおかしい。
今年も二人で初詣に行き。一緒に家族が増えるように願った。
夫婦仲もいい。
あとは時間の問題だと思っていた。
プレゼントの追加を提案して、姉に様子を探ってもらうことにした。
「相変わらずのヘタレね。もちろん追加のバッグも二つよ。わかっているわよね?」
そう言い残して妻を連れて部屋に入ったのだが数秒後に鬼と見間違うほどの剣幕で飛び出してきた。後ろには妻もいる。
「あんた、どういう了見よ! こんなに可愛い私の妹に何の不満があるというの? はっきりしなさい!!」
「落ち着いてくれないかな。言ってる意味がわからないよ。もう少し説明してくれない──」
「浮気よ、浮気。いったい全体、どういうこと。その女、ここに連れていらっしゃい!」
私の言葉をさえぎると、姉が吠えた。
「浮気って何のことだ。私は潔白だ! 香澄以外の女なんて眼中にない」
ためらう暇もない。ちゃんと主張しなければ冤罪のまま罪が確定する。この姉ならばありえる未来だ。
妻が好きだ。大好きだ。離れることなど微塵も考えたくない。彼女の笑顔を見つめていたい。それを涙で曇らせるやつは誰だ!
「本当ですか、旦那さま?」
心配そうに上目づかいで見つめてくる妻が可愛い。神に誓って妻を泣かせるようなことはしていない──嬉し涙はノーカンのはず。
「ああ、本当だよ。どうしてそんな風に思ったんだい?」
妻は周りの人たちから愛され守られて育ってきたために、すべてを素直に受け取る。他人の言葉の裏や真意を汲み取るのが苦手だ。
きっと、何かを誤解しているのだろう。
「最近──旦那さまが優しいです。いえ、いつも優しいですが、それ以上に優しくなりました。きっとやましいことがあるに違いないですわ。
私に飽きたんですか?」
ぶふっ!
どうしてそうなる?
バシッ!
いきなり姉に背中を叩かれる。
「あらあら、お熱いこと。独身には堪えるわ。お邪魔なようだからもう行くわね。約束のバッグ、忘れないでちょうだいね。香澄、この馬鹿が変な反論してきたら、蹴飛ばしてすぐに私の部屋に来なさい。次のいい男探しを手伝うわよ」
「はい、お姉さま!」
両手を胸の前で組んでキラキラした目で姉を見つめている。
ふぅ。
思わずため息が溢れた。
まだ夫婦としての話し合いで足りないものがあったようだ。
腰をおろすと手招きで妻を呼び寄せた。
少しためらっていたがいつものポジション、私の前に座った。
いつものように優しく後ろから抱きしめながら耳元にささやく。
「不安なのかい?」
「はい。正直に言うと不安だわ。とても不安なの。この幸せがいつまで続くかわからなくて不安なのよ──」
「私が心変わりすると?そんなことは未来永劫訪れないから安心しなさい」
どうやらまだまだ甘やかしが足りないようだ。時間はたっぷりとある。手始めに今から思いのたけを語っていこう。
初対面でロリコンかと聞かれた戸惑いや、プロポーズの断り文句に生きた心地がしなかったことなど、とても一晩では語り尽くせそうにない。




